*前編*
愛って何ですか?
人を好きになる事?
求め合う事?
あたしは…
愛を知らなかった
あなたに出逢うまでは…。
*daily*
・・・・・・・・・
ジリリリリリ♪
目覚まし時計が鳴る。
「んー…」
布団に潜り込むあたし。
ガチャ…
部屋のドアが開きオカンが入って来る。
「花!!
早よ起きや!!」
いつも以上にうるさいオカンの声。
オカンは布団を剥ぎ取る。
同時にあたしに降り注ぐ眩し過ぎる朝日。
「後…五分…」
枕に顔を埋める。
「何言ってんの!?
今日は入学式やろ!?」
入学式…!?
忘れてた!!!
「って…もう七時半やし!!
早く起こしてって言ったやん!!」
「あんたが早く起きへんからやろ!!」
日常茶飯事のオカンとの口げんか。
オカンを追い出し、急いで制服に着替える。
少し大きくシワ一つない制服。
鏡を見てチェック。
「うわ!!
寝癖やばっ!!」
キユーピーちゃんの様な寝癖を直し、
染めたての茶色い髪を巻いていく。
「よし!!」
髪はバッチリ♪
残るは…
メイク。
「うまくいくかな…?」
中学生だった花は、メイクなんて未経験だった。
昨日、高三のお姉ちゃんに基本は教えてもらったけど…
慎重に化粧水に手を伸ばす。
…三十分後…
「出来たぁ!!」
奮闘の甲斐あって、メイクは成功。
淡いファンデと
薄いリップが
花を大人に近付けてくれたような気にする。
時計を見ると…
八時十分。
待ち合わせの時間まで後…五分…
「行ってきます!!」
朝ご飯も食べず家を飛び出す。
「スカート短すぎ!!」
オカンの声が聞こえた。
待ち合わせの駅まで自転車を目一杯こぐ。
春の風になびく髪…
髪から漂う甘い香水の香り…
四回も折って短くしたスカート。
あたしは変わる。
「ハァハァ…」
駅に着いた。
時刻は八時二十分。
すごい!!
たった十分で着いた!!
自分の底力に感心する。
「はーなー!!!」
恐ろしい声に振り向くと親友の真里が立っていた。
「えへへ…」
愛想笑いをするあたし。
「五分遅刻!!
帰り、何かおごってや!!」
「はぁい…」
真里とは小学校の頃からの親友。
中学の三年間もずーっと一緒。
腐れ縁。
ケンカも沢山したけど、
辛いとき
悲しいとき
花を助けてくれるのは真里だよ♪
「ってか…花…
スカート短かくない!?」
あたしのスカートを見て
顔をしかめる真里。
「そぉ?」
くるっと回って見せる。
「先輩に目ぇ付けられても知らないからね!!!」
「だぁいじょーぶだってえ!!」
真里とふざけあいながら電車に乗る。
電車の中はかなり混んでいた。
ケバいOL
やつれ顔のサラリーマン明らかなオタク
携帯をいじくる不良達の香水の臭いが鼻を付く。
これからは毎日、
この電車に乗らなきゃいけないんだ…
そう思うと憂鬱になった。
立ったまま…
電車に揺られること二十分。
目的の駅についた。
車掌のアナウンスが駅の名前を言った時の解放感といったら…
「んー…」
電車を降り目一杯のびをする。
「行くよ!!」
真里に言われホームを出た。
駅から学校までは、歩いて十分。
真里とくだらない話で盛り上がってるとすぐ着いた。
門をくぐり
運動場に入る。
運動場には沢山の人がいた。
「とりあえずクラス表見に行こ♪」
真里と運動場の中心にある、クラス表のボードの前に行った。
「十クラスもあるんだぁ!!」
ずらっと並んだクラス表にびっくり。
「これじゃあ一緒のクラスは無理っぽいね…」
真里は苦笑い。
「ってか、自分の名前探すのも一苦労やし…」
クラス表に並んだ、とてつもない数の名前にゾッとする。
「うちは、十組から探してく!!
花は一組から探して!!」
「OK!!」
真里と手分けして探す事…
十二分…
「あったぁ!!」
花の名前は三組の表にあった。
「うちもあった!!」
真里は四組。
予想通り離れた…
でも隣だからいっか!!
真里と古びた校舎に入ってく。
花と真里の教室は四階。
隣同士。
「じゃあ帰りね!!」
「うん♪」
真里と別れ教室に入る。
緊張と…
期待と…
不安が入り混じった複雑な気持ち…
ガラガラ…
教室に入ると殆どの生徒が席に着いていた。
慌てて席を確認し座る。
花の席は一番後ろから二番目の窓際。
窓からは綺麗な青空が見えた。
しばらく空を見た後…
教室を見渡す。
花の前の席は、
クールそうな女の子。
長くて綺麗な黒髪に落ち着いた眼差し。
大人っぽい
の一言が似合う美人な子。
後ろは、
チャラい感じの女の子。
前髪を上で結び、
派手な化粧が似合ってる。
メイク直しをしてる可愛い女の子。
そして…隣。
隣は男の子だった。
明るい赤茶色のサラサラの髪
綺麗な茶色い瞳
ピアスも付けてて、軽そうな感じ。
ボーっと隣の子を見てると目が合ってしまった。
流れる沈黙。
気まずいな…
と思ってると意外にもその子が口を開いた。
「俺、相原 優。
よろしくな♪」
予想外の可愛い笑顔に戸惑うあたし。
「あたしは…
進藤 花。
よろしく♪優君☆」
優君と言う響きに優君は顔を染める。
「優でいいから♪
花は何中やった?」
優と話していると、先生らしき人が入って来た。
眼鏡をかけた、
おどおどしてる女の先生。
先生は話を始めた。
先生の長々しい話。
退屈なあたしは頬杖をつき、
空を見ていた。
結局、聞いたのは先生の
「葉山 静です」
という自己紹介だけ…。
「さて!!」
話が終わったらしく先生は息をついた。
「皆さんも自己紹介して下さい。」
えーー!!
とざわめく教室。
は!?
小学生じゃないんだから!!!
馬鹿らしい提案に大ブーイング。
「じゃあ出席番号一番の相原君から!!」
隣の優が立ち上がる。
もうみんなは諦めて覚悟を決めた。
「相原 優です!!
たった一年だけどよろしく♪」
パチパチパチ…
トップにして完璧とも言える自己紹介に拍手が起きた。
優は照れくさそうに笑い座る。
優が終わり、
一人…
また一人と自己紹介が終わってく。
「次、遠藤 百合さん!!」
先生の声に合わせ、前の子が立った。
落ち着いた、
かなり美人な子。
「遠藤 百合です。
よろしく…」
予想通りかなりクール!!
格好いいなぁ!!
男子生徒も目を輝かせていた。
パチパチパチ…
「次は、
大野 紗衣さん。」
あたしの後ろの子が立ち上がる。
「大野 紗衣でぇす!彼氏募集中なんでぇよろぴく♪」
典型的なギャル…
ここまでギャルな人、
ナマで見るの初めてかもぉ!!
パチパチパチ…
「進藤 花さん!!」
あたしだ!!
緊張はMAX。
「しっ…進藤…花ですっ!!
よろしくぉ願いしますっ!!」
かなりテンパり声が裏がえった。
「…大丈夫ですか?」
先生の言葉にみんなは大爆笑。
頬を赤く染めて座る花。
恥ずかしいっ…
隣を見ると優が笑い転げていた。
「花!!最高!!」
花の真似をして何度も笑う優。
花が拗ねていると、後ろから肩をつつかれた。
「ん?」
振り向くと大野さんが笑っていた。
「花ちゃんだよね!!面白いぢゃん♪
友ダチんなろぉ?」
紗衣とアドを交換し沢山はなした。
紗衣は暴走族の友達が何人もいる。
花の周りはいつも真面目な子ばかりだったから、
不良な紗衣に惹かれた。
入学式当日は、
紗衣と
優と
友達になって終わった。
家に着くと、
早速紗衣からメールが来た。
《はろぉ♪
暇だぉ…
メールしょぉ?》
紗衣とメールをした。
友達の事…
恋愛の事…
そして今度、暴走族の友達と紗衣と花で遊ぼって話しになった。
暴走族の友達…
その響きがすごく良かった。
入学してから三ヶ月が経った。
着心地悪かった制服も馴染んだ。
化粧も慣れた。
髪を巻くのも早くなっていった。
学校では、
また友達が増えた。
クールなあの子…
そう!!
百合とも友達になった。
今は百合と、
紗衣と花で一緒にいる。
何かと騒がしい紗衣と花。
なだめる百合。
仲良しトリオ。
隣は優。
優とも仲良しだった。
優と優の友達の光雄。
光雄とも優とも、
よくメールしたり遊んだりする仲だった。
毎日が楽しい!!
そんなある日。
「ねえっ!!
紗衣と百合と花と、光雄と優と拓で遊園地行かん?」
いきなりの百合の提案。
みんなは目をパチクリする。
「嫌…?」
不安そうに聞く百合。
「ううんっ!!
行こうよ!!!
楽しそぉ!!」
弾けるあたし。
「ぅちも行きたぁい♪
賛成ぃぃぃ♪」
紗衣も笑顔になる。
「俺も行く!!」
「俺もぉ♪」
「俺もっ☆」
男子達もノリノリ。
結局、日曜日の一時から紗衣と百合と花…
光雄と拓と優で遊園地に行く事になった。
「どしたの?百合♪」
体育の時間。
紗衣が百合に聞いた。
「え?」
「バレバレだしぃっ♪百合がみんなで遊園地行こうなぁんて、珍しいぢゃん☆」
紗衣が意地悪く微笑む。
紗衣も花と一緒の事考えてたんだ…
「実は…
あたしね……
優の事…
好きなんだ…」
真っ赤になり答える百合。
「えーーー!?」
目を見開くあたし。
あの中に百合の好きな人がいるぐらいは分かってた…
でも…
まさか優なんて…
驚きの他に得体の知れない感情が溢れてくる。
黒くて汚れた感情。
紗衣はやっぱりと言った顔で百合をみた。
「で…
どぉするの?」
百合は覚悟を決めたような目をした。
「遊園地の日…
告白するつもり!!」
いつも冷静な百合の事だ…
覚悟は堅いんだろう…
複雑な気分だった。
「だからお願い!!
協力してっ」
百合は真っ赤になり花と紗衣を見た。
いつもなら、
そんな事絶対しないプライドが高い百合。
そんな百合を見てると
本当に優が好きなんだと思えた。
そして…
優と幸せになって欲しいと思えた。
心の底から。
「もちろんっ♪
ぅちわ協力するよん☆
花はぁ?」
答えは決まった。
「協力するっ♪」
時は過ぎ…
日曜日当日。
ジリリリリリ♪
いつもより遅くセットした目覚まし。
起き上がりのびをする。
人間って不思議なもんだ…
学校の日は、
起きるのが辛いのに
休みの日はスッと起きれるんだ。
「おはよー」
リビングに行くと、もうオカンがいた。
オカンは朝食を作りながら、
いつもより早く起きた花を見て驚く。
「今日早いな…」
オカンの気持ちを察した様にお姉ちゃんが言った。
「今日は友達と遊園地行くねん♪」
お姉ちゃんに自慢するように言う。
「車に気い付けや!!」
「子供扱いするな!!」
お姉ちゃんとの口げんか。
朝食のトーストを口に詰め込み、
部屋へ戻る。
クローゼットを開いて服を選ぶ。
クローゼットの中には二百着以上入っていて選ぶのが大変。
結局、去年買ったものの一度も着ていない服を選んだ。
鏡の前に座り化粧タイム。
寝癖も相当やばい。
「よしっ!!」
気合いを入れメイクをした。
花の顔はメイクがノリやすい日と
ノリにくい日がある。
今日は運良くノリやすい日。
化粧はバッチリ。
髪もいつも通り、
軽く巻いた。
ゴロゴロして約束の時間を待つ。
十時になれば、
紗衣が迎えにくる予定…。
ピーンポーン♪
ぐーたらしてるとチャイムが鳴った。
「はぁい…」
オカンの声が聞こえた。
窓から下を覗くと、いつもより数倍派手な紗衣がいた。
「来た♪」
階段を駆け下り、
玄関を出た。
「はろぉ♪
花っち!!」
紗衣はギャル…
改めて思い知った。
パンツが見えそうな短いスカート
へそ出し
でかいピアス。
オカンが見たら失神するな…
「紗衣…今日も凄い…」
目をみはる花に紗衣は笑った。
「甘いな花っち♪
今日は遠慮気味やでぇ☆」
遠慮気味…
これで!?
紗衣の派手はどんなんだろう…
「さっ♪行くよん☆」
紗衣の原チャリに跨る。
紗衣にとって無免なんて当たり前。
ノーヘルに
無免許に
二ケツ。
捕まったら…
って考えると怖かったけど、
後らへんになるとそのスリルも楽しくなる。
「気持ちいいっしょぉ?」
風にかき消されないように大きい声で紗衣が言う。
「うんっ!!
こんなの初めて!!
最高♪」
びゅんびゅんと過ぎていく景色。
七月の乾いた風。
最高に心地よかった。
「次はこんなダサい原チャリじゃ無くて格好良い大きいバイクに乗せたげる♪」
紗衣の言葉に胸が弾む。
紗衣が羨ましいな…
大きいバイクとか
派手なメイクとか
花が欲しいモノ…
全部持ってる。
何より…
自由だし…。
「おしっ♪
着いたぁ!!」
風で乱れた髪を整えながら紗衣は止まった。
待ち合わせ場所の遊園地の門。
みんなは来てる。
「早くぅ!!」
百合のハスキーボイスが聞こえた。
紗衣と花は門のすぐ前でタムロってる、みんなの所へ走る。
「まったぁ?」
そう言う花の言葉にみんなは息をのむ。
「何…!?」
もしかして値札ついたままとか!?
慌ててチェックする。
でも特に変わった所は無い…
「花…
可愛いーーっ!!」
いつも冷静な百合があたしに抱き付く。
「え?」
男子達も花の姿を見て顔を赤らめる。
「花…
マジ可愛いんだけど…」
光雄が呟いた。
「光雄ちゃん…
花に惚れたぁ!?」
紗衣が意地悪く光雄を見る。
「ば…馬鹿っ!!
ちっ違うし…!!」
光雄はゆでだこ。
みんなは爆笑。
幸せな一日が始まった。
六人は色んなアトラクションを見て回った。
「やっぱさぁ!!
遊園地と言えばお化け屋敷じゃない!?」
紗衣がお化け屋敷を指差して言う。
「おっ!!
いいぢゃん!!
行こうぜ♪」
ノリ気の拓っち。
「じゃあさっ!!
二人一組はどう?」
紗衣の提案にクジで決める事になった。
結果は…
紗衣と拓っち。
花と光雄。
百合と優。
もちろんそうなるように仕組んだんだけどね♪
順番はジャンケンの結果、
花と光雄チームがトップになった。
「怖い…」
「まだ入り口にも入ってねえし(笑)」
花は怖いのが大の苦手だった。
そんな花を光雄は愛おしそうに見る。
「手ぇつなぐ?」
「え?」
いきなりの光雄の言葉に頬が熱くなる。
光雄を見ると光雄も赤かった。
「暗いからはぐれそうだし…
手ぇ繋いだ方が怖さ半減しねえ?」
「半減しない」
「え?」
「ウソだよ!!(笑)
離れちゃやだよ?」
花と光雄は手を繋いだ。
光雄の手は優しくて大きかった。
ギイ…
バタン!!!
閉まるときの音が嫌に大きい。
お化け屋敷の中は、薄暗かった。
気持ち悪い音楽も流れてる。
花はお化けが出る度に悲鳴をあげた。
お化けなんて、
所詮は人間。
分かってるのに…
光雄はいちいち叫ぶ花を守ってくれた。
もうすぐ出口…
「え…ヤダ…」
花の目線の先には…
井戸…
古びた井戸。
出口を通るには必ず井戸の前を通過しないといけない。
百パー…
何か出てくるじゃん…
「大丈夫だよ♪」
光雄が優しく囁く。
花は目を瞑り光雄と一緒に井戸を通った。
「ああああああ!!」
女の人の声。
目を瞑ってるから分からないけど…
光雄に導かれるまま出口に着いた。
「着いたな♪」
優しい光雄の声に落ち着く花。
お化け屋敷を出るとかなり眩しかった。
目がチカチカする。
「お疲れぇ♪
どうだったぁ?」
人の気も知らないで余裕綽々の紗衣。
「死にそうだった…」
涙を目に溜める花を見て笑う優。
「よく頑張ったな♪」
優は花の頭を優しくナデナデする。
「さて!!
次はぅちらか♪」
紗衣がノリノリで拓っちとお化け屋敷の中へと消えた。
紗衣は拓っちが好きらしい。
拓っちも紗衣と一緒でチャラいタイプ。
気が合うのかな?
なんて思ったりする。
そして百合は優。
百合を見てると、
どれだけ優を好きかが伝わってくる。
冷静な百合が必死になってて…
恋は人を変えるんだと実感する。
余るのは…
花と光雄…
光雄は花に気があるらしい。
花も光雄が嫌いじゃない。
優しくて…
格好良くて…
見た感じチャラいけど 本当はしっかりした人…
そんなギャップに惹かれたりもする。
「ねぇ!!いつ告白するつもり?」
光雄と話す優に聞こえないように…
百合に聞く。
「最後にね…
観覧車乗るでしょ?だから…
その時に告白する。」
落ち着いた百合の瞳。
振られても…
絶対後悔しないって顔してる。
花も…
百合みたいな強さが欲しいよ…
百合と話していると紗衣達が出て来た。
「おかえりぃ♪」
「ただいまぁ♪」
超余裕の紗衣の横で青い顔の拓っち。
「拓っち…
死にそうぢゃん!!」
花が慌てて言うと優は笑った。
「さっきの花もそんな感じだったし!!」
憎まれ口を叩き、
悪戯に笑う優が愛おしく感じてしまう…。
だめ…だめ…だめ。
自分の気持ちを消そうとする。
お願い…
神様…
花の中から優の事を抜き取って…。
花にとって…
友達の好きな人を奪うのは最低な事。
人として一番、やっちゃいけない事。
だから…
百合の幸せを願う以上…
優を好きにはなれない。
好きになっちゃいけないんだ…
「さぁ!!お次さん♪行ってらっしゃーい☆」
「頑張ってね♪」
花と紗衣は百合に意味深なウインクをする。
少しでも…
優と百合が上手くいきますように。
百合と優が仲良くしてる所を見たら、
自然に優が忘れられるんじゃないかって思った。
花に…
《百合を捨てて優を選ぶ》
って選択肢は無かった。
「百合と優…
上手くいくといいね…」
花は紗衣に言う。
「花…
ぅちは知ってるよ。花の気持ち…」
紗衣は花の目をみて言った。
「花は優が好きなんだょね?」
いつにもなく真剣な紗衣の顔。
「…」
言葉が見当たらない。
「本当にこれでいいの?
ぅちは百合に幸せになって欲しい。
でも…
花に苦しい思いもさせたく無い!!」
何で?
何で分かっちゃうんだろ?
必死で…
必死で…
優に対する気持ち押し殺してたのに…
何でお見通しなの?
「花…!!」
力が入る紗衣。
「紗衣…
いいんだよ!!
花は百合が大好きなんだよ?
もちろん紗衣も!!
好きな人なんて…
また幾らでも見つかるよ!!
花は大丈夫だから♪」
無理やり見せたとびっきりの笑顔。
紗衣の目にはちゃんと映ってる?
花は…
弱虫で…
情けない人間だから…
大事なモノを二つ同時に守るなんて、
出来ないんだよ。
しばらくすると、
百合達が戻って来た。
しばらくすると、
百合達が戻って来た。
百合は半泣きで優にしがみついてる。
「怖かったぁ?」
何事も無かった様に笑う紗衣。
「怖かった…
特に最後の井戸…」
紗衣と仲良く話す百合…
花は何となく話す気分にはなれなかった。
「んじゃちょっと休憩すっか♪」
笑って座り込む優。
「じゃあ花はジュース買ってくるね♪」
花は財布を取り出し自販を探す。
「俺も行く♪」
優が立ち上がる。
「いや…
俺が行くから!!」
自販を探してウロウロする花。
「よぉ!!姉ちゃん♪遊ばない?」
ありきたりなナンパ。
「離してっ」
手を振り解く花。
「いてえっ!!」
男は大袈裟に転んだ。
「おい!!
調子乗るなよ」
もう一人が花の胸倉を掴んだ。
−ー殴られる!!
「花−ーー!!」
優…?
「俺の女に手ぇ出してんじゃねぇよ!!」
低い落ち着いた声。
「すっすいません!!」
目を開けると、
光雄だった。
チャラい感じの光雄は
ガン見するだけで迫力がある。
「花…大丈夫?」
光雄は優しく花を見た。
優じゃない…
優が追いかけて来るはず無いよ…
優の事を消そうとすればするほど
優が胸に溢れる。
「大丈夫だよ!!
みんなの分のジュース買ってくから♪
先、戻ってて!!」
笑顔で言う花。
「俺も行く!!」
「いいよ!!」
「意地でも行く!!」
光雄は強引に花の側にいてくれたよね?
花は…
そんな光雄の優しさが大好きでした。
「えーと…
百合と拓っちはコーヒーで…
花と紗衣と光雄は炭酸。
優はカルピス。」
自販で言われた通りのジュースを買ってみんなの下へ。
「おまたせぇ♪」
花がジュースを持ってくとみんなは、
一気飲み。
「プハァッ!!
やっぱ炭酸の一気飲みは最高ぉ♪」
泡を鼻の下につけて笑う紗衣。
「紗衣…
オヤジみたい…