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「歩へ
歩がこの手紙を読んでいることを信じます。お久しぶりですね。久しぶりといっても、歩は覚えていないのかな。
私は一度も、あなたを忘れたことはありませんでした。
今、こうしてあなたに手紙を書いているのは、あなたにどうしても伝えたいことがあったからです。
私はあなたを、嫌いになって捨てたわけではないです。今でも歩に会いたいし、愛しているとハッキリ言い切ることができます。あなたに、聞いて欲しいことがあるのです。
私には、育てられない事情がありました。今現在進行型で、それは続いています。私は「ガン」という名の病魔に冒されていました。歩の父親、隆はその直後に職を失っています。リストラでした。ガンはまだ初期段階で、取り除けばなんとかなるらしく、私は手術をうけ、治療に専念し、なんとか直すことができました。でもそれから一年ちょっと後に、また再発。気づいたときにはもう手遅れの状態で、私はすぐに入院し、隆とは離婚しました。隆は失職後も数ヶ月は何とか手に職をつけようとがんばっていましたが、いつ頃からか昼間から酒を飲み、堕落した生活を送る日々。一度目のガンが摘出されたあとは私が働き、なんとか二人で貧乏ながら食いつないでいたのですが、もうガンのために出すお金はありませんでした。
もともとお金もないし、喧嘩ばかりだった私たちは、トントン拍子で話が進みました。私は実家と病院へ荷物を運び、歩を児童施設に預けました。なぜ預けたのか。あなたは恨んでいるかもしれませんが……いや、もしかしたら知らないかもしれませんね。隆に私の可愛い子を預けることはできなかった。あんな飲んだ暮れの男のもとで育ててしまったら、歩はきっとつらい思いをする、そう思ってのこと。私が預かる、というよりは実家で育てるにしても、父と母はもう年老いています。いつ死ぬかわからない両親のもとで育てることも、決断し兼ねました。おまけに両親には、私のガンのことで並々ならぬ負担をかけているはずです。とてもじゃないですが、これから莫大なお金のかかる子供を育ててくれとはいえませんでした。
言い訳になる……いいえ、歩から見たらこれは言い訳以外の何物でもないのだろうけれど、事実はそうでした。
もし、歩が「自分は捨てられたのだ」と、そう思っているなら、それは違います。確かに形の上では捨てたことになるけれど……、私は一度も歩をいらない存在としてみたことなどないし、忘れたことだってありません。
もしよかったら、是非私のところへ一度遊びに来て下さい。
住所は、○○丘五丁目二の四です。
三竹雪子」




