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01・その予言者は雄弁に語る

[今日、僕は高山 道幸の家に行く]


朝、学校に到着した俺は、教室の自分の机の上に、鉛筆で黒々と書かれた、そんな落書きを見つけた。

高山(たかやま) 道幸(みちゆき)というのは確かに俺の名前だ。


なんだ、これ。


首を傾げる。


こんな落書き、全く見覚えがない。

誰かから俺へのメッセージ、といったところだろうが……。

少なくとも、昨日俺が帰る時点では、こんな奇妙な落書きはなかったはずだ。

ということは、昨日俺が帰った後か、朝俺が登校する前に誰かがこの落書きを書いたことになる。



俺の知り合いで、一人称が「僕」の奴なんて、いなかった……気が済するんだが。

じゃあ、一体誰が。

第一、自分が誰であるかも名乗らずに、一方的に「家に行く」なんて、ずいぶんとぶざけたやつだ。

しかも勝手に人の机に落書きするとは。

なかなかいい根性してるな。

などと思いながら机を睨みつけていると、


「おっはよ‼ ミッチーどうしたの?んな怖い顔してさぁ」


聞き慣れた友人の声が後ろから聞こえて、俺は振り返った。

そこに居たのは、案の定、小さい頃からの友人である南方(みなかた) 裕平(ゆうへい)だった。

こいつとはまぁ、いわゆる腐れ縁というやつで。

同じ小中学校を卒業し、さらに高校まで一緒になるくらい、切っても切れない縁がある。


「これ、見てみろよ」


俺は、あの奇妙な落書きを、裕平にも見せてやろうと、落書きを指差した。


「ん?なになに⁇」


裕平は興味しんしんで机を見て、


「なにこれ」


と、やはり不思議そうに首を傾げた。


「朝来たら、書いてあった」


「ふーん……あ、わかった‼」


一体なにがわかったというのか、裕平は少しの間考える素振りを見せると、ポンッと手を打って、ニヤリと笑う。

どうせ裕平のことだから、たいしたことは言わないだろうが……。


「それ、告白じゃない?ミッチーさ、結構女子にモテるじゃんっ。男前だし」


裕平の言葉に、俺は首を振った。

呆れた。

そんなわけないだろ。

よく考えろっての。


「んなわけ、ねーだろ。告白するのに勝手に人の机に落書きする奴があるかっ。それにほら、一人称が[僕]になってるだろ、男だよ、こいつ」


「そんなのわかんないよ?一人称が[僕]の女の子かもしれないし。それか、ホ…ぐほぁっ‼」


「黙れ、馬鹿」


裕平が余計なことを口にする前に、奴の腹に一発きめてやる。

ったく……。

やはりこいつは昔からろくなことを言いやがらない。


「いってぇ。酷いなぁ、ミッチーの馬鹿‼ 」


裕平は俺を睨んできたが、特に気にせずスルーして、俺は丁寧に机の落書きを消した。


ま、この落書きを書いた犯人が誰であれ、今日家に帰ったらわかることだ。

なにせ、犯人じきじきに家に来ると宣言している。

それに、ただのイタズラかもしれないし。

どちらかといえば、そちらの方が可能性としては高い。


そう楽観的に考えて、その日昼休みには、もうすでに落書きのこのなどすっかり頭から抜け落ちていた。


◆◇◆◇ ◆◇◆◇ ◆◇◆◇


その日の放課後。


「ミッチー! 俺、英語の再テストあるから、終わるまで帰らないでよっ⁉」


などとほざいた裕平をスルーして、俺は机上に置いてある鞄を手に取った。


「俺は帰るからな」


「えー待っててくんないの?」


「ヤダね。なんで待ってなくちゃいけないんだよ。俺はいろいろ忙しいんだよ」


俺がそう言うと、裕平は口を尖らせた。


「なんだよっ、ミッチーのケチ。ミッチーなんて、男に告白されて襲われればい…ってぇぁ‼」


裕平の頭を思いきりはたく。

とんでもないこと言いやがって。


俺は教室のドアを開けた。

後ろから、

「ミッチーのバカァ」

という捨てゼリフが聞こえたが、無視を決めて、ドアを閉めた。


◆◇◆◇ ◆◇◆◇ ◆◇◆◇


家に帰り着いたのは、午後六時を少しすぎたくらいだった。

鍵を鞄から取り出し、ドアを開けると、家の中は薄暗かった。


まぁ、それもそうだろう。

両親は共働きで二人とも夜遅くにしか帰ってこないし、中学二年生である弟の春幸(はるゆき)は、部活の野球に没頭しているから、まだ学校だ。


俺は、部活はやってない。

中学の頃は、弟と同じく野球部で青春の汗を流したが、高校に入る頃にはもう野球をする気など失せてしまっていた。

入りたいと思う部活もなく、結局帰宅部一直線だ。


俺は、電気をつけると、ソファーに身を沈めた。


なんだか今日は疲れた。

……あ。そういえば。


ここにきて、やっと今朝の落書きについて思いだした。

あれを書いた犯人は、果たして本当にこの家に来るんだろうか?

