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竜の試練1

 デビルズ・コンフリクトにログインしていたプレイヤーを突如包んだ、謎の白い光。

 その光が視界を覆わなくなった頃には、もうそこは誰も知らぬ大地だった。

 レーリレイス。

 それが、この世界の名だという。

 ここは一体どんな世界だというのか、なにゆえ存在するのか。

 そして、どうして飛ばされてきたのか。

 数々の謎を抱えながら、この世界に飛ばされた者たちは歩き彷徨う。

 そして、世界は廻る。



                ▼▼▼



「よし、全員いるか!」


 人々の交易が盛んな大都市、エクライネス。ここでは今まさに、大きな勢力が動こうとしていた。

 龍太郎は手を振りメニューパネルを呼び出し、点呼を始める。


「私にもアレが使えれば、わざわざ紙などを使って点呼する必要などないのですがね……」


 智代理の横に立っていた長身の男性は、羨ましそうに龍太郎を見ていた。

 そんな彼の表情には横から見ても判るほど、疲労の色が出ていた。あのガラミアという人物の秘書という立場上、普段から苦労が絶えないのだろう。


「まあ、あたしたちはあなたたちと少し違うから。同じものさしで比べたら、どちらにも失礼というものよ」


 出張っていたアスカが役目を終えて戻ってきたようだ。


「あ、アスカちゃん! 守護傀儡(ガーディアン)の登録は終わったの?」

「ええ、問題無くね。……全く、本来なら釘丘がこういうこともやるべきなんだけれどね。あいつ、名前を登録していないとかよく判らないこと言うし」


 アスカはこの都市に設備されている守護傀儡(ガーディアン)と呼ばれる戦闘人形の使用登録を行っていた。

 アルカミアでも同じような人形が設備されており、登録はそこと同じだったために迷わずにすんだ。

 ガーディアンは、対応する端末に自分の名前を登録する事で、その人物がガーディアンを行使できる。この際登録する名前は基本的に何でもいい……はずなのだが、この世界に飛ばされてきた身である龍太郎たちは勝手が違った。

 登録できる名前は自分のデビルズ・コンフリクトに登録したプレイヤーネームでなければならない。よって、智代理であれば、「智代理」は通っても「神崎智代理」は通らないのだ。

 これは、この世界における無人機器などを扱う際全般に言えることでもある。

 プレイヤーネームはメニューパネルを開けばすぐに確認が可能だから何も困ることはないのだが、面倒なことに龍太郎にはその名前が登録されていないというのだ。

 つまり、「龍太郎」でも通らなければ、「釘丘」でも通らないし、「釘丘龍太郎」でも通らないということだ。

 これは、龍太郎が名前を何らかの形で手に入れない限り、無人機器の登録を一切行えないということだ。


「で、でも……名前が無い以上しょうがないよ……」


 俯く智代理。どうやらアスカが龍太郎に理不尽な怒りを抱いていることに不満なようだ。


「判ってるわよ。実際釘丘だって、今すぐ名前の登録ができればしているだろうし」


 アスカは前方で兵士たちの点呼を取る龍太郎を見ながら言った。

 彼は今日、いつも以上の人間の陣頭指揮を執る。そんな時、彼がどんな力を発揮するのか、アスカは密かに期待していた。

 デビルズ・コンフリクトだった時代、領土戦争で対峙していた悪魔族の指揮も、彼が執っていたと言う。


あの時の悪魔族の動きは確かに普通のAIでは出来そうにない動きをしていた。もしかしたら、その方面での才があるのかもしれない。


「そう言えば、クエストの中に、名前を取得するようなクエストって無いのかな?」

「残念だけど、それは無いよ」


 智代理の疑問に、これまた出張っていたセーヴが答えた。


「あ、セーヴさん」

「兵隊長さんとの話は終わったんですか?」


 智代理とアスカがそれぞれセーヴに声をかける。


「うん。滞りなくね。というか、アスカくん。君もあの場にいたじゃないか。どうして先に帰ってしまうんだい」


 セーヴが拗ねるようにアスカを見た。

 アスカはそんなセーヴを見ても何も思わないのか、普段と変わらない表情で言う。


「だって、話の後呼ばれたのはセーヴさんだけじゃないですか。私は関係ないんですし、むしろ空気を読んだと思うべきです」


 アスカの発言に一瞬ぽかんとしたセーヴだが、何かを悟ったのかそれ以上の追求はしなかった。


「……それより、どうして名前を取得するクエストなんていう話が出たんだい?」


 セーヴは話題の転換のために智代理に話を振った。


「えっ? ああ、実は、龍太郎くんがガーディアンを扱うための名前がないって話で……」


 なるほど、とセーヴは頷いた。


「それは確かに困るね。アルカミアにいた時もそうだったけれど。でも、残念ながらそういったクエストは用意していない。そもそも、デビルズ・コンフリクトのゲーム用に作っていたクエストだからね。デビルズ・コンフリクトの仕様の中に、自分の名前が無い、なんて状況が起きるようなものは無いから」

「普通は、そうですよね」


 アスカが同意するように頷いた。


「でも、こっちの世界に来てからは現実の常識がそのまま反映されているとは限らないかもしれない。もしかしたら、何らかのトリガーによってそういったクエストが出現するかもしれないね」


 わずかな可能性を肯定するようなセーヴの口ぶりではあるが、実際のところその可能性は天文学的数字レベルでありえないということを智代理たちは判っていた。



                ▼▼▼



 悠々と連なる山の麓。エクライネスの周辺地域にはその山から派生する形で木々が立っている。

 その木々の中に、龍太郎たちは身を潜めていた。


「あれが、古代竜が出るって場所なのか?」


 龍太郎の横に居る、蒼い鎧を身に纏った男性が声を潜めながら言った。

 前方に見えるのは、山岳地帯ではありえないような大きく広がった平地。それが円形を描いている。

 平地の周囲は今龍太郎たちが隠れているように木々が何本も立っている。しかしそれが円形を型どるようにして立っているため、この平地が何か意図して作られたもののようにも感じられる。


「ああ、多分、俺があそこに降り立てば古代竜がやって来るだろう」


 龍太郎が、前方の平地を指さしながら言う。


「……そうか」


 龍太郎の横に居るこの男性、名をエリュータという。今回龍太郎が指揮を執ることになった隊の隊長格だ。

 話に聞けばエクライネスの中でも随一の剣士であるらしく、彼の右に出るものはいないという。


「エリュータ。お前は古代竜が戦いを始めた瞬間、まず一番に斬りつけろ。俺のところのセーヴと同タイミングでだ」

「判っている。打ち合わせ通りにやるだけだ。お前の方こそ、足を引っ張るなよ?」

「ふん、判ってるさ」


 このエリュータという男、良くも悪くも完璧主義者である。

 常に最高の結果を求め、そしてその通り結果を出す。他人に厳しく、それ以上に自らに厳しい。

 だがそれは、リーダーに求められる資質であるようにも龍太郎には感じられる。


「釘丘。全員、準備が出来たわ」


 エリュータと話していると、背後から伝達役をつとめているアスカが声をかけてきた。


「……よし、行くぞ」


 その一言を合図に、龍太郎は生い茂る木々の中から姿を現した。

 降り立つ平地は七日前に訪れた時と何ら変わりはなく、そして、七日前の凄惨な戦いの跡も一切残っていない。


「イグナート! 試練を受けに来た!」


 龍太郎が蒼く澄み渡る天に叫びかける。すると、遠くの空に翼をはためかせる一体の翼竜が姿を現した。

 翼竜――イグナートは、強風を引き連れながら平地へと降り立った。


「よくぞ来た、選ばれし者よ」


 眼前にまで迫ったイグナートの様子は最初に会った時と変わりなく、ビレトによって消耗させられた体力は完全に戻っているようだった。


「ふん。どうやら、以前よりも大所帯で来ているようだな」


 イグナートは木々に隠れた兵士たちを見抜いたようだった。【サモナー】であるユカリのスキル、《エレメント・ステルス》によって気配を完全に消し去っているはずだが、どうやら意味がなかったようだ。


「試練の際は大勢が相手でも構わん。そのために、このような辺鄙な場所で行うのだからな」


 実際、このまま何もなければもっと人数を増やして物量作戦が通る。しかし、いざ試練が始まってしまうと、この平地と山岳地帯とでは領域が貼られてしまう。平地を戦いに有意義に使え、それでいて連れてくることができる人数は、たったの三十人強であった。


「それでは、始めようか。お前たちが魔龍騎士に選ばれた者にふさわしいちからを持つのかどうかを試す戦いをな」

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