真の目的
シュンが見たという"プレイヤーたちの本当の目的"。
それは、プレイヤーたちが魔龍魂の力を龍戦士族から奪おうとしている、ということだった。
シュンは龍戦士族側に来てからすぐ、城一階のある部屋の前にて聞いてしまったという。
それを、ポツポツと語りだす。
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城の廊下はその時、嫌なまでの静けさに包まれていた。
シュンを含めた百鬼旋風のメンバーは皆、レンバレル森林での龍戦士族との初交戦で、マリオルの手によって吸収された。
断れなかったのだ。それは、自分の意思ではない。何か、特別な力によって"物理的に"マリオルの傍から離れることができなくなっていたのだった。
彼女に「君たちのいるべき場所はそこじゃない」と言われた瞬間、体がまるで石化してしまったかのように動かなくなったのを覚えている。
何故か、智代理だけは彼女に気を失わされていた。唯一反発しそうな人物だから? それはシュンには分からない。多分、他のメンバーに聞いたところで分かる者はいないだろう。
マリオル本人に、直接聞かない限りは。
そして今、シュンはそのマリオルに大きく近づいているようだった。
それに気付いたのは数瞬前。脱出のため、城の構造を把握しようと一階の廊下を歩いていたところ、シュンの耳は部屋の奥から聞こえてくる声を拾った。
「――ああ。どうやら成功した……だ……」
耳が痛くなるほどの静けさを放っていた廊下に落ちたマリオルの声は、やけに明瞭に聞こえた。
シュンは声のする部屋の扉に耳を近づける。
「――ただ、まだひとつだけ……がある……。そう…………確かにな……」
マリオルの口調はまるで誰かと話しているように聞こえる。
しかし、部屋から聞こえるのは彼女の声だけだ。
他に誰かいそうな気配もない。
なら、プレイヤーが持つ通信手段を使って誰かと話しているのだろうか?
それならばいったい誰と。龍戦士族にそれは使えないだろうし、かと言って今はどんなプレイヤーも城の中に待機しているはずだ。話があるならば、直接部屋に呼べばいい。
そこまで思考が至ったところで、マリオルが意味有りげな話を始めた。
「これ……ら、本格……に"魔龍魂"の奪……をはじ……る。……論は?」
扉越しなために途切れて聞こえるマリオルの声の中に、明らかに不穏な単語が混じった。
魔龍魂の奪……まで聞こえたが、もはやここまでくればなんと言っているのか検討は付く。
魔龍魂の奪還、魔龍魂の奪取……いずれも、龍戦士族が持つ魔龍魂という代物を"奪おう"と考えていると見て間違いはなかった。
そしてマリオルは、さらに驚くべきことを口にする。
「私が……影の子の意志を……ぐ。この世界……変える……新しく……造するのだ」
これはもう、言い逃れできない。プレイヤーの機能に録音がなかったことをこれほどまでに悔やんだことはあるだろうか。あったらあったで問題ではあるが……。
ただ今、彼女が言った言葉。これも途切れとぎれではあるが、途切れた部分を予想するのは容易い。
「この世界を変える。私が新しく創造するのだ」。前半の「……影の子」というのは分からないが、後半はこれで間違いないだろう。
つまり、マリオルは、龍戦士族から不思議なちからを秘めた魔龍魂を奪い、この世界を変えようとしている。
元の世界に戻るなんてことは、最初から考えていなかったのだ。