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正しさ

「作戦、ご苦労だった」


 夕方、空が茜に染まった中で、大勢の龍戦士族やプレイヤーたちを前にマリオルが言った。

 第二次作戦は無事成功した。陽動役側が思いのほか悪魔族にダメージを与えてくれたおかげで、本攻めがすんなりと通り、城の内部をかき乱すことができたのだった。

 智代理は一時間ほど前のことを思い出す。

 自分には出来なかった。つい昨日まで仲間といた場所に、手を出すことなんて。

 幸い龍太郎と出くわすことはなかったが、話をしたことがある悪魔族とは何度か出会ってしまった。

 その度に向けられる視線が、智代理の胸に突き刺さった。

 その度に智代理は龍戦士族側にいることを後悔した。

 だから智代理の目には、今こうして大勢の龍戦士族を前に堂々と話を続けるマリオルが、より歪に見えてしまう。

 彼女はこの世界から抜け出そうと考えているんだろうけど、それを言ったら、龍太郎だってそう考えている。

 同じプレイヤー同士なのに、どうしていがみ合わなければいけないんだろう。


「明日からしばらくは休暇とする。各自十分に体を休めて、次の作戦に備えてくれ。作戦が決まり次第、通信主任のダリアスを通して連絡する」


 マリオルはダリオスと呼ばれた龍戦士族に一度目配せをしてから「解散」とだけ告げた。

 今回作戦に参加した龍戦士族及びプレイヤーたちは散り散りになっていく。

 ある者はやり残したことがあるのか城の中へ、またある者は家族の待つ住宅街へ。

 智代理もそれに混ざるように、足を踏み出した。

 すると、


「待ちたまえ」


 マリオルの声が背後からして、智代理の足を止めさせた。

 振り向くと、存外柔和な笑みを浮かべたマリオルが立っている。


「……今日は、済まなかった。君をいきなりあんな大役に選んでしまって」

「いえ、大丈夫ですよ」


 マリオルは智代理の反応を見てか、少し暗くなった。

 智代理には、今のマリオルが智代理の尊敬するマリオルには見えない。

 その少し暗くなった表情も、全て作られたもののように思えてしまう。


「私、よく分からないんです」

「どうした? 急に」


 だから智代理は、あえて近づくことにした。

 今は歪な存在であるマリオルに。その真実を、この目で確かめるために。


「マリオルさんは……本当に、今のこの状況が、正しいと思っているんですか?」

「……」


 マリオルは表情を変えない。黙ったまま、智代理の顔を見据える。

 その裏で、一体何を考えているのだろうか。優秀な彼女は、どんな思いを巡らせているのだろうか。

 果たして、マリオルは、口を開く。


「なぜそんなことを急に聞くのか私には分からないが……これだけは言っておこう。私は最初から、目的もなにも見失っていない。全て正しいと思って、行動してきている」


 智代理はあまりにも自信のあるマリオルのいいように圧倒されてしまった。

 別に彼女に対する疑問が消えたわけではない。ただ、彼女は今、間違いなく自分の意志で動いている。他のプレイヤーのように、自分を見失っていない。

 この感覚はつい作戦前にも感じた……そうだ、エスオだ。エスオからも、マリオルと同じものを智代理は感じた。

 マリオルとエスオ。二人はリアルだと同じ大学の学友であると聞く。

 でも、この二人から感じるものは、特別だ。


「そう……ですか」


 強大な存在を前に、智代理はそれしか返すことができなかった。

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