悪魔の交渉術
大幅に更新遅れて申し訳ありません
「来たか、智代理さんに神森」
「ごめんね龍太郎君、遅れちゃって」
「もう出るのかしら?」
智代理とアスカが、龍太郎に言われていた集合場所に赴いた。
エクライネスの入り口付近に存在する巨大な液晶画面の前だ。
「ああ……それと、二人にはまだ言っていないことが一つだけある」
「え?」
龍太郎のその言葉に、智代理は首をかしげた。
アスカは合点がいった、というような顔をしている。
「あなたの後ろの、そのフードの人ね?」
アスカの言う通り、龍太郎の背後にはフードを深くまで被ってマントを羽織った、得体の知れない人物がいた。
智代理もその人物に気がつき、さらに首をかしげた。
「そうだ、こいつは――」
「――久しぶりだな? アスカ」
バサッとその人物がフードを取り外した時、アスカは目を丸くして驚いた。
「あなたは…………ビレト?」
血色の悪い黒っぽい肌に、額に嵌められた宝石。
それが彼を、かつてアスカと決闘したビレトであると主張していた。
「次の行き先は、こいつが教えてくれるそうだ」
「……ビレトが?」
アスカは龍太郎を見た。
その目は、間違いなく疑心に溢れている。
「相変わらず怖い顔をしているな。……だが安心しろ。俺はただ、お前たちに道を示すべくここへ来ただけだからな」
「ふぅん……」
それでもアスカの目は疑いの色を隠さない。
「実は俺もまだ聞いていないんだ。だからビレト、とりあえずお前が俺たちに示すことを教えてくれ」
「ああ……」
ビレトは頷くと、とんでもないことを言い出した。
「これからお前たちには、俺たち悪魔族が住む街に来てもらう――――」
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「……ちょっと、どういうことかしら?」
アスカがビレトに詰め寄る。
その目はもはや疑心などではなく、明らかな敵意によって染められていた。
「どういうこともなにも、今言ったことそのままだ」
ビレトが龍太郎たちに示したこと。
それは、悪魔族の持つ軍に入ることだった。
「信じられないわね。この世界じゃあなたたちは敵視されているのよ? なのに何故、私たちが手を貸さなければいけないの?」
「ならば逆に聞く。……何故お前たちは俺たちを敵とみなす? この地に昔から住む人間族やもとより敵対する龍戦士族ならともかく、よその世界からやってきたお前たちに、どうして俺たちは敵意を向けられなければならない?」
「それは……」
アスカは言いよどんでしまった。
「お前たちがどういった世界から来たかは知らないが、本来ならば俺たちがお前たちから敵視される筋合いはないはずだ」
「――それじゃあなんで、最初俺たちにあった時いきなり戦いを申し出てきたんだよ?」
アスカがビレトの言葉に反論できずにいると、今度はシュンがそう言った。
「……あれはあの時言ったはずだ。"龍太郎のちからを試すため"だとな」
ビレトは龍太郎たちとのファーストコンタクトの際、そんなことを言いながら決闘を申し込んできた。
「ちからを試す? それの意味が分からない。龍太郎に特別な力があるとでもいうのかよ?」
シュンがそう言うと、
「ああ、その通りだ」
ビレトは何のことなく返した。
「龍太郎には、この世界で長く続く俺たち悪魔族と龍戦士族との支配争いを決着させるちからがある。悪魔族の一部にしか伝えられていない古の日記に、そう記されているからだ」
「古の日記?」
シュンが首をかしげる。
初めて出てきた単語に、全員が首をひねっているようだった。
「それも全て、お前たちが俺たち悪魔族の軍に力を貸すというなら教えてやる」
「……交渉材料に、その日記を使おうってことかい」
セーヴが、明らかな苦言を呈した。
彼にしては珍しく、少し表情が曇っている。
「当たり前だ。俺たちだってこの争いを一刻も早く集結させたい。それに、時間をかければ、龍戦士族は厄介なものを投入してくる」
「へぇ……そこまで話すなんて、そういった意味ではよほど僕たちを信用しているみたいだね」
セーヴが皮肉げに笑う。
「そう思ってくれても構わない。……それに、俺たち悪魔族は今お前たちが一番欲しがっている情報を持っている」
「一番欲しがっている情報だって…………?」
セーヴと同じ反応を、龍太郎たち全員は示した。
それを見たビレトはニヤリと意味ありげに微笑み、こう言うのだった。
「――ああ、お前たちよその世界から来た人間が、元の世界へと帰る方法だ」




