智代理の再会
智代理は帰宅の後、すぐさま自分の部屋に駆け込んで、専用VR機エクリプスGを起動し、デビルズ・コンフリクトの世界へと飛んだ。
目的は、龍太郎捜索の続きである。
智代理にはどうしても、龍太郎がデビルズ・コンフリクトをプレイできない理由に納得がいかなかった。
明日香たちには、もういいじゃないかと止められたが、智代理の懸命な説得により、再び捜索の続きをしてくれることとなった。
幸い今週はもう学校がない。智代理は手早く部屋着に着替えるとベッドに仰向けになった。
側面についた電源ボタンを押すと、強烈な睡魔が襲って来る。智代理はそれに抗うことなく、意識をまどろみの中に溶かす。
次第体が浮く感覚がし、ゆっくりと目を開ける。現在、智代理の体は文字通り浮いており、完全に重力の法則を無視して、ワープホールのような空間を浮遊し通り抜けている最中だ。
しばらくその浮遊感覚を体験すると、次第、床に降り立つように足がつく。ここまでは最初にログインした時と同じ感覚だ。既にキャラエディットは終了しているために、初回ログイン時のようなタブレットサイズのパネルは無く、大きめの扉があるだけだ。
智代理はそれを押し開く。ギギィと重苦しい音を立てて扉を開くと。視界は強く白い光に覆われて、扉の奥へ吸い込まれるように体が進んだ。
「ん……」
白い閃光により閉ざされていた目を開くと、そこはもう、一度踏みしめたデビルズ・コンフリクトの世界だった。
ホームポイントは特に弄っていないため、初期の神の泉前に降り立つ。周囲に視線を送ると、学校が終わる時間だからか、学生っぽい冒険者がたくさんログインしてきていた。
アスカたち――ギルド百鬼旋風のメンバーたちとの待ち合わせ場所は、昨日も使用した古い宿酒場ということになっている。
どうせならと、《フェザー・ウェイト》を使用して移動速度を上げる。MPをチェックすると、四分の三ほどまで減っていた。
出来つつある人波を掻い潜り、さらにスキルのおかげでたいした時間もかかることなく、無事宿酒場へと到着した。宿酒場の木製の扉を押し開き、中へと入る。
店内は昨日のような大盛況ではなく、ポツンポツンと冒険者と鎧を纏った龍戦士族がいるくらいだった。
そんな中、入口から一番離れた角席、そこにアスカたちは全員揃っていた。
「うっす」
「おまたせ~」
シュンが軽く手を挙げて挨拶をすると、それに続いて他のメンバーも挨拶をしてきたので、それに応えながら席に着く。すると、それを見越していたかのように、席に着くとほぼ同時に店員が注文を取りにやってきた。
智代理は渡されたメニューを見る。正直ここはゲームの中なので、空腹感や脱水感などの身体的疲労はないのだが、注文を取りに来られてしまった以上、何か頼まないと少々気まずい。
メニューを流し読みしていると、ドリンクメニューに既に見知った名前があった。
「あ、じゃあ私これで」
指をさしたのは、アブザードリンク。昨日飲み損ねていたのを思い出した。
店員は注文を復唱すると、いそいそとカウンター奥の店主の下へと駆けていった。それを見計らって、アスカが話し始める。
「ねえ智代理。もう一度だけ聞くけど、本当に釘丘を探すの? 釘丘はこのゲームをやってない可能性の方が高いのよ?」
「そうだよ。君たち五人は僕を差し置いて、リアルで会ったんだって? 言ってくれれば僕もすぐに、駆けつけたのに~」
「セーヴさんは少し黙ってて下さい。で、智代理。本当に探すの?」
アスカの言うことは至極まっとうで、普通に考えれば何ら間違っていない。
だが、智代理だけは、心の中で納得がいっていなかった。この件、どうにも普通じゃない気がするのだ。でもそれを言葉にできないから、すごくもやもやする。違和感が、常に胸の奥でつっかえているような感じ。
そして、その違和感を確かめるために、智代理は龍太郎を探すのだ。
