圧倒的
「全員、散開! マリオルの波動攻撃には当たらないでくれ!」
暗闇の中で轟音と龍太郎の指示が飛び交う。
「フフ、ウォーリアのシュンくん……だったかな? 波動に気を取られ過ぎだ」
「く……っ!?」
真紅に彩られたマリオルから放たれる幾重もの波動攻撃――スキル《タイラント・ウェーブ》を囮に使うようにして、マリオルが波動の中から己の身長程もある長槍をシュンに向かって繰り出す。
――これは、龍太郎の指示が間違っていたわけではない。マリオルの放った《タイラント・ウェーブ》はヒットしたターゲットにしばらく鈍足効果を付与するのだ。
まともに喰らった場合のダメージもさることながら、そこに鈍足効果まで追加されてしまえば、本気の姿を見せているマリオルに瞬殺されてしまうだろう。
「まずは、一人目――」
そうして、波の回避を強制され他の行動が取りづらくなったシュンの体をマリオルの槍が貫いて――
「《ロジック・フレア》ッ!」
マリオルの視界横が、真っ赤に染まった。
咄嗟の判断で槍を引き横へと跳ぶマリオル。先ほどまで彼女がいた位置に細かなブロック状の炎が着弾する。
「《ロジック・フレア》とは、また厄介なスキルを取得したものだ。――カエデくん」
マリオルの望む先にいたのは、杖を持ちながら肩で息をするカエデだった。
「はぁ……はぁ……っ。これくらい変則的なスキルでも使わないと、あなたは倒せない……!」
「そうか。しかし、随分と私を倒すことに執着するようになったんだな? ……私の記憶では、君は悪魔族側についた龍太郎くんを一番敵視していたように思えたが」
「……っ!」
カエデの表情が歪む。
「別に……釘丘を許した訳じゃない。でも、今はあなたが全ての元凶だという判断くらいはできる
。釘丘に償いをしてもらうのは、それからでも遅くはないわ」
「フフ……なるほど。君達は私の思った以上に引き裂かれていないようだ」
含み笑いを浮かべたマリオルの背後に二つ、気配が迫った。
マリオルはそれを”見もせず”、片方の大剣による攻撃を避け、もう片方の刀の一撃を槍で止めて見せた。
「やはり見えているのか、マリオル……!」
「セーヴ、お前には失望したよ。何故私に盾突こうとする?」
「それは……っ」
「――ちょっと貴女、私の攻撃はまだ終わっていないわよ?」
漆黒に白銀が閃く。
それは背後から迫った人影の一つ、セーヴへ話しかけるマリオルの首筋を正確無比に狙う。
「最初の一撃はフェイク……そうか、アスカくん、君は珍しい【ケンゴウ】クラスだったな。《二
の太刀》を選んでくるとは、流石と言ったところだ。……だが」
「っ!?」
アスカはこの時、時の流れがやけに遅いのを肌で感じていた。
時間を操作されているような、不気味な感覚。
そして、滑らせた刀身がマリオルの首を切り裂く――前に。
「そんなたった二段の単調な攻撃が、ユニーククラスを与えられた私に通ると思うな」
【ケンゴウ】クラス、スキル《二の太刀》によって生み出された一撃を受け止めていたはずの槍が
、既に自由の身となっていた。
マリオルは槍を横に倒し、柄の部分で跳び掛かって来ていたアスカの腹部を突いた。
「――がっ!?」
マリオルの反撃を受けたアスカは少し吹き飛んだ後、その場でうずくまり呻いた。
「ア、アスカちゃんっ!?」
目の前でやられた親友の下に智代理が駆け寄る。
「ど、どうして……痛覚が……!?」
「私の《イマジナリィ・ルーム》にそちらから入って来たんだ。それくらいの報復はさせてもらおう」
「姉御……っ!」
ガイズがマリオルに向かって走り出す。
獲物である大斧を豪快に振りかぶり――――
「止まれ、ガイズ。……死にたいか?」
眉間に槍を向けられたガイズは、それ以上マリオルに近付くことが出来なかった。
褐色の肌から覗く力強い視線に全身を動けなくさせられる。
あっという間の出来事。
ここにいる全員、誰一人としてマリオルの動きに付いて行けていない。
8対1。圧倒的な数の利をもって始まったこの戦い、龍太郎達は開始早々で数の利を余裕で覆す力の差を見せつけられたのだった。