赤髪少女の歩む道
「珍しいわね、智代理の方から私を呼びつけるなんて」
「呼びつけるだなんて……そんなつもりじゃないよ」
「ふふ、冗談よ。智代理から歩み寄られているようで、どうやら私は冗談を言うくらいには舞い上がっているようだわ」
城の屋上にて。
アスカは若干頬を紅潮させながらそんな事を言ってみせた。
これから大事な話をするというのに、彼女にしてはかなり珍しい行為だった。
むしろ、智代理のただならぬ雰囲気から既に悟って、緊張をほぐすために言ったのかと勘繰ってしまう。
「本題に、入ってもいい?」
「ええ」
アスカの短い了承を得てから、智代理は話し出す。
「……えっとね、驚かないで聞いて欲しいんだけど。どうやらマリオルさんたちが、私たちプレイヤーを元の世界に戻そうとしていない可能性があるみたいなの」
「へぇ」
勇気を振り絞るように紡ぎ出したはずの智代理の言葉は、アスカの眉一つ動かすことが叶わなかった。
「え? えっと……確かに、驚かないで聞いて、とは言ったけど……そこまで無反応だと逆に……」
「いえ、驚いているわよ。ただ、私もそのことはある程度予想していたから、自分の勘が当たったんだって、ね」
智代理はポカンと口を開けた。
目の前でクスクスと小さく頬を揺らす少女は、あろうことかこのことを予想していたと言ってみせた。
「ちなみに、智代理はどうしてそれを知ったのかしら?」
「それは…………私が、見たの」
ここでシュンの名前を出すのは、彼がアスカに言いたがっていなかった気持ちを無碍にすることだと思えた。
でも、智代理は嘘をつくのが苦手だ。ましてや相手がアスカならば、なおさら見抜かれている可能性はある。
はたして、アスカは屋上から空を見上げた。
「そう」
そして、それだけを言った。
「信じて……くれるの?」
智代理が心配げな顔で思わずそう問うと、アスカはおかしそうに笑う。
「私は、智代理の言うことならなんだって信じるわ」
「で、でも! 私の勘違いかも知れない……よ?」
シュンが智代理に嘘をついていると思いたくはないが、それでも"勘違い"である可能性はまだ十分にあるのだ。
まだ智代理はマリオルに接触していない。だから、彼女の中ではまだマリオルがシュンの言っていたようなことを企てているとは言い切りたくない。
……でも、アスカは言った。自分の勘が当たった、と。
アスカは賢い。よく周りが見えているし、それのおかげで自分の立場と周囲との距離感を上手く測っている子だ。
だからこそ、シュンの言っていたことがますます本当のことだと思えてきてしまう。
自分の目で確かめてもいないのに、まるでそれが拭いようのない真実であるかのように。
「確かめる……んでしょう?」
唐突に、アスカから問われた。
その言葉に、反射的に頷いてしまう。
「だったら、今すぐにでも行った方がいいわ。自分の目で確かめて、判断なさい」
「アスカちゃん……」
もはやこの世の全てがその眼に見えているんじゃないかと疑わせる少女は、柔らかに微笑んだ。
「私は、智代理の選んだ道なら、喜んで歩くわ」