「うん。でも、本当に、精一杯探してみつからなかったら、その時は諦めるよ。アスカちゃんに、ちゃんと話してね」
智代理の答えは、ゲームの世界でも現実世界でも変わらない。龍太郎を必ず見つけ出し、力になってもらう。
「わかったわ……」
アスカはため息を吐くと、半ば諦めるようにして、その身を引いた。
ここまで話したところで、店員が智代理のアブザードリンクを運んできたので、それを受け取り、早速一口流し込む。
「わぁ……! これ、まるでアップルジュースみたい! ちょっと|酸っぱいけど……」
口の中に広がる酸味と甘味を楽しんでいると、セーヴが口を開いた。
「それで、智代理くん。具体的にはどうやって探すのかな?」
探すならば、昨日決めたギルド設立の旨を、ギルド統括所に申請する必要があるだろう。
ギルド発足時の規定人数はクリアしているため、問題はないはずだ。
「まずはギルドを立ち上げるために、ギルド統括所に行こうかと」
ギルド統括所は、この町の東、ギルドエリアに建物を構えている。内部運営は基本的に龍戦士族たちNPCによる自動運営だ。
簡易的な審査があるが、おそらく問題ないだろう。
智代理がアブザードリンクを飲み終えたところで、早速向かうことにした。
神の泉がある中央エリアを通り抜けて、東へ進む。ギルドエリアへの入口となる大門を潜り、中へ。
「ここがギルドエリアか。何だか力強い、って感じだな」
ここでシュンが言った力強いとは、このエリアの基本色が茶色や黒などの暗く無骨な色だからということもあるだろうが、ここは冒険者のためのエリアでもあり、行き交うキャラクターはほぼ全て、何らかのギルドに所属している冒険者ばかりだ。
このゲームにはレベルの概念がない。代わりに、敵を倒すと獲得できるSPを割り振って、スキルを覚えていくことにより、ゲームを成立させている。
よって、このサービス開始二日目であっても、強いスキルを所持している冒険者は少なくない。それに、このゲームには有名なMMOプレイヤーもこぞってプレイしているという話もある。
そんな屈強な戦士たちが闊歩する通りを少し歩いた先に、ギルド統括所の建物は顕在していた。
外装は周りに合わせての茶色で、入口の上にある屋根を石造りの柱四本で支えている。
中へ入ると、智代理たちの他にも数個の集団が、空いた席に適当に座っている。全員ギルドメンバーと話しているようだ。
受付には、龍戦士族が二人おり、右側の受付は接客中だった。
ウロコを持たないことが特徴の女性の龍戦士族受付は、対応している男の冒険者に困っているようだ。
……というか、何か揉めている。
「おい、俺のギルドが承認されないって、どういうことだよ!? NPCの分際で冒険者に楯突こうってのか!?」
男はそう叫びながら、首にかけたアクセサリー、銀の光沢を放つシルバーチップを見せびらかす。
「俺は実力があるんだ! 強けりゃギルドくらい作ってもいいだろうが!」
シルバーチップは、難易度上級のダンジョンを複数攻略するともらえる代物で、能力付加などは特にない。
だがそれを付けているだけで、その者が強いということが十分にわかる目印だ。
輝くシルバーチップを前に突き出して鬼気迫る叫びを上げる男に対し、受付の女性龍戦士族は平然と受け答えをする。
「申し訳ありません。ギルド発足時の規定人数に達しておられませんので、設立は不可能です」
淡々と、事実だけを伝える受付。みるみるうちに、男の顔が鬼のようになっていく。
受付のマニュアル通りの発言が引き金だったのか、さらに声を張り上げる。
男の装備は、やたらと派手な装飾が施されており、携えている剣の柄も、金色で彩られている。
「ど、どうしよう……」
さすがに智代理には、あの中ひとりで横の受付に申請する勇気はなかった。
……が、いつまでも怯んでいるわけにもいかない。ここは勇気を振り絞って、行ってみよう。
「あ、あの~……」
「はい、なんでしょうか?」
横の口論に巻き込まれぬよう、最低限の声量でギルド申請の旨を伝える。
「新しくギルドを立ち上げたいんですけど……」
「はい、ギルド設立のご依頼ですね!」
智代理の健闘むなしく、受付は意気揚々と智代理の言ったことを要約した。
当然それが聞こえた横の男は、ギロリとこちらを睨む。
「ひ、ひー!」
男に全力で睨まれた智代理は、ものすごい勢いでアスカたちの下へ逃げ帰ってきた。
「だめだったか」
「とりあえず、収まるまで待ちましょう」
シュンとカエデがそう言ってくれたので、近くのソファに腰掛ける。どうやら、あの揉め事が終わるまでここで立ち往生らしい。
早く終わらないかな、と思っていると、突然統括所の扉が勢いよく開け放たれた。
「おい、ここに「ヴレア」という名の冒険者はいるか?」
やや乱暴に扉を開け放ち中に入ってきたのは、銀の氷槍のギルマス、マリオルだった。
「え、なんでこんなところに……!?」
驚く智代理を不思議に思ったのか、アスカが声をかけてくる。
「どうしたの? まさか知り合い?」
智代理は、以前話したギルドの人のことについて話した。
「へぇ……あれがその人か……。確かに色黒で、眼帯してて、かっこいいね。それに智代理の言った通り、後ろに部下みたいなの連れてるし」
ほほー、と感心するアスカ。
マリオルはそんな智代理たちに気付くことなく、ずかずかと中に入ってくる。
「ん? お前、何を焦っている?」
近づいたマリオルは、先ほどまでNPCと揉めていた男性を見る。よく見ると、男性の顔に焦りが出ている。
「お、お前がなぜここに……!?」
その反応を見たマリオルは、不敵な笑みを浮かべた。獲物を見つけた狩人の如く、口元を釣り上げる。
「その焦りよう……お前が、ヴレアだな? 流石に前のXROの時とは見た目が違うな。さて、お前の愚行は既に上がっている。他のギルドからの迷惑依頼が届いている。少し話を聞かせてもらおうか」
「ちぃっ!」
ヴレアというらしい、やけにギラギラした装飾を施した装備を身に着けているシルバーチップの男は、マリオルの言葉に触発されるように剣を抜き出した。
ジャッという金属が擦れる音と共に、刃の部分が露わになる。その剣身は美しく透き通るような青で彩られ、その色が統括所の照明に照らされて、幾方向にも乱反射している。乱暴な男が持つには似つかわしくない、美麗とも呼べるような直剣だ。
「あ、あれは……!」
その武器を見た途端、その場にいた冒険者たちは、驚愕の目でブレアを見た。それに対しブレアは、ふふんと自信ありげに剣を前に突き出す。
「どうだ、驚いたか? この剣は初期最難関と言われているダンジョンの攻略報酬、『アンドラスの剣』だ。こいつを取るためにどれだけの時間を使ったか……思い出したくもねぇ」
意気揚々と出したのに、話していくほどにげんなりしていくブレア。このゲームがサービスを開始してからまだ二日、しかも現実世界とゲーム内の時間は等間隔で進む。そして、今日は平日……
「え、それじゃあにーt」
「うるせぇぞ、そこ!」
平日が休みの社会人という可能性もあるのに、ユカリが放った一言はヴレアの真実を見事射抜いてしまったようだ。ヴレアは物凄い形相でこちらに剣先を向ける。
「それもこれも、全部お前に復讐するためだ……。前のMMOでは随分と俺の縄張りで好き勝手してくれたからな……。この剣を取るために開始日から睡眠以外はひたすらにレベル上げして、仲間を集めて、ようやく攻略したんだ」
「全く、あれはお前が悪いだろうが」
どうやら、他ゲームの恨みがこっちまで飛び火しているようだ。
「そこまで私に恨みがあるなら、今ここで晴らせばいい。……決闘、受けて立つぞ?」
挑戦的なマリオルの笑みに、ヴレアは眉間に青筋を立てヒクつかせて声を荒らげた。
「おい! 舐めてやがるのか……!?」
だが、そんなヴレアの態度は知らんといったふうに、マリオルは余裕綽々、さらにまくし立てる。