一体なんの目的で?


そんなふうに考えてるうちに、いつの間にか睡魔に襲われて、意識を手放していた。


◇◆◇◆ ◇◆◇◆ ◇◆◇◆


ピーンポーンピーンポーン…


という、激しく連打されるチャイムの音で、俺は覚醒した。


誰かが、来た。


寝起きでけだるい体をソファーから起こして、玄関へ向かう。

その間、ずっとチャイムは、鳴り響いていた。


近所迷惑だっつーの‼

どんだけ押しまくってんだっ‼


俺は、ばんっと勢いよく玄関を開ける。


「やあ。道幸君。こんにちは。いや、もうこんばんは、という時間かな?」


「………」


俺は、呆気にとられて、目の前の少女を見つめた。


見たことない、長い黒髪の美少女が、そこに立っていた。

短いズボンにタンクトップというなかなか露出度の高い格好をしている。


いくら今が夏で暑いからって、ちょと肌出しすぎなんじゃないか?


でも、それだけ肌を太陽に晒しているはずなのに、その少女は病的なまでに色白だった。

年はおそらく俺と同じくらい。

彼女は俺の姿を見るなり、目を細めて微笑った。


「えーと……どなたさま?」


とりあえず俺は尋ねる。


「僕は、黒神(くろかみ) 月夜(つきよ)。今朝、君の机にメッセージを書いたのは僕だよ」


彼女はそう言って、ニヤリと不敵な笑顔を浮かべた。


なるほど。

あの机の落書きの犯人はこの少女らしい。

てか、女の子だったのか…


『もしかしたら一人称がボクの女の子かもしれないし』


裕平の言葉を思い出した。

どうやら、奴の予想もはずれじゃなかったようだ。

なんだか癪に障る。


「………で、なんの用?」


「今日君の家に来たのは、他でもない、君に大切な話がある」


黒神は、そう言うと開けっ放しの玄関を指差して「中で話してもいいかな?」と訊いてきた。


なんだこいつ。

ていうか、なんでこの黒神とかいう少女は、俺の家を知ってるんだ?


怪しい奴だと思ったが、好奇心と、かなりの美少女を家にあげる、という誘惑に負けた。


「どーぞ」


「おじゃまさせて貰うよ」


黒神は、そう言うと、家の中へ入っていく。


俺は、静かに玄関を閉めた。




「ふむ。部屋はキレイにしているんだね」


俺は、黒神を俺の部屋に案内した。

黒神は、俺のベットに座って、部屋を観察している。

ベッドの下まで、覗こうとしたので、俺は慌てて阻止した。

そこには、人に、特に女の子なんかに見られると、まずいモノがあるわけで……。


それにしても、この女は、危機感がないのだろうか。

仮にも、男女が一つ屋根の下だぞ?

襲われたらどうするんだ。

さっきから、彼女のズボンやタンクトップから覗く白い手足に目がいってしょうがないんだが。

まあ、俺はそんなことはしない。断じてしない。


「で、話って?」


まさか本当に告白とかじゃないだろうな。

すると彼女は、やれやれと首を振った。


「その前に、君は客に飲み物も出さないのかい?」


なっ。

自分から飲み物をねだるとは、なんてずうずうしい客だ。

仕方なく、俺は、キッチンに向かい、お茶を入れるはめになった。


「ほら」


麦茶の入ったコップを乱暴に机にのせる。

すると、冷えたグラスの中で氷がカランッとなった。


「ご苦労様」


いちいちムカつく奴。



「でっ、話って⁉」


俺がそう尋ねると、黒神は、急に真剣な表情になって。

俺は思わずゴクリと唾を飲みこむ。

彼女の深い闇色の瞳に見つめられて、なぜかザワッと、とり肌がたった。


「話というのは、君とこの世界の未来についてだよ」


はぁ………?

この世界の未来?


黒神は一体何を言うつもりなのか。

なんだか、嫌な予感がした。


「いいかい、よく聞くんだ、高山 道幸君」


彼女はそう言うと、ずいっと俺の方に身を寄せる。黒崎の顔が、目と鼻の先にせまった。

あまりの至近距離に、俺は息を飲む。


そして、彼女は、冗談みたいな訳のわからない台詞を、まるでこの世の終わりのような顔で口にした。




「近いうちに、この世界は壊されてしまうだろうね」










たぶんかなりの亀更新になると思います(^^;;

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