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「ま、待って!」


 全員がマリオルに集められた大部屋から出ようとしたところで、智代理が声を上げた。

 マリオルは数分前に部屋を出て行っていて、中には龍太郎を除いた百鬼旋風のメンバーだけがいる。


「みんなは、これからどうするの……?」


 智代理は向けられたメンバーの視線に、少し気圧された。どうしようもない感情に、力に引き摺られて、自分たちの意志なんて無視されて従わされているような、そんな瞳。それに智代理は、胸が締め付けられる思いでいた。


「こっちに付く」


 誰かの声がした。それは酷く不明瞭で、個など持たず、この場にいるほとんどの人間の心を代弁したものだった。


「シュンくん……」


 智代理は苦虫を噛み潰したような顔のシュンを見て、智代理はまたも胸を締め付けられた。

 抗えない力に流されるしかなくて、己の小さな考えなど加味もされない。でも、それはこの世界から脱するために必要なことで、心を氷と化させる。

 まるで、"人形"みたいだ。


「いいわ、智代理。行きましょう」

「ア、アスカちゃん……っ」


 みんなシュンのような表情をしているのを見て、アスカが呆れたように身を翻した。

 それを追いかけて智代理も扉へと向かう。扉の取っ手を握る直前、智代理はたまらず振り向いた。何故だか、顔が全て同じに見えた。少なくとも男女で顔の作りが違うはずなのに、今見えるシュン、カエデ、ユカリ、セーヴの顔は、全部が同じに見えた。

 智代理はそれが無性に怖くなって、すがるように部屋を出た。





「アスカちゃんっ!!」


 智代理はアスカの名前を叫びながら部屋を出る。少し先に、足を止めたアスカの姿があった。

 普段は着ないような桃色のフリフリとした可愛らしい部屋着に身を包んだ少女は、いつになく険しい表情をしている。


「みんな、変わってしまったのね」


 物悲しげに、アスカは言う。彼女の赤い髪が、哀愁に揺れた。

 この後は、マリオル率いる龍戦士族プレイヤー混合軍と共に、エリュガレスに攻め込む。

 心の準備はとっくに出来ている。いくら智代理だって、ここまで来て戦いに躊躇いはしない。


 でも……と、少しだけ思う。


 戦いにためらいはしないものの、それは龍太郎を傷付ける理由にはならない。

 智代理は龍太郎と一緒に居たいし、みんなとだって一緒に居たい。

 でも、智代理たちはマリオルから聞いてしまったのだ。

 この世界に転移されたプレイヤーが脱出するには、悪魔族との戦争に勝つこと。

 そしてマリオルたちはそれに向かって、ここまで一丸となって作戦を練ってきたという。


 果たして自分は、どちらを取るべきなのか?


 このまま龍太郎を見捨て、龍戦士族側で悪魔族軍を下すか。

 それとも自分だけでも悪魔族側に戻るのか。


 想いの渦中で、智代理はぐるぐると掻き回される。

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