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追跡者

「――悪い。二人とも、先に城に戻っててくれ」

「ど、どうしたんですか?」


 ハルファスの秘密の場所から出ようと丘を降りたその時、龍太郎が少しだけ険しい顔をしてハルファスとゲンティに言った。

 二人とも一体どうしたのかと、首をかしげている。


「いや、ちょっと俺と話があるやつらがいるみたいなんだ」

「そ、それって……」


 ゲンティは口元に手を当てる。……恐らく、ゲンティは龍戦士族のスパイが近くにいると思ったんだろうが、龍太郎の予想では違った。

 そもそも龍太郎は、見知らぬ相手の気配を察知できるほど鋭い感性は持ち合わせていない。出来てせいぜい、顔見知りでよく話す相手くらいだ。


「……ゲンティ。今はアモン様が強力な結界を街の外に貼ってるから、龍戦士族はここに入れないよ。大丈夫、行こう」

「う、うん……」

「悪いな。この埋め合わせは後でするから」


 事情を察したのか否か、ハルファスが驚くゲンティを引き連れていった。完璧には察していなかったとしても、彼の配慮には頭が下がるばかりだ。

 二人の小さくなる背を見送ったあと、龍太郎は改めて気配のする方を見た。


「……せーヴさん、ユカリ。そこにいるんでしょう」

「ふぅ……よく僕らだってわかったね」

「見つかっちゃいました~……」


 秘密の場所がある丘を降りたすぐ横にある木から、ゆっくりと二人が姿を現す。

 二人は見つかったにも関わらず、特段焦っているような雰囲気は見られない。隠れるということは、何か後ろめたいことがあると思うのだが……


「……それで、俺に何か用ですか? それともカエデみたいに、文句を言いにでも?」


 龍太郎の声音は、気付かぬうちに厳しいものになっていた。

 カエデはシュンとともに武器屋へと訪れていた際、エウリレイの案内で入店してきた龍太郎と鉢合わせた。

 彼女は龍太郎に敵意を示し、強く睨みつけて、龍太郎を拒絶した。

 今回この二人が自分の目の前に現れたのも、自分に対する何か負の感情を持って現れたのだろうと、龍太郎は警戒したのだ。


「カエデくんは……まあ、思うところが色々あるんだろう。それは僕たち全員だってそうだ。……けど、今日ここに僕とユカリくんが来たのはそういうことを言いに来たわけじゃない」

「じゃあ、どうしてここに?」

「んー、単純に君と話したかったから……かな」

「それなら、俺が城にいる時部屋に来てくれればいいじゃないですか。俺たちのそれぞれの部屋は隣り合わせなんです。いつだって来れるでしょう」

「偶然城を出て行く君を見つけてしまったからね。どうせならと思って」

「……それで、こんなストーカーまがいのことをしてたわけですか」


 はぁ、と龍太郎はため息を吐いた。


「ご……ごめんなさい、龍太郎さん。私たち、どうしても龍太郎さんの気持ちを知りたくて」

「……気持ち?」

「はい。……龍太郎さんが本当に、"こっち側"に付くのかって」

「……」


 龍太郎は昨日、百鬼旋風のメンバー全員に、悪魔族に力を貸すと宣言した。

 宣言したあとはすぐに皆の下を離れたため、一人ひとりから真意は聞いていない。

 しかし、シュンとカエデの、特にカエデの反応を見れば答えはわかっている。

 そして今まさに、セーヴも言った。皆、カエデと同じ気持ちなのだ。

 誰一人として、悪魔族に付くことを良しとしていない。

 "自分たちにとって"は、悪魔族はずっと敵だったから。

 でもそれは龍太郎にだって言える。龍太郎にとっては、ずっと、龍戦士族は敵だったのだ。


「……皆には悪いが、俺は悪魔族に付く。この答えは揺るがない」

「龍太郎さん……」

「でも、何も強制じゃない。もし嫌なら…………俺の下から離れてくれても構わない」


 龍太郎はユカリに、そしてセーヴに背を向けて言った。

 言葉を出すのが辛かった。だってもし、龍太郎が今言ったことを意見に反発した百鬼旋風全員が行ってしまえば、龍太郎はまた、一人になってしまうから。

 ……最初に、戻ってしまうから。


「龍太郎くん、それは本気で言っているのかい?」

「……ええ、本気です」

「そうか……」


 セーヴもまた、ため息を吐いた。


「なら、一つだけ言っておくよ。……僕たちは、何も君を全否定するつもりはない。カエデくんだって、多分、いっときの激情に負かされて君にひどい言葉をぶつけてしまった。だから、許してあげて欲しい」

「……いいですよ、別に気にしてません」

「その上で、言っておく。……もし百鬼旋風のメンバーが君の下から離れるようなことになっても、いつかまた、彼らは君の下に戻るだろう。……そろそろ行こうか、ユカリくん」


 背中越しに、二人の足音が遠ざかっていく。迷わずに一歩を踏み出す足音と、時々立ち止まるもう一つの足音。

 でもそれらもどんどん聞こえなくなって、しばらくして、周囲には龍太郎しかいなくなった。


 そろそろ夕方になる。と言ってもこの街の空はいつも黒く澱んでいて、あまり夕方や昼の区別がつかない。

 じきに、この住宅区画には悪魔族たちが帰宅し増えるだろう。今はあまり誰かに会いたくない。



 龍太郎はひとりで、まっすぐ城へと戻ることにした。

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