03・その世界は終わりを告げた
翌日
退屈な午前の授業を終え、購買で昼飯のパンを買い終えた俺は、裕平が待っているであろう教室へと向かった。
「あっ‼ ミッチー遅いぞ。俺もう腹減って死にそう」
教室では、俺の席に裕平がふんぞり返って座っていた。
「うせぇな。混んでたんだよ」
昼飯はいつも裕平と一緒に食べる。
別に、友達と呼べるモノが裕平しかいないとかそんなんじゃない。断じてない。
俺は、購買で仕入れたパンを机にならべた。
普段は家から持参した弁当を食べるのだが、俺たちには、週に一度だけ、なんらかの勝負をして、負けた方がパンを奢るという、妙なルールが存在している。
この日は、簡単にじゃんけんで決めたわけだが、俺は運悪く一発目で負けた。
そういや、今日の星占いも最下位だったような気する。
「あ、そうだ。結局、あの机の落書きの子ってミッチーの家に来た?」
裕平は、机の上に並べられたパンの中から、焼きそばパンを取り出しながら言った。
ああ、くっそ。
俺が狙ってたのに。
「あ?……きたよ」
俺は、仕方なくツナマヨサンドイッチを選ぶ。
「うっそ‼ どんな子だった?やっぱ男?」
「…………………女。すっげー美少女」
「マジっ⁉」
なんだよ、お前が女かもしれないって言ったんじゃねぇか。
「で、その美少女は何の用でミッチーの家に来たんだよ。やっぱ告白?」
裕平がキラキラと目を輝かせて、そう訊いてきたが現実は全く違う。
あの黒神とかいうやつがしたのは、ある意味告白といえるかもしれないが、告白は告白でも、そこにLOVE要素などどこにもなかった。
「ちげーよ……そんなんじゃ、ない」
「じゃあ、何だったんだよ」
そんなの言えるか。
世界が壊れるとか、そんな次元の話だぞ?
俺だってわけわかんねぇのに、裕平に話せるはずがない。
どうやってはぐらかそうかと思案していると、いいところに横合いが入った。
ガラッと教室のドアが開いて、一人の女子生徒が入ってきたのだ。
教室の中の視線が一斉にその女子に集まったが、彼女は気にする様子もなく、こちらに駆け寄ってきた。
「先輩、先輩、先輩、先輩‼‼ ミッチー先輩‼」
という奇声を上げながら。
「あ、柳花ちゃんだ」
隣で裕平が呟く声が聞こえて。
俺は頭が痛くなる。
まーたうるっさいのがきた。
どうやら今日は厄日らしい。
女子生徒…橘 柳花は、俺の一つ下の学年、つまり後輩だ。
ちなみに、俺や裕平と同じ中学出身で、柳花は野球部のマネージャーだった。
その頃からこの後輩は、なにかと俺につきまとってくるのだ。
見た目こそ、長い髪を三つ編みにし、メガネを装着して、まさに真面目な委員長って感じだが、中身はその逆で、ずいぶんはっちゃけていたりする。
「先輩っ‼ 一体全体、どういうことなのか説明してくださいっ‼」
柳花は、パンが並べられた机をバンッと勢いよく叩いた。
説明してくださいとか言われても、何をどう説明しろって言うんだか。
まずそこを説明して欲しい。
「まぁまぁ、落ちついて、柳花ちゃん」
裕平が、周りの目を気にしながら、なだめるような口調でそう言った。
教室にいた連中が、なんだなんだどうしたんだ、とこちらに注目している。
あーもう。
面倒くさいっ‼
「とりあえず、お前こっちこい」
俺は、柳花の腕を掴む。
このまま注目の的なんてごめんだ。
場所を変えよう。
俺は柳花を引っ張って、隣の空き教室まで連れていった。