洞窟の中で 3
「ふふ、予定通り、といったところですね」
黄金職の大扉を開け、入ってきたのはたった一人の龍戦士族だった。
しかしその龍戦士族は武装しておらず、暗めの赤いスーツを着た、女性龍戦士族だ。
「……よ、予定通り……?」
いましがた女性龍戦士族が発したその言葉に、龍太郎の頭に嫌な予感が走る。
そしてその予感を肯定するかのように、
「クククク……ハハハハハハハハ! そうだ、全ては予定通り! お前たちは俺の手のひらで踊っていただけに過ぎない!」
高らかと、まるで龍太郎たちを見下すように笑い始めるガラミア。
「あなた、今の状況が分かっているの? こちらは全員ほぼ無傷の五人。対しあなた側はガーディアンも倒れ、後から来たあの龍戦士族を含めてもたった二人。それに、見るところ武装もしていない。それでよく笑っていられ……」
「――黙れ、小娘。魔龍魂を破壊したからといっていい気になるなよ?」
ガラミアは不愉快そうに顔を歪めた。
「お前らが特殊なちからを持った存在だというのは十分に理解している。……だがな、世の中とはその程度のちからでどうにかなるほど都合よくできてはいない。常に理不尽な現実を叩きつけてくる」
カツカツと、部屋の中に高い足音が響く。
そうしてガラミアの前に、女性龍戦士族が歩み出た。
「――ガラミア様。破損した魔龍魂を回収させていただきます」
「ああ」
ガラミアは壊れた赤紫の玉を手渡す。
「クク……これで後は任せたぞ……?」
「ええ。――お任せ下さい」
(何だ……何をするつもりだ……?)
龍太郎は頭の中で様々なパターンを考える。
最悪の事態――ギルドメンバーの死を防ぐために、今起こり得るあらゆる事象の対応策を何パターンも思い描く。
――だが。
「……え?」
次の瞬間。龍太郎の目には、予想だにしない光景が映っていた。
「貴……様…………何故……裏切る……!?」
その言葉とともに――先程までこちらを見下すような視線を送ってきたガラミアが、その場に倒れ伏した。
「い、一体何が起こって……?」
よく見ると、倒れたガラミアの下から、赤い液体が流れ出ている。
蒼く輝く台座の上に、鮮血が広がっていく。
「ふふふ……まったく、人間族とは哀れな生き物ですね」
女性龍戦士族の低い笑い声が反響する。
その手には、血塗られた剣が握られていた。
「殺、した……?」
この龍戦士族が?
いや、そもそもこの人物は何者だ?
ガラミアの反応を考えると、彼と敵対していたようには思えないが……。
「……さて、あなたたちとは初対面ですね」
女性龍戦士族はこちらに振り向き、龍太郎たちを見渡した。
龍戦士族特有の金色の瞳が龍太郎たちを射抜くように動く。
そして一通り見渡すと、とんでもないことを言い出したのだった。
「なるほど。あなたたちが"マリオル様"と同じちから持つという方たちですね」