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非常事態

『――聞こえるか、プランB地点にいる者たち』


 どこからともなく、男性の声が聞こえてくる。


「この声……エスオさん……?」


 智代理を始め、他数人の龍戦士族も聞こえてきた声がエスオのものだと気付いたようだ。


『――そのままで聞いてくれ。現在我が軍は、戦力的に言えば順調に悪魔族軍を攻め立てている。このまま行けば、ガリデルが落城するのも時間の問題だ』


 エスオの朗報に、龍戦士族たちが歓喜に沸く。

 ただ、次に彼が発した言葉で、その空気は一気に凍りつくこととなった。


『――戦況は確かにこちらの有利だ。しかし、向こうには我らが最も警戒すべき司令塔(・・・)がいる。それが今、大きく動いた』


『マリオルの居場所が敵のトップに知られた』エスオの言葉には、そんな意味も込められていた。


「お、おいおい……」

「それって、かなりまずいんじゃないか……?」

「今ってマリオルさん一人だろ……?」


 ざわざわと、凍りついた空気から事態の深刻さに対する会話が漏れ始める。

 少量のざわめきは、重なり合って多量の喧騒へ。

 作戦の半分以上が集まるこの場において、不安が言霊となって広がるのは至極当然であった。


『――だが、恐れることはない』


 しかしそんな不安定な空気を、エスオは一言で一蹴する。

 数多の龍戦士族からも多大な信頼を置かれている彼の発言は、一喜一憂する彼らの心を纏め上げるのに非常に適していた。


『――現時点で、マリオルの無事は確認済みだ。彼女のいる空間は、敵による妨害を防ぐために通信ができないが、しばらくは任せても大丈夫だ。だから我らは、その後のことを考える』


 龍戦士族たちの喧騒が、マリオルや作戦の無事を心配する不安の声から、これから告げられるであろう変更点についての喧騒に成り代わる。


『――今から名を呼ぶ者たちは現在の持ち場を離れ、こちらの部隊が用意した転移場所まで移動してもらう』


 次々と、名前を挙げられていく龍戦士族とプレイヤーたち。それらは総勢で十五名ほどだった。


『――残った者たちは、そろそろ時間だ。街中に出向き、城以外の占拠を進めてくれ』


 龍戦士族たちは一挙に声を揃える。この短時間で悲報を告げたにも関わらず、下がった士気をあっという間に復活させてしまう辺り、さすがエスオといったところであろうか。

 一斉を通した彼の声はそれきり聞こえなくなったが、どうも彼の気配は消えていないようだった。


『さて、百鬼旋風の君たち』

「!」


 そして、智代理たちの耳に、エスオの声が響いた。


『君たちには、マリオルの援護をお願いしたい』

「え、でも……。あの空間に私たちは入れないんじゃ?」


 マリオルは今、スキルによって独自に作り上げた空間(・・)に身を置いている。

 そこから彼女にしかできない重要な役割をこなしているらしく、悪魔族側にその居場所を知られないためにも、その空間との接触はしないようにと強く言われていた。


『ああ、確かに入れはしない。だが……これから俺が指定する場所に行けば、やるべきことは自ずと判断しなければならなくなるはずだ』

「やるべき、こと……」


 エスオの言い方に、智代理はその言葉とは別の何か(・・)が込められていると、勘ぐらざるを得なくなった。

 しかし現状の彼からは確証じみたものは得ることができず、智代理は自分の心中に生まれ出た何か(・・)を訝しむことしかできない。


「行けば……マリオルさんのところに行けば、それが分かるんですね」

『そうだ』


 そう言うエスオの言葉に嘘の色はないと思えた。尤も、彼がそんな不誠実なことをやる人間には思えない。

 智代理は、彼からマリオルの場所の情報を聞き出した。

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