気がかり
――あれから数日が経過した。
商業都市エクライネスは、龍太郎たちが訪れてから今までで一番の賑わいを見せた。
誰も彼もが清々しく晴れやかな表情で、街中を歩いている。
――市長、ガラミアの死。
それが今、この都市をここまで賑やかにさせている原因であった。
数日前、ガラミアはあの洞窟で死亡した。
刃物で心臓部を刺され、ほぼ即死。
刺したのは、洞窟に突如現れた女性の龍戦士族だった。
「……」
エクライネスの一角に立つあるカフェで一人、龍太郎は考え事をしていた。
……いや、悩んでいた。
「――何だ、こんなところにいたのかい?」
突如降ってきた声に顔を上げると、そこにはドリンクを片手に持ったセーヴの姿があった。
目が合うとにっこりと笑い、目で「座っていいか」と問いてくる。
「……どうぞ」
龍太郎が促すと、セーヴは椅子を引いて座った。
持ってきたドリンクに口をつける。
「……っ、ふぅ。ここのお店の一番のおすすめらしいよ、これ。良かったら龍太郎君も飲んでみるかい?」
セーヴは龍太郎にドリンクを差し出してみせた。
「いえ……」
断る龍太郎に、セーヴは眉をひそめる。
「…………龍太郎君、考えるのはいいけど一人で抱え込むのはいけないよ。世の中、完璧な答えなんて一人じゃ絶対に見つけられないんだ。ほら、僕に話してみてよ」
「セーヴさん……」
セーヴの優しさに、龍太郎は今まで考えていたことを口にすることにした。
「……俺、分からないんです。ガラミアを殺してまで、得たかったものがこれなのかって」
ガラミアの圧政から解放された市民たちは晴れやかな顔をしている。
それはいい。
だがその顔が、誰かの死によってもたらされたものであるのは間違いなかった。
「この賑やかさだって、見方を変えればガラミアの死を喜んでいるとも取れる。……いや、大抵の市民がそう思っていると思うんです」
「……ガラミアを殺さずに、この都市を救う方法が何かあったんじゃないかって、そういうことかい?」
龍太郎は頷いた。
しかしセーヴはその頷きを否定するように、こう言った。
「――ガラミアの言葉を借りるようだけれどさ。世の中はいつだって理不尽を叩きつけてくる。ガラミアはその理不尽にただ叩き潰されただけ……違うかい?」
セーヴは真っ直ぐに龍太郎を見つめた。
「それに、厳密に言えばガラミアを殺したのは君じゃない。あの龍戦士族だ」
「それは……」
確かにセーヴの言う通りではあった。
しかし、そうだとしても、龍太郎の心の中に引っかかる"何か"が……
そんな時。
「――久しぶりだな、龍太郎」
低く、そしてどこか聞き覚えのある声が、龍太郎とセーヴの耳に届いたのだった。