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信じること

「なっ……」


 セーヴの発言に、他のメンバーは驚愕あまり目を見開いた。


「プロジェクトの一員って……」


 シュンが聞き返すと、セーヴは頷いた。


「ああ。もちろん、そのままの意味だ。特に僕は、クエスト周りを担当していたからね。かくいうこのエヴォリュートクエストも、僕の考えからだ」


 考えもしなかった。いつも身近にいた人物が、まさかデビルズ・コンフリクトの開発に携わっていた人物だとは。

 そんなこと、誰が思いつくであろうか。

 するとセーヴが、待て、というように手を差し出した。


「おっと、みんな色々僕に訊きたいことがありそうな顔をしているから、一応言っておくよ。僕は確かにプロジェクトに関わってはいたが、それはあくまでクエスト周りの話だ。それ以外のところはほとんど無干渉でね。僕もクエストが関係してこないところの内容はよく知らないんだ」

「え……それじゃあ……?」

「今君たちが一番聴きたいことに答えてあげられないと思う。かくいう僕も、こっちの世界に来た時は相当焦ったからね。君たちと同じさ」


 確かにセーヴは、こっちの世界へ飛ばされた際龍太郎たちと同じく焦っていた。あれが演技なのであれば、相当な演技派というものだ。


「じゃあ、セーヴさんは、俺がどうして悪魔族側にログインしたのかも、どうしてログアウト出来なかったのかも判らないということですか?」


 龍太郎の問いに、セーヴは頷いた。


「申し訳ないけれど、その通りだ。君が前に言っていた、君にデビルズ・コンフリクトを渡したという彼……皇さんは、僕とは違う担当だったはずだ」


 セーヴは申し訳なさそうに眉を垂れた。


「さっきも言ったけれど、僕が判るのはクエスト周りだけ。それ以外は、ほとんど聞いていない」


 セーヴは念を押すようにして言った。その彼の表情から見ても、それが嘘偽りであるとは思えなかった。


「デビルズ・コンフリクトの開発チームはちょっと特殊でね。リーダーの意向で様々なところから集められて、それぞれの開発箇所に合わせて部屋を隔離される形で開発していたんだよ」


 セーヴはその時のことを懐かしむように遠くを見た。


「まあ、今となっちゃいい思い出かもしれないけれど、他の担当の人と意思疎通が図れないのはとてもやり辛かったね。来るデータ来るデータが僕たちの思っている通りではないんだもの」

「た、大変そうですね……」


 カエデが同情の目を向けた。


「そのリーダー、チームプレイっていうのを判ってないみたいですね! ゲームとかもひとりでやったりする人なのかな……」


 ユカリが頬を膨らませて言った。


 確かに、チームでの開発となるとチーム間での意思疎通は非常に大事なものとなる。自分ひとりで突っ走っては決していいものなどできない。

 小規模な会社故、そういったところのノウハウが積み重ねられていなかったのだろうか……


「でも、まがりなりにも人類初のゲーム開発をし、それをリリースまで持っていったのだから、開発メンバーの実力は認めるべきだと思うわ」


 アスカにしては珍しく、褒めるような口ぶりだった。

 龍太郎がそう言った気持ちをあらわにした表情をアスカに向けるときつく睨まれた。


「ま、そういうことさ。龍太郎くん、疑問は解決したかな?」

「え? あ、ああ……まあ」


 唐突にセーヴに話を振られたため少し戸惑った声を上げてしまった。


「よし、それじゃあ改めて、トラスト稼ぎに行こうか!」



                ▼▼▼



 暗い湿地帯。周囲は黒く澱んだ沼で埋め尽くされ、非常に足場が悪い。

 そして目の前には総数十体を超える蛙型怪物(モンスター)、ダーク・フロッグが立ち塞がっていた。長く伸びる舌を出し、こちらを威嚇してきている。


「へっ、随分と大所帯じゃねえか。だがな……」


 ダーク・フロッグの集団を真横に薙ぐように、一本の銀閃が迸る。

 十体以上いた巨大蛙は、一体と残ることなくその息を絶やした。


「もう少し、数を増やすこったなァ」


 暗い湿地帯に、金色の長髪がなびく。暗闇に光るその髪は、より一層輝きを放っているようにも見える。


「ダンタール、その辺にしておけ。そろそろ悪魔族のやつらがやってくる」


 背後の暗闇から凛々しい女性の声がした。名を呼ばれた金髪の青年は、両手に持った曲剣のうち一本を肩に担ぎながら振り向く。


「俺っちも、悪魔族なんだが?」

「ごたくはいい、さっさと持ち場に戻れ。それとも、ここでくたばりたいのか?」


 暗闇から語りかける女性は、金髪の青年を脅すように声を低めた。


「おーおー、怖いねえ、相変わらず」


 金髪の青年は二本の剣を鞘にしまいつつ、暗闇へと歩き出す。


「そんなに怒ってばかりいると、大好きなアノヒトが泣いちまうぜ?」

「貴様……!」


 女性の声が荒々しくなる。しかしそれを楽しんでいるかのように、金髪の青年は笑った。

 そして、青年の気配が暗闇へと溶けた。


「……全く、あいつとだけは気が合わない……」


 女性は溜息を吐いた。女性は暗闇から姿を現し、金髪の青年が倒したダーク・フロッグの死体の下までやってくる。

 月明かりに照らされる浅焼けた肌。左目を覆う黒い眼帯。右目に宿る強い意志。

 数々の逆境や苦境を乗り越えてきた女性の姿が、月の下に淡く照らされる。


「ここにいたんですか、マリオルさん」


 今度は、暗闇から低い男性の声がした。


「……ガイズか。今は持ち場を離れるな、と言っていたはずだぞ」

「すいません、どうも思いつめた表情でこっちに向かうマリオルさんを見てたら放っておけなくなっちまいまして」


 話す男性が暗闇から姿を現した。何十にも重なったプレートがただでさえ大きい男性の体躯を包み込んでいる。彼もまた、マリオルと同じ境遇にあり、そしてそうでない者だ。


「……まあいい」

「それで、彼を追ってたんですかい?」


 巨漢の男、ガイズが訊ねる。


「ああ。だが、どうやら私はあいつとは仲良く出来そうにない。……何故あの人はあんな奴を」


 それを聞いたガイズは苦笑いをした。


「ちょっと変わってますよね、彼。飄々としててどこか掴めないというか。マリオルさんは自分が従えたり仕える人のことは徹底的に知らないと気持ちが悪い性格ですもんね」

「……気持ち悪いくらいによく見ているな」


 マリオルがガイズの意外な観察力に後ずさる。


「まあ、これだけ長く一緒にいりゃあ嫌でも判るってもんですよ。こっちの世界に来てから、もう五十日以上が経過してます」

「……済まないな。私の我儘に付き合わせて」


 マリオルが申し訳なさげに言うと、眼前の巨漢の男は朗らかに笑った。


「いいですって。今マリオルさんに付いてきてる俺たちはそれを理解した上で来てるんですから。だから、マリオルさんは気にせず自分が思う通りに進めばいいんです」

「……ありがとう」


 マリオルは心からの感謝の言葉を口にした。

 しかしガイズはそれを知ってか知らずか、明るい口調で話す。


「よし、それじゃあ俺は持ち場に戻りますね。マリオルさんも、早く戻ってきて下さいよ。……姉御がいないんじゃあ、締まりませんからね」

「ああ、すぐ戻る」


 直ぐに、ガイズの気配は消えた。


「本当に、私は運がいい」


 マリオルは、空を見上げる。ここからでも、この世界の美しい夜空は一望できる。


「信じてくれる仲間、信じるべき仲間。私は、本当にいい部下に恵まれたよ」


 マリオルは、自分が行ってきたことを後悔していなかった。自分と、そしてあの人を信じてここまでやってきたのだ。

 もう後戻りは出来ない。どんなに辛くても、どんなに苦しくても、前に進まなくちゃならない。

 こんな自分を信じて付いてきてくれる仲間たちのためにも――

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