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盾と剣

 とうとう作戦が始まった。

 龍戦士族のほぼ全ての戦力を使い、三方向から取り囲むようにして悪魔族の街エリュガレスを攻め立てる。

 今回の作戦は、この三方向による攻めから展開されていく。


『左翼部隊に告げる。悪魔族の戦力が少しそちらに傾く。引きつけながらプランB地点まで誘導しろ』


 三方向から攻める隊は、今回のために再編成されたマリオルのオリジナル編隊となっている。

 悪魔族の攻撃傾向からして、まず左翼に攻撃が集中するのは予想できていた。

 そのため、左翼と右翼の中間地点に『プランB』として設置型のスキルを置いてあるのだ。


「アスカちゃんっ!」


 智代理とアスカの二人は、今まさに戦力の傾いた悪魔族から逃げる左翼部隊に配属されていた。

 スキル《フェザーウェイト》で身軽になった智代理はアスカの手を引き、まるで宙を駆けるように疾走する。

 走行速度を上げるスキルを持っているのは何も智代理のクラスである【ヴァルキリー】だけではない。ほかのプレイヤーや、プレイヤーと同じ力を使える龍戦士族は各々の手段で走行速度を上げていた。

 最初は手を引いて走っていた智代理だが、そのうちもどかしくなってアスカの膝裏に手を回す。


「ごめんね、ちょっと抱いちゃうっ」


 アスカの膝裏に腕を回し、背中と肩甲骨の間辺りにもう片方の腕を回す。

 いわゆるお姫様抱っこのような体勢になったアスカは、感慨深そうに言った。


「こうして、智代理に抱かれるのも悪くないわね」

「もう、何言ってるの」


 この世界での……というより、デビルズ・コンフリクトからのプレイヤーの筋力は、それぞれのクラスごとで差はもちろんあるものの、大方通常の人間よりも遥かに強い。

 一般的な体格の高校生の少女くらいなら、まるで発泡スチロールを抱えるような感覚で持ち上げることができる。

 後方からは、智代理たち左翼部隊を逃すまいと、悪魔族軍が遠距離攻撃を仕掛けてきている。

 それを必死に避ける。左翼部隊には遠距離攻撃を防ぐスキルを持つ者は配属されていない。マリオルによれば、この後もっと必要な場面があるとのことだった。

 だから、自力で避け続けるしかない。幸い狙われているのは智代理だけではないため攻撃が分散している。音をしっかりと聞いて、攻撃の軌道さえ捉えていれば避けることはそう難しくなかった。

 ……だが、


 ゴウッ。


 襲い掛かって来た攻撃を避けた直後、強烈な音が後方で轟いた。いままで聞いたことのないような音に、智代理は慌てて振り返る。

 目の前には、直径十メートルもあるかのような巨大な火の玉が煌々と燃え盛っていた。


(避けられ……ない……っ!?)


 智代理は咄嗟に進行方向を変える。まっすぐ進んでいた状態から、真横に飛ぶ体制へ。

 これで避けられるという確証はない。でも、このまままっすぐ走って行くよりは生存できる可能性は広がるだろう。

 もしかすると、自分が背後の火の玉の餌食になるかもしれない。

 でも、アスカだけは。アスカだけは助けなければ。

 アスカを守る盾として、彼女に傷ひとつ負わせたくない。

 一陣の風が、智代理の前を過ぎ去った。


「――智代理、そこから動かないで」


 いままで智代理の腕のなかにいたはずのアスカが、いまは智代理と火の玉の間に割って入っていた。

 人が捉えられる限界で動いてみせたアスカ。そんな彼女の背中が届かない所にある気がして、智代理は叫ぶ。


「アスカちゃんっ! あぶな……!」


 しかしその叫びは途中で遮られた。

 何故なら、智代理の腕から離れた赤髪の少女が、いまや眼前にまで迫った火の玉を一刀両断してしまったからだ。

 彼女の持つ太刀に火の粉が飛び移る。それをひとふりで払うと、太刀を仕舞う。

 火の玉が掻き消えた奥には、驚愕の表情でアスカを見る悪魔族の姿があった。


「智代理」


 アスカは名前を呼ぶ。


「私は貴女を……絶対に死なせはしないわ」


 そういう彼女の顔は、言葉とは裏腹に笑顔で満ち溢れていた。

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