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竜の試練3

 目まぐるしく変化していく戦場。遮蔽物など一切無いただの平地において、範囲の広い攻撃方法や遠方からの攻撃手段を持つものは必然的に有利となる。

 それは、他とは違う特別なちからを持つものであろうが何ら変わることではない。


「ローガスチーム、チーム左端に火炎弾!」


 次の瞬間、イグナートの口から轟々と燃えたぎる巨大な火の玉が打ち出された。

 それは空気を焦がすようにして一直線に進み、今までローガスチームがいた左側付近に着弾した。着弾位置から円形に火の海が広がる。


「気を抜くなよ、次が来る!」


 息もつかせぬ刹那の後、イグナートの口から今度は電撃を伴う球体が二つ打ち出された。

 その球体は追尾するように、最初の火炎弾を避けたローガスチームの現在位置に向かって飛んでいく。


「判っている!」


 ローガスチームのチームリーダーである、ローガスが苛立たしげにそう言った。既にチームを四分割にして回避を始めていた。

 イグナートが放った雷を帯びた二つの球――《電雷球》は、対象を追尾してその対象の足元に着弾する攻撃だ。この攻撃は着弾後の広がり方が火炎弾とは違うため、それを知らないと間違いなく攻撃を受けてしまう。

 その広がり方とは、まずひとつ目が着弾すると、東、西、南、北、というように十字に太い電流が地を這う。二つ目が着弾すると、今度は残りの部分を補うように、北東、南東、南西、北西と、×の字を描くように太い電流が走る。そのため、回避するにはその電流が走る方向に合わせてチームを四分割して回避する必要が出てくる。

 本来この攻撃は一度見てみないと判らない所謂“初見殺し”に当たるのだが、龍太郎はその攻撃のことを【ヘッドクォーター】の情報系スキル《チェック》によって知っていた。よって、今回のような事前の回避が可能となったのである。


「これを避けるとは……お前たち人間族も、なかなかやるようだな」


 イグナートもこの回避には驚いているのか、半ば感心したような声を上げた。

 そんなイグナートに、龍太郎は皮肉げに口元を釣り上げる。


「ふん、そんな余裕をこいてていいのか?」


 龍太郎はイグナートの頭上に横長く表示されている緑色のバー――HPバーを見上げた。

 現在イグナートの生命力を表すHPバーは、七割を保っている。

 減らしたHPの内訳は、最初の飛行能力を奪うまでの行程で五分、その後ビジルチームの怒値(ヘイト)稼ぎのおまけで五分。そして残りはビジルチームを盾にする形でローガスチームが多大なダメージを奪い取って、二割。

 結果、先ほど攻撃の対象になったように、ビジルチームの稼いだ怒値(ヘイト)をローガスチームが上回ってしまった訳ではあるが、おかげでどれほどのダメージを与えればターゲットが動くのかがわかったため、その必要経費にしては上々と言えるだろう。

 しかし、残り七割のHP。通常ゲームで出てくるボスキャラというのは、HPの減り具合で攻撃パターンを変えてくるものだ。

 龍太郎の脳裏にそんな予感がよぎると同時に、眼前の赤道色の竜は空気を揺るがす雄叫びをあげた。



                ▼▼▼

 


 イグナートは、十メートルもありそうな屈強な尻尾を高らかに振り上げると、そのまま地面を叩きつけた。

 その衝撃で地表は砕け、いくつかの石塊に変化する。


「来たかっ!」


 HPが七割を切ったことにより、イグナートの攻撃ルーチンに変化が生じたのだ。

 しかしそれは、手元のメニューパネルに表示された《チェック》のおかげで把握済みである。


「全員、ビジルチームの後ろに!」


 龍太郎の声に応じ、兵たちが素早く動く。

 次の瞬間、イグナートはその巨大な尻尾を使い、飛び散って宙に浮いた石塊をノックのように打ち込んできた。


「さあみんな、出番だよーっ!」

 

