閑話2
デビルズ・コンフリクトからログアウトした後、当然のように強烈な睡魔に襲われて沈むように眠りに就いた智代理は、少し遅めの時間帯に目を覚ました。
一階のリビングへと降りると、母親の優麻がリビングの四十インチの大型テレビでお昼のニュース番組を視聴していた。
智代理が起きてきたことに気付いた優麻は、こちらを振り向く。
「あら、おはよう。智代理。今日は随分と遅かったわね」
優麻は何の気なしにそう言ってくる。だが智代理は内心で、夜遅くまでゲームにログインしていたことがバレてしまうのではないかとヒヤヒヤしていた。
しかし、優麻はそれに気付いた素振りも見せずキッチンに立つ。
「もうお昼だし。本当はいけないんだけれど、少し早めのお昼ご飯作っちゃうわね」
しばらくすると、リビングに食欲を唆るいい匂いが立ち込め始めた。
調理を続ける優麻の姿。それを見ると、智代理は今、とてもいけないことをしている気分になった。
何せ智代理は今、生まれて初めて母親を騙そうとしているのだから。いや、騙しているのだから。
嘘なんて生まれてから吐いたことのない智代理が、実の母親に対して嘘を、隠し事をしている。優麻に会う度に、隠し事がバレないか、そわそわしてしまう。
「どうしたの?」
優麻の何の気のないはずの一言に、体が反応してしまう。反応すれば隠し事がバレてしまうかも知れないのに。
「う、ううん……何でもないよ」
智代理は努めて冷静に、いつもを装って優麻と会話を交わす。
優麻に勘付かれないように、慎重に。
次第、優麻が出来上がった料理を手に持ってキッチンから出てきた。
「わあ……! 美味しそう!」
智代理の眼前に出されたのは、きのこと醤油とバターで風味を付けた和風パスタだ。きのこの独特な香りと、醤油とバターの濃厚な香りが鼻腔をくすぐる。
「ねえ、智代理」
智代理がパスタを食べていると、優麻がいつになく真剣な声音で語りかけてきた。
その声音に、食べる手が自然と休まる。
「……気を付けてね」
優麻はそれだけ言った。ただ、それだけ。
その言葉の意味などわからない。「気を付けて」だけでは何も汲み取れない。
だから智代理は、優麻の真意などわかりはしなかったのだ。