資源は力なり
辞民党が政権を奪われ、民々党が悲願の政権に着いたのは良いが、コロコロ毎年のように首相が代わって行った。
中には一年持たないで首相が代わる。これはもう世界の笑い者である。誰がやってもどんぐりの背比べであった。
力のあるリーダーの居ない日本は経済も立ち直れず、ついに国の借金が天文学的な一千兆円近くにも膨らんだ。
この金額がどの位のものなのかと云えば、国民一人あたり八百万円にも及ぶ。
会社に例えれば破綻寸前である。良くもまぁ打ち出の小筒じゃあるまいし困った時の神頼みと借金の山を築いたこと。
時は西暦2015年になり怒りの収まらない国民は千人のデモ行進から始まり一週間後には五万人に膨れ上がり、やがては日本全国に広がりその規模は百万人を越え、ついに民々党は総辞職寸前であった。
「ええーでは此処で今や押しも押されもせぬ大女優として芸能界に君臨する吉永灯美子さん、今の政治の在り方についてお伺いします」
大女優と朝の政治討論番組の司会者に紹介された吉永灯美子は、クスッと笑ったが否定はしなかった。
日本の女優にしては眼がきつい。それで居て気品があり、知的で美貌の持ち主であった。
男でも叶わないほどの強心臓の持ち主であると共に自信家であり、こう言った政治論は下手な国会議員も歯が立たない。
「そうですね。政治家でもない私が語るのもなんですが、もはや今の政治では日本はギリシャの二の前になりますね」
それは聞いた民々党幹事長、鳩弦次郎が噛み付いた。
「それは吉永さん聞き捨てなりませんなぁ我々は寝る間も惜しんで日本経済を立て直しに掛かっているのですよ」
「あらまぁ。そうなのですか? それなら何故国民があれだけ騒いでいるのですか。もはや民々党は終わっていますよ」
終わっている発言に幹事長は怒りを爆発させた。
「君~~素人に何が分かる? では君に今の数百万のデモを鎮める事が出来ると言うのか?」
「勿論、それだけの自信があるから言っているのです」
「ほう……それだけ大見得を切るなら、国民のデモを静めてくれなら君を大臣として迎えよう」
「幹事長、その言葉に嘘はないですね。いいわ私も約束しましょう。私が日本を変えると」
吉永灯美子は平然と言って退けた。
もう今の政治は男に任せて置けないと立ち上がった人気ナンバーワンの女優、吉永灯美子であった。
灯美子は現在38才。東大卒で地質学を専門に学んで来た秀才でもあり博士号も取得しいる。元々、女優よりも政治家向きと噂された人物である。
映画の中でも時々、若き国会議員役で名演技は有名だ。まして東大出で頭も切れる。以前に辞民党や民々党から選挙出馬を頼まれた人物だ。
「国民の皆様、わたくし吉永灯美子は沈みかけた日本を救います。女に何が出きると言わないで下さい。ミャンマーでは民主化運動指導者アウン・ノ・コキュー氏が国を変えようとしております。私にはある構想があります。お約束します。私が日本を救います」
テレビ番組の政治討論で彼女が国民に訴えた。デモに参加した群衆は彼女に賭ける事にし、ひとまずデモは鎮静化した。
民々党はもはや打つ手はなくなった。これでは国が滅びる。公約通り幹事長は彼女を大臣として迎えた。
最後の手段として民々党は民間から文部科学大臣として迎えたばかりが、数ヵ月後には何を血迷ったか日本初の女首相へと祭り上げた。
憲法六十七条一項は「内閣総理大臣は国会議員でなければならない」とは書かれていない。天皇の任命を受ければ可能なのだ。
勿論、一部の議員や大衆からは、いくら頭が切れるからと言って若干38才で素人に何が出来るのかと反対もあった。
しかし党の解体よりも国が崩壊する事が怖い、苦肉の作であった。国民は唖然としたが、ともかく彼女に期待を寄せた。
女優時代から強気の発言で有名だが、その彼女は就任演説で、とてつもない事をぶち上げた。その内容は?
「私が日本を変える。日本の歴史をご覧ください。日本人は物を作り売る事で経済成長を成し遂げて参りましたが、もはやその時代は終わったのです。日本は国土が狭く資源がないと誰も資源を発掘しようとしませんでした。しかし忘れては居ませんか? 国土面積は約38万km2で世界で64番目であるが、だが我が国は海洋資源に恵まれた国なのです。海域は国土面積の12倍の405万km2であり、これは世界で六番目となる。とても海洋資源に恵まれた国なのです。この海洋資源を何故発掘しないのですか? 私は宣言します。これより海洋資源調査として国家予算の10%弱つまり九兆円を注ぎ込みます」
国会は大騒ぎになった。これでは国民に消費税を上げるとは言えなくなる。
「首相!! 何を血迷ったか知らんが今の日本経済にそんな余裕がない」
「あなた方は何も判っていない。責任うんぬんとか保身に走っては何も生まれませんよ。私は地質学者でもあるのです。自信はあります。良いですか今は下町の工場でも資源探索を自費でやろうとしているのですよ。千葉県沖200キロの地点に8千メートルの海底にボーリング計画を立てているのですよ。なぜ国は何もしないのですか、今では中国、韓国にも日本企業は押されて風前の灯じゃありませんか。今こそ世界六位の広大な海原から海洋資源を発掘するのです」
「首相! 可能性はどのくらいあると、お思いですか? 9兆円という税金の無駄使いとなったらどう責任を取るのです」
「それなら作れば良いのです。日本には宗教法人など税金を払わなくても良い団体があります。勿論、この団体でも個人となれ税金を払いますが、お布施、お賽銭、寄付金など収益の分からない物があります。何よりも訳の分らない怪しげな宗教法人があります。拠って私は法の改正を行い国が認めた宗教法人以外の宗教法人制を廃止し利益団体として法人税を導入します」
これに怒ったのが宗教団体からなる孔命党であった。しかし吉永首相はたった三ヶ月でこの法案を可決させ年間8兆円を吸い上げた。
これは国会議員のみならず国民まで唖然とさせられた。8兆円が浮き誰もが反対しなかった。確かに大きな賭けではあるが望みはある。
「良いですか? なんの根拠もなく9兆円もの税金を注ぎ込むと思っているのですか。すでに何千人にもの専門家チームで調査を進めています」
確か強気な女性である。この首相なら何かやってくれる、そんな声が聞こえるようになった。
現在日本には海洋調査船なるものは民間合わせて数百隻を軽く越える。その内半分以上は漁業に関連したものであり海底資源と無縁のものだ。
政府は地質学者、海洋学者等を総動員して、日本にある全ての海洋観測艦に南極観測船、自衛艦まで投入した。
それから一年、首相官邸に第一報が入った。
「新潟県沖から90キロ地点で油田を発掘、かなりの規模の埋蔵量が予想されます」
吉永灯美子の顔はみるみる紅潮し、握りこぶしを作り「やった」と叫んだ。
そレから更に半年後。更に吉報が入った。
宇宙からは人工衛星からの海洋調査を始めたいたが、そしてついに天然ガス田を発見。
続いて小笠原諸島海域で巨大な埋蔵量と思われる油田が見つかった。
良い事は続くもので北海道の阿寒湖近くで希少金属レアメタルが見つかった。海からも陸からも日本は膨大な資源を手にした。
マルコ・ポーロの『東方見聞録』によると莫大な金を産出し、宮殿や民家は黄金で出来ていて財宝に溢れている国、それがジバング(後の日本)と紹介している。
ついに黄金の国ジバングの復活であった。
かける
この朗報に国民は沸き上がった。日本には資源ないと歴代の首相は海洋調査に力を入れなかった。
まったくではないが、年間予算の一割も注ぎ込むなんて無謀な事はしなかった。
失敗したら歴代首相でもっとも罪深き首相としてレッテルを貼られるのをおそれたからか?
これで国の借金一千兆円も十年以内に返済の見込みが立った。
その点、怖いもの知らずで強気の吉永灯美子は成功した。成功なんてものではない吉永灯美子はどん底の日本を救った。
それから三年後、消費税は廃止、全ての高速道路は無料化。石油産油国となった日本はガソリン税も廃止。医療費は五%のみの負担。
老齢年金は六十才から全ての国民に最低月額四十万円を約束した。国民は喜んだ。安心して老後を暮らせると。
今や無職者は、ほぼゼロ状態となり日本経済は世界一へと躍り出た。
だが強気の吉永灯美子は首相になって五年、今や日本の女神様と言われ誰も逆らう者は居ない。
少子高齢化問題も心配ない。将来の不安も解消され今や若い夫婦で子供三人以上が当たり前の時代になった。これで日本も安泰である。
こうなると留まる事を知らない吉永灯美子は眠らせていた構想の実現に向った。
「国民の皆さん、今日本には少なくても三つの領土問題がありまする不等に占領された北方領土、尖閣諸島、竹島。実質的にロシア、中国、韓国に支配されたも同然、これは日本の国が弱いからです。しかし今の日本は資源が豊富で今や世界一の経済大国となりました。資源は力なり強い日本を復活させるには他国以上の軍事大国でなくてはりません」
今や独裁者となりつつある灯美子に逆らう者は居ない。経済力に物を言わせ夢の構想を実現させた。
その灯美子の野望とは、密かに進めていた原子爆弾保有国として世界に宣言した。
各国は国交断絶と迫ったが、しかしそれも予測し、これも既に秘密裏に建造していた軍事力を公表した。
有り余る金でついに日本は世界最高の軍事力を公開した。宇宙から攻撃できる核弾頭ミサイルを配備済みであること。
原子力空母二十艦建造、原子力潜水艦三百艦 国産ステルス戦闘機二千戦機、自衛隊を廃止し150万人の軍とした。
驚いた中国、ロシア、及び韓国は領土主張していた島を放棄した。北朝鮮に及んでは拉致被害者を全て帰し核兵器廃止を決めた。
「国民の皆さん、政治は力です。我々は勝利したのです。しかし70年前の日本を繰り返してはなりません。今の日本の軍事力は政界一となりました。だが日本は世界平和の為に他国を攻撃するような愚かな事はしません。困った国には手を差し伸べます。しかし他国で紛争があれば力で押さえます。今や衰退したアメリカに変わり日本が世界の警察になるのです」
独裁者はいずれ滅びるが、今や吉永灯美子は世界一素晴らしい政治家として各国から慕われている。
資源は力なり金は力なり、軍事力は他国を黙らせる。吉永灯美子は今や日本いや世界の救世主、卑弥呼の生まれ代わりと称えられた。
(あとがき)
これは日本の渇を入れる為と、元気な日本を応援する為の妄想と思ってください。
大災害に見舞われ政界も国民から信用を失い、企業も他国の勢力に押され
大手企業がこぞって赤字。一体この国の舵取りは誰が取るのか?
そこでヒーローの登場。最後はスカッして頂ければ幸いです。