「いいのか? 復讐相手からの申し出だぞ? まぁ、ここでやらないのもひとつの手だろうが、お前の器が知れるな」
ヴレアは今にも爆発寸前の爆弾のように赤面していた。砕けんばかりに奥歯を噛み締め、ギリリという歯の擦れる音がこちらまで聞こえてくるようだ。
「どうする? お前の自由だ」
俯いて、わなわなと剣を持つ手を震わせていたヴレアは、ゆっくりと、もう片方の手でメニューパネルを呼び出すと、それを操作した。
すると、マリオルの目の前にメッセージウィンドウが表示された。……アイテムドロップ有りの、決闘申し込みメッセージだ。
「ふっ、いいだろう」
マリオルはそれに承認の応えを返すと、マリオルとヴレアの背後数メートルまでの範囲を持つ半円形の透明な壁が放射状に出来上がった。
そして、二人の間に、戦闘開始までのカウントが表示される。それが五、四、三、とカウントされて減っていく。
「後悔するなよ……? 俺がなぜお前を負かすためにこの武器を取りに行ったか、それを今……見せてやる!!」
ニ、一、……FIGHT! の文字が出た瞬間、ヴレアは物凄い勢いでマリオルとの間合いを詰めた。風を切るような突進のまま、低姿勢から蒼白の剣を押し出すように振りかざす。
マリオルはそれを紙一重で避けると、円の範囲ギリギリまで飛び退いて詰められた距離を少し取り返す。
だが、最初ほど距離が離れていないため、ヴレアの次の攻撃に備えて体勢を整えようとしている。が、それよりも早く、ヴレアは再び突進攻撃を仕掛けてきた。
「早い……!」
あまりの動きに、ゲーム慣れしているアスカでさえ驚愕しているのに対し、マリオルはヴレアの攻撃を紙一重で、しかし涼しい顔で避け続ける。
右へ左へ、そして上へ下へとヴレアは斬撃を繰り出す。しかしマリオルは、どんな方向から斬撃が来ても、それを読んでいたかのように、しかしスレスレで避け続ける。
そしてザンッと空気を切る音が聞こえ、幾度目かの斬撃を繰り広げた二人はお互いに距離を取る。
「はぁっ、どうして反撃しない?」
若干息を荒らしながら、剣先をマリオルに向けながらヴレアは問いた。
「お前がスキルを使おうとしないからだ」
そう、ヴレアはこれまで一切スキルを使っていない。このゲームでのダメージ計算は対冒険者も対MOBも変わらないため、攻撃系スキルで攻撃するか付加系スキルを使用しない限り、まともなダメージは望めない。
「スキルなんか使わなくとも、この武器さえあればお前を倒せるからな」
「ほう」
マリオルは、ヴレアのその一言に少し眉をひそめる。
その視線はヴレア本人から若干下がり、手に持つ剣へと向けられていた。
「お前のその武器、もしかして……いや、お遊びはここまでにしよう」
剣を見ていたマリオルの雰囲気が突如変化した。力を抜き、ノーガード状態になっている。
「フォーム・アップ」
マリオルは小さく、呟くように唱えた。次の瞬間、マリオルの周りから|
渦を巻くように気流が発生し、粒子の泡がマリオルの全身を包み込む。
「私も少し、本気を出さなければならないようだな」
マリオルが言葉を発した時には、既にいつもの服装ではなく、全身が紅色の金属鎧で包まれており、右手にはマリオルより頭一つ分だけ大きい純白の大槍を構えていた。
とても、サービス開始二日目の人物が持つ装備品でないことは、見るに明らかだった。
ただならぬ気迫。智代理が感じた、凛々しいマリオルとは別のマリオルが、そこには立っている。
「それが、お前の本来の装備……ってかよ」
ヴレアは平静を保とうとしているが、足元は僅かながら震え、顔は引き攣っている。
マリオルの放つ異常な気迫に、今まで張っていた威勢がいとも簡単に剥がれ落ちる。
いつの間にか、ガヤを飛ばしていた周りの冒険者も、マリオルの放つ只者ではない雰囲気を察し、今は一様に押し黙っている。
かくいう智代理たちも、本来の目的を完全に忘れて、目の前の決闘の行く末を確かめんとしているが。
「この姿はあまり公にしたくない。……とっととカタを付けるぞ」
マリオルは、その金属鎧というかなりの重量からは考えられないような速度で、まるで風を纏うようにしてヴレアに近づいた。
「くそ……! この、チート野郎がぁぁぁ――――!!」
ヴレアは目を見開き雄叫びをあげ、眼前に迫り来る大槍に対し、その手に持つ蒼白の剣を振り返す。
――結果はあっけないものだった。大方の予想通り、マリオルのその一撃で勝負は付いた。
マリオルはやけくそに突き出された剣を敢えて避け、ヴレアの胴体を狙った。剣ごと破壊することもできたはずなのに。
ヴレアは決闘に破れ、今この場にはおらず、おそらく復活点に設定してある場所に復活し、送り込まれたマリオルの部下たちに取り押さえられていることだろう。
今までマリオルたちを囲んでいた半円形の透明の壁は消え、特に争った形跡も残らず、統括所は元の姿を取り戻していた。
「マ、マリオルさんっ!」
智代理は、半円が完全に消えると、ふうとため息をついたマリオルに駆け寄った。
マリオルがドロップした『アンドラスの剣』を拾い上げアイテムパックに仕舞ったところで、智代理がマリオルに飛びついた。
「き、君は……あの時の……?」
「はい、智代理です! さっきの戦い、すっごいかっこよかったです!」
わきゃわきゃと騒ぐ智代理を前に、嫌な顔を出来ないマリオルは困った様子で頭を掻いている。
「智代理、その辺で」
「あ、ご、ごめんなさい……」
呆れ顔のアスカに諭されてしゅんと下を向く智代理。
「あ、ああ。それよりも、君がなぜここに?」
智代理から解放されたマリオルは、「フォーム・ダウン」と小さく呟き、装備を解除した。
すると、胸の膨らみを強調した、初日に手を差し伸べてくれたマリオルの姿に戻った。
「実は私も、ギルドを作ることにしたんです」
智代理は後ろを向き、ギルドメンバーに目配せで合図をした。
アスカ、ユカリ、シュン、カエデ、そしてセーヴの順で軽い会釈をする。
「そうか、君もギルドを。それなら今日から私と同業者、ということになるな。なにか困ったことがあったら、相談に乗るぞ」
「それなら……今乗ってもらえますか?」
「ん? いいだろう」
智代理は、有名なギルドのマスターであるマリオルなら、龍太郎のことを何か知っているのではと考え、事情を説明した。
「……ふむ。話を聞く限り、その青年はプレイヤーネームも本名を使っているという保証はないから、探すのは相当難しいな。せめて、青年の身なりがわかればいいのだが」
「身なり……ではないですけど、彼の現実世界での身長や顔って参考になりませんか? このゲーム、ある程度は現実の自分の体が反映されるって書いてあったので」
「一応、聞かせてくれるか?」
智代理は現実世界の龍太郎の身長や、顔の特徴などをマリオルに伝えた。
「……」
「マリオルさん?」
龍太郎の身なりの情報を聞いた途端、マリオルは考え込むように黙ってしまった。
そして重苦しく、口を開く。
「……智代理。その青年なら、見たことがある」
「ほ、本当ですか!」
だが、喜ぶ智代理とは裏腹に、マリオルはとても話しにくそうにしている。
「……」
またしても黙り込むマリオル。
「そんなに、言いにくいことなんですか」
しびれを切らしたのか、背後からアスカもマリオルに問いかける。
「……まだ確定したわけではない、か。……おそらくその青年は、このゲームにログインしている。それはほぼ確定と見ていい。ただ、見つけるのはもう少し先、いや、そうだな……」
マリオルは実に言いにくそうに、喉の奥に詰まっている言葉を押し出すように、ゆっくりと口を開いていく。
「――大きな戦い、このゲームの本筋である、龍戦士族と悪魔族の領土戦争、その時に、もしかしたら――」
マリオルが最後の言葉を紡ごうとした時、その場にいた冒険者全員のマスタークエストコールが鳴り響いた。




