悲戦
――光は失せ、何物の存在も無い空間。
――それは、世界の中に生まれた世界。
――理を無視し、あらゆる物理法則までも無視した、禁忌の業。
――それに対抗できるのは、同じく禁忌の力を得た存在だけだ。
「こ、ここは……っ」
目を開けた智代理達の視界に映ったのは、無限に広がる闇だった。
……いや、それは少しばかり語弊があるか。
二つ。暗闇の中で対立する存在がある。
「龍太郎くんっ!?」
「智代理さん、それにみんな……良かった、さすがはエスオさんだ」
暗闇の中にいたのは、龍太郎、そして、マリオル。
マリオルは全身を真紅の装備で包んでいた。
「……そうか。君からエスオの名前が出てくるということは、なるほど」
マリオルは龍太郎と智代理達を見ながら、納得したように目を伏せた。
「ええ、大方はあなたの想像通りです。計画はもう既に見抜いている。あなたに味方はいません」
マリオルは龍太郎の言葉に何の反応も示さない。
ただ黙し、目を伏せるだけだ。
「……姉御」
沈黙が支配する暗闇の中、マリオルを呼ぶ者がいた。
「どうして。いつから姉御はこんなことを考えていたんですか」
マリオルを呼んだプレイヤー――ガイズが、智代理達よりも一歩前に出て、マリオルに問い掛け
た。
「いつから……か。野暮な質問だな、ガイズ。私はずっと、あのお方に救っていただいてから、忠
誠を誓い続けてきた。この世界は、あのお方が理想を叶えるための楽園だ」
「楽園……」
「私は変わっていない。今も昔も、な」
マリオルは目を開けた。
状況は最悪なはずなのに。
残ったプレイヤーに味方はいないのに。
……何故か、マリオルの表情には余裕が見えた。
「さぁ君達、武器を取れ。それがここへ来た目的だろう」
真紅の槍が、鎧が、暗闇の中で陽炎を生み出す。
ゆらめく景色は果たして現実か、虚構か。
計り知れない威圧感が、智代理達の体を強く打ち付ける。
「私の意志か、君達の意志か。勝者は神のみぞ知ると言ったところか。……決着を付けよう」




