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最後の切符

お久しぶりです

 智代理たちがエスオから告げられたのは、なんと、敵である悪魔族の街、エリュガレス周辺の森林の中だった。

 さらに、一旦龍戦士族側の拠点、クリャウに戻るようにも告げられた。

 指定された部屋に行くと、智代理たちと同じく作戦に出ていたはずの――もっと言えば、エリュガレス占領作戦に参加していたはずの――ガイズがいた。


 話を聞くと、ガイズも智代理たちと共にマリオルの下へ行くという。


 実はガイズというプレイヤーは、エスオには及ばないが、マリオルのゲーム仲間としてかなりの古株である。

 特に断る理由もない。だが、何故ガイズは作戦に参加せず拠点に、それも城の中にいたのだろうか。

 智代理はそれを聞こうかとも思ったが、とりあえず胸の内に潜ませることにした。



「……本当にこんなところにいるの?」


 もはや道と呼べるものが無くなってくる程に森の奥までやってきた頃。

 カエデが不審そうにつぶやいた。


「確かに……それに、ここは悪魔族の拠点近くだし……」


 智代理もカエデの言葉に賛同していた。

 薄暗くおどろおどろしい雰囲気を容赦なく醸し出す森林内。少女二人の気持ちに不安の色が現れることも不思議ではない。

 エスオに指定された地点まではもう少しかかる。


「……ところで、ガイズさん」


 ふと、智代理たちの集団の中で言えば前の方を歩いていたセーヴが、最後尾を歩いていたガイズに話しかけた。


「……どうした、兄ちゃん」


 応じたガイズの声はどこか暗かった。


「貴方、僕たちに何か隠しごとをしていませんか?」


 唐突になされたその問いに、周囲の空気が凍り付く感覚がした。

 全員が感じていた、ガイズの違和感。

 誰かが聞くしかなかった。そしてそれが、セーヴの役目になっただけだ。


「……」


 ガイズは黙っていた。それは答えたくない事情があったからなのか、それとも。

 ――それとも、智代理たちを騙すための、マリオルの差し金か。

 智代理たち百鬼旋風の中に緊張が走る。

 しだい、ガイズは重く口を開いた。


「俺は……姉御を信じていたかった」


 悔し気に零されたその言葉は、沈黙の中に落ちる。


「ずっと憧れだった。それは俺だけじゃねぇ、彼女に関わったことのある全てのMMOプレイヤーがそうさ。圧倒的なカリスマ性と実力。目標にするなって方が無理な話だ」


 歩きながら、ガイズは苦しそうに言葉を紡いでいく。


「兄ちゃんたちにはすまねぇと思ってる。けど……」


 ザッ、と、後ろで足の止まる音。

 智代理たち百鬼旋風のメンバー全員は、後方を振り返った。


「……もしかしたら、俺は、あの人を目の前にした時、覚悟が鈍っちまうかもしれねぇ。だから、もしそうなっちまったら……全員で俺をいない者として行動してくれ」


 ガイズは懐からある物を取り出した。

 それは黒い布きれのようなもので、見た目ではなんら変哲もない。

 だが……智代理たちは、それが大いに意味のある物だと勘付いていた。

 気付けば、エスオの指定した地点に来ていた。


「これが、姉御の下へ行く切符だ。エスオさんがくれた……あの人を唯一救えるアイテム」


 ガイズはそれを上に掲げる。

 次の瞬間。

 智代理たちの体は転移した。

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