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自信を持つということ

「アスカちゃんッ!!」


 現在作戦に参加している大半の龍戦士族が集まっているこのプランBエリアに、智代理らしからぬ怒号とも取れる声が響いた。

 周囲で武器や防具の軽い調整をしていた龍戦士族たちが驚きに目を見張る。次いで龍戦士族界隈でもその美貌と強気な性格から多くの人気を博すこととなっているアスカが平謝りしている姿に度肝を抜かれていた。

 まさに形無し、といった様子で猛憤する智代理に気圧されている様子のアスカは、それはそれで微笑ましい光景であった。


「どうしてあんな危ないことをするの!」

「いやあれは智代理を助けようと……」

「言い訳は要りません! いくら自分の腕に自信があるからって、もしものことがあったらどうするの!?」

「いや…………ごめん」


 ぷんぷん、と顔を真っ赤に染めて怒りを顕わにする智代理と、必死に先ほどの行動に対して弁解を試みようとするアスカだが、どうやら軍配は修羅のように怒る智代理に上がったようだ。


「智代理さん、もういいんじゃないんでしょうか。アスカさんももう十分反省していると思いますよ」

「そうだな、アスカからしてみれば、智代理に怒られるのが一番効くはずだし」


 智代理のあまりの勢いに見かねたユカリとシュンが止めに入る。

 二人は今回の作戦で、智代理とアスカの関係であるように、同じ配置についていた。

 プランBの発令を聞きうけて、対象部隊であったユカリとシュンもこうしてこの場にいるのである。


「……それじゃあアスカちゃん。もう二度と、あんな無茶はしないって、約束できる?」

「するわ。私はもう二度と、智代理を怒らせたりしない」

「うん。分かればよし」


 それで納得しちゃうかぁ……と後ろ頭を掻いて苦笑する周囲の視線など全く気に止めず、自らの愚行を省みたアスカに智代理は満足そうに胸を張った。

 その張られた胸を見ているような視線のまま、アスカはどこか酔狂じみた笑みをにへらと浮かべていた。


「さてと……俺たちはここで次の命令を待っていればいいのか?」

「う~ん、どうなんだろう。特に言われてないし、作戦が大きいから下手に動くのはダメだよね」

「そうですね~。もしこれがMMORPGなら作戦のリーダー……今回で言うところのマリオルさんの指示がすぐ飛ぶはずなんですが……」


 智代理たちデビルズ・コンフリクトからやってきたプレイヤーたちは、デフォルトで他者との通信機能を持ち合わせている。

 ゲームで言うNPCにあたる龍戦士たちはそれを持っていないわけだが、どうやら『魔龍魂』という存在のおかげでそれに酷似したちからを使えるようだ。

 それに酷似した、とは、すなわちプレイヤーたちが持つスキルのことだ。それは同じく魔龍魂を持つ悪魔族も同じで、先ほどアスカが一刀両断した巨大な火の玉がそのいい例だ。

 周囲を見渡しても当然マリオルの姿は見当たらない。当然といえば当然だ、今回彼女は司令塔としてある場所で指令を出している。ちらほらと一部の龍戦士族がマリオルに通信を試みているようだが、結果は芳しくないと見えた。


(私たち、本当にマリオルさんの思惑を止められるのかな……)


 ふと、智代理は作戦直前にマリオルと言葉を交わした時のことを思い出した。

 挑発的に笑うマリオルの顔が脳裏に映し出される。

 眼帯の奥で光っていたはずのあの獰猛な瞳にあるのは、自分の計画を破綻させようと目論む者に対しての圧倒的なまでの強者の意志。

 負けるつもりなど毛頭ないという、意思表示。


「智代理」


 声が掛かった。それは先ほどまでのぺこぺこと頭を下げ烈火の如く怒っていた智代理を凄んだ少女の声なんかじゃなく、凛とした、普段のアスカの声だった。

 振り向けば、智代理の心の中など軽く見通されてしまうような聡明な瞳が向けられていた。すべてを信頼できる瞳。圧倒的なまでの強者の意志が、確かにそこにはあった。


「アスカちゃん……」


 思わず、泣いてしまいそうになる。彼女の胸に、体ごとすべて沈めてしまいたくなる。自分の取った選択肢が、もし目の前の赤髪の少女だったら、どうしていたか。そんな不毛なことまで考えてしまう。

 少女(ちより)のすべてを見通した少女(アスカ)は、ゆっくりと言葉を紡いだ。


「貴女は強い。強いの。魅力的で、それでいて挑戦的にもなって。私にはとても眩しく見えるわ」

「ア、アスカちゃん……?」


 突然並べられた自分への褒め言葉の羅列に智代理は戸惑う。

 それでもアスカは構わないといったように、風を切るよりも早く次の言葉を送り出した。


「だから、智代理。貴女はそんな貴女の選んだ選択肢に、自信を持ちなさい。もしそれでも自信が持てないというのなら……貴女に自信を持つ私に、自信を持ちなさい」


 いままで散々目の前の少女のことは信頼してきた。自慢の親友だ。

 だから、智代理がどうしようもなく迷ったときはこう言おうと、アスカがずっと前から決めていたことだった。

 親友同士でなければできないこと。"友達"という枠組みから一歩踏み出したところにある世界を共有する二人なら、これほどまでの意思共有もできる。

 智代理は数刻目を見開いたあと、満面の笑みを浮かべた。


「分かった。……ありがとう、アスカちゃん!」


 愛しき少女(神崎智代理)の最高の笑みを間近に受けたアスカは、いつものように緩めた頬を存分に見せるのではなく、どこか達観したような、それでいて智代理の返答など端から分かっていたような笑みを作り、返した。




 プランBエリアにいる全ての龍戦士族及びプレイヤーに一斉通信がなされたのは、それからすぐのことだった。

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