少年が見たもの
「ちょっと、いいか?」
「シュンくん?」
突然、シュンが遠慮がちに智代理の部屋に入ってきた。
百鬼旋風のメンバーは全員、マリオルから一人ひと部屋ずつ与えられており、その部屋たちは横並びで連なっている。
だからあまり孤独感は感じないのだが、それでもシュンは、どこかよそよそしく智代理に接してきている気がした。
「どうしたの?」
「少し……話があるんだ」
シュンはそう言った。智代理はふと、そう言えばシュンとはあまり二人で話したことがないな、と思った。
アスカはもちろん、女子同士としてカエデとも二人だけで趣味の話をしたりもした。
セーヴとユカリは相手が誰であっても分け隔てなく話すタイプなので、もちろん話したことはある。
ただ、シュンだけは無かった。
別に遠ざけているわけでも、遠ざけられているわけでもない。ただお互いにそういう機会が無かっただけなのだろう。
智代理は快く承諾する。
「分かった。えっと……場所変える?」
「いや、智代理が迷惑でなければ、ここで」
「じゃあ、適当に座っちゃってて」
智代理は座っていたベッドから立ち上がると、お湯を沸かした。
この部屋にはある程度の家具一式が揃っている。全てマリオルが指示して用意させたものなのか、今智代理が扱っているポットに始まり、前の世界でも普通にあったようなものが揃えられていた。
「ごめんね、今紅茶しか無くて」
「ああいや、大丈夫。ありがとう」
シュンは智代理に出された紅茶をずずと啜る。
「智代理、紅茶入れるのうまいんだな」
「う~ん、初めて言われたかも」
「そっか」
シュンは、再び紅茶を啜った。二人しかいないこの部屋に、紅茶を啜る音だけが響く。
少しの沈黙。シュンのカップを握った手はテーブルに付かない。もう既に啜る音は聞こえなくなっているのに、シュンの口からカップが離れようとしていなかった。
「シュンくん、もしかしてアスカちゃんが……」
「ぶふぁっ!?」
智代理がそう言った瞬間、シュンの口からカップが解き放たれた。
咳き込むシュン。慌てる智代理。
「えっ、えっ!? だ、大丈夫シュンくん!?」
「ゲホッ……だ、大丈夫……ちょっとびっくりしただけだから……」
「タオル持ってくるね」
智代理はそう言って再び席を立つ。シュンは大きく深呼吸をし、焦った心を落ち着けた。
「ご、ごめん……」
「いいよ。それよりも、大丈夫?」
「あ、ああ……」
タオルを持ってきたあともなお心配し続ける智代理に、シュンは少しやるせなくなった。
「それで……シュンくん、お話って?」
少し落ち着いてから、智代理はシュンが何故か話辛そうにしていたことを聞いた。
シュンは、話をするためにここに来たはずだ。何も冷やかしにだけ来たわけではないだろう。
すると、シュンはおずおずと口を開いた。
「えっと……さ。この後、アスカが部屋に来る予定とか、ある?」
「え? 別にないよ」
何を話すかと思えば、アスカの行方だったのか。智代理は一瞬そう思ってしまった。
しかしシュンのその後の表情を見ると、どうやらそれが本題ではないらしい。ただ、心底安心したように大きな息をひとつ吐いていた。
「良かった……。悪いな、時間を取らせて。それじゃあ、本題に入るよ」
「う、うん……?」
なぜシュンが今の答えに安堵の表情を浮かべたのか智代理にはまったくもって分からなかったが、シュンが本題に入るというのでそちらに耳を傾ける。
そして、万を辞してシュンの口から放たれたのは、こんな言葉だった。
「……俺、見ちまったんだ。龍戦士族の、いや、"プレイヤーたちの本当の目的を"」




