Encount of Closefriend
目を瞑っていても侵食してくるような強い光はようやく収まり、意識が現実世界の神崎智代理の肉体に戻る。
「ん……」
目を開けると付けっぱなしだった部屋の明かりが目に入って少し眩しい。この時点でデビルズ・コンフリクトで起きた出来事は全て脳に記憶されている。
現実世界の自分はただ横になっていただけなのに、頭の中には街を走り新たな仲間たちと出会った記憶が刻まれている。まるで、たまにあるはっきりと覚えているパターンの夢のようだ。
智代理は体を起こして時間を確認すると現在時刻は十八時を回りだしたところだった。
「そっか、今日お父さんもお母さんもいないんだっけ」
父親である冨影はいつ帰ってこられるかわからず、母親の優麻は会社の取引先との会食だ。
智代理は座っていたベッドから降り立つと部屋を出て一階に降りる。すると、リビングのテーブルの上に何か手紙のような紙が置いてあった。
近くに行ってそれを手に取ると、どうやら母親の置き手紙らしい。
『智代理へ。昨日も言ったけど、お母さん今日夜いないからひとりで食べてね。お金置いておくから、好きなもの食べなさい。』
手紙の横には五千円札が重石を乗せられて置いてあった。智代理の家庭は両親の仕事の関係上こうったことが割とあるのだが、毎回思うことがある。
「こんなにいらないよ……」
でも好意で置いていってくれているのは確かなので、それを踏みにじるのは心が痛い。なので智代理は毎回、ひとりの時だけ自分の好きなものをたくさん買う。
といっても料理はそれなりにする方なので自分で作ることにした。
軽く着替えと髪型を整えて家を出る。外に出ると夕方から夜にかけての特有の涼しい風が頬を撫でる。智代理はこの風がお気に入りだ。
空を見上げると、デビルズ・コンフリクトの中と同じく藍色の空に点々と星が瞬いていた。
「ゲームの時間とこっちの時間、同じペースで進んでるんだ」
少しだけ涼しい夜風に吹かれて暗がりの道を歩く。少し左手を振ってみたりするが、もちろんメニューパネルは出現しない。
「本当にゲームの世界なんだなぁ……。あの足が速くなるスキル、こっちでも使えれば便利なのに」
そんなことを考えながら歩いていると、歩道の反対側に見知った人物……いや、つい数十分前に一緒にいた人物の姿があった。
「あれ、明日香ちゃんだ」
明日香は私服に何も持たずに歩いていた。
ちょうど信号で止まってくれたので、横断歩道を渡り反対側に行く。
「明日香ちゃんっ!」
智代理が手を振りながら明日香に声をかけると、明日香はそれに気付いてこちらに振り向いた。
「智代理? どうしたの、これから買い物?」
「うん、今日お父さんもお母さんもいないから。明日香ちゃんはいつもの散歩?」
「ええ、ログアウトしたらちょうどいい時間だったからね。夜ご飯ができるまでって思って」
智代理と明日香はどちらからともなく並んで歩きだした。頬を撫でる風が、少しだけ強くなった気がする。
「ねえ智代理」
「なに?」
歩いていた明日香は空を見上げながら少し憂いた表情で言葉を紡ぐ。
「あたし、智代理と一緒に冒険できることになって本当に良かった。どうしても釘丘を探したいって言ったり、自分からギルドの立ち上げに賛成したり今までの智代理からは考えられないこともあったけど、見た目だけでよく調べもせず【ヴァルキリー】取ったり、人前で緊張して声が小さくなったりするところを見てるとやっぱりいつもの可愛い智代理だなぁって思うの。だから、ありがとう」
「ど、どうしたの急に……明日香ちゃんらしくないよ?」
明日香はくすっと少しだけ笑った。
「確かにあたしらしくないかもね。こういうこと言うのは。でもね、智代理だけには言っておきたかったの」
明日香は手に持っていたカバンを楽しそうに揺らしながら智代理の少しだけ先を歩く。
そうだ、明日香はいつだって智代理の少し先にいる。流行とか、勉強とか、運動とか。運動は少しじゃない気もするけれど。
そんないつも先にいる明日香はいつだって智代理を導いてくれる。それを見て、智代理は明日香に憧れている。
もしかしたら、明日香はヤキモチを妬いているのかもしれない。憧れの対象が、自分からマリオルという出会ったこともない人物に変わったことに対して。
考え過ぎかもしれないけれど。
考え過ぎかも知れない、それでも、智代理は今の気持ちを素直に明日香に伝えることにする。
「明日香ちゃん。明日香ちゃんは、いつまでも、これからも、私の親友で大事な女の子で私の道しるべだよ。だから、安心して」
「ど、どうしたの? 智代理らしくない」
明日香は驚いたように足を止めてこちらを見る。
「確かに私らしくないかもね。でもこれだけは、明日香ちゃんにだけは言っておきたいの」
智代理は笑って、大好きな親友、神森明日香に言う。
「これからもよろしくね、明日香ちゃん!」