 最後方に待機していたユカリがレイピアを掲げて声を張り上げる。すると、ユカリの足元に四つの魔法陣が描かれ、そこから四体の召喚獣が姿を現す。

 出現した召喚獣は、怪猿(コング)型が四体。それぞれ出現と同時に、向かってくる石塊の雨と龍太郎たちの間に立つ。


「頑張っちゃってー、お猿さんたちー!」


 飼い主であるユカリの一声を聞いた召喚獣たちは一斉に雄叫びをあげ、それぞれ飛んでくる石塊を受け止めたり殴って砕いたりして、石塊が龍太郎たちに被弾するのを防いでいる。

 数分の後、石塊の雨は止み、結果龍太郎たちの体に傷が付くことはなかった。



                ▼▼▼



 それからさらに時間が経過した。

 上空がイグナートの放った境界により赤く染まってしまっているため正確な時刻は判らないが、おそらく開始から二時間以上は経過しているだろう。本来、一般の兵の体力で古代竜と呼ばれるような未知の生物と長時間戦闘することは身体に想像以上の負担を掛けているはずなのだが、今の彼らは、あろうことか全く逆の状態にあった。

 息を乱している者は殆どおらず、軽めの運動をした後のような表情をしているのだ。

 そしてそれは、この集団を指揮している釘丘龍太郎の手腕に他ならない。全体の疲労度を逐一意識し適切なタイミングで戦闘メンバーを入れ替え、回避は《チェック》によって仕入れた情報を元に細かく指示し、メンバーの体力を考慮したうえでの最低限の回避方法を取る。


「現行のビジルチーム、拡散して防御体制! レッチスとシャウナ、セーヴさんはターゲットの左側、ビジルとガーナ、ロイムスは右側へ! それ以外は後方退避! 距離は三十メートルは取れ! 回避後、レッチスとロイムスは一旦撤退、体力を温存しろ!」

 

 龍太郎の言葉に従い忠実に配置を変えるビジルチームのメンバーたち。

 直後、上空から隕石が五つ飛来した。それは今までビジルたちがいた場所へと的確に墜落する。その衝撃で墜落した周囲の地表にクレーターが出来上がった。


「はぁ、はぁっ。……龍太郎くん、僕は彼らみたいに機械的に動けないんだ! そこをしっかり……!」

「判ってますよ。セーヴさんなら絶対に避けてくれるってことをちゃんと考えに入れて回避方向を考えてます。」

「いや、そういうことじゃ……ああ、もういい! 攻撃再開するよ!」


 セーヴは息を切らしながら前を向き、攻撃の硬直で動きが鈍っているイグナートに再び攻撃を始めた。

 ビジルたちのような元からこの世界に居た者たちは、ある条件下でまるで機械かと思うほど忠実に龍太郎の命令を聞く。それはもちろん本人の体力や知力を基準にしての忠実さではあるが。

 その条件とは、スキル、《キープ・ザ・アームドフォース》の使用である。

 このスキル、常時発動型という特殊な種類に別されるスキルで、一度発動したらその後意図的に発動を解除しないとMP上限を減らして永遠に発動し続けるというものである。

 《キープ・ザ・アームドフォース》の効果は、チームの陣形を視覚的に把握、変更。指定したキャラクターとの通信、そして、NPCへの指令。これらは全て、NPCに対して行うことのできる行動である。

 龍太郎はデビルズ・コンフリクト時代、このスキルを駆使して自らの兵でもあった悪魔族たちに指示を出していた。

 そして今、この異世界レーリレイスに来た後は、この世界の原住民に対して行使が出来た。それはつまるところ、龍太郎の視点から見てこの世界に住まう者たちが、デビルズ・コンフリクトに住まっていた者たちと同じようにNPCとして認識されているということである。

 やはりこの世界はゲーム、デビルズ・コンフリクトの――――


「…………こんなこと、終わった後でいくらでも考えられるよな」


 龍太郎は頭を振り、思考を目の前の戦いに戻す。

 この戦いもじきに終わる。見ればイグナートのHPも残りわずかとなり、怒値(ヘイト)管理もほぼ完璧なため、問題なく終了するだろう。

 龍太郎の思考は、この後の戦いの展開ことについてで埋め尽くされていった。




 やがて、今まで三十対一の戦いを二時間以上も続けていたイグナートは、とうとうその身を完全に地に伏せた。

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