目的阻止
「りゅ、龍太郎さん……どうしましょう……? このままじゃあ、みんなやられちゃいますよ……っ!」
召喚スキルで数体の召喚獣を操っていたユカリが、龍太郎の下に寄って来て心配げな声を上げた。
シュンも、カエデも、セーヴも、ガイズも、そしてアスカも。
相手は一人のはずなのに、一撃を加えることすら叶わない。
それどころか、消耗しているのはこちらだけだ。
「……」
龍太郎は沈黙する。
横で見上げてくるユカリの顔を見ることもなく、ただただ戦場を傍観する。
「フフ、どうした、龍太郎くん。計画が崩れて声も出ないか?」
暗闇の中でもはっきりと目立つ真紅の装備に身を包んだマリオルが、長大な槍を構え直しニヤリと笑みを浮かべた。
「――いや」
そんなマリオルを前にして。
龍太郎は。
「――これでいい。もう既に、準備は整った」
「何……?」
右手を差し出す。
その手には――妖しげな紫の光を放つ半球体が握られていた。
「それは……っ!」
「流石にこれが”何なのか”、あなたには分かるようですね?」
マリオルの表情が僅かに歪む。
対し龍太郎は余裕な笑みだ。
「俺は悪魔族の街で、いや、城で、全てを知った。この世界の正体も、システムも、……そして、あなたの目的も」
「……!」
今度はマリオルが沈黙する番になった。
すると、智代理が声を上げた。
「龍太郎くん……っ。龍太郎くんも、マリオルさんの秘密を……?」
「ああ。……マリオルさん、あなたはこの『魔龍魂』を欲しがっている。何故なら、これはこの世界に生きるあらゆる生物に特別な力を与えることが出来るから――という建前の下、自分の目的を遂行するためにな」
龍太郎は表情一つ変えずに続ける。
「半分になった『魔龍魂』は中途半端な効力しかない。完全になった、一つになった『魔龍魂』は、そう、本当に俺達プレイヤーのように、痛みすら感じない、受けない身体を手に入れることだってできる」
「はは、そうか、既にそこまで……」
マリオルは乾いた笑いを上げた。
……だが。
「そこまで分析したのは褒めよう。……しかし、それを知っていて君達に何ができる? 君達の実力では私には敵わない。ならば、それを晒すのは私が目的を達成しやすくなるだけ……ということになるぞ?」
再び、余裕の笑みを浮かべるマリオル。
――しかし、龍太郎は続けた。
「ええ、確かに俺達はあなたという”プレイヤー”には敵わないかもしれない。けど……」
龍太郎は何を思ったか、手に持った『魔龍魂』を下げ。
――力いっぱい放り投げた。
「なっ!?」
そして、マリオルの驚愕の声と共に。
「……あなたの目的だけは、阻止して見せる。そして、元の世界にも必ず帰る」
ガァン! と甲高い金属音が鳴り響き、『魔龍魂』は粉々に砕け散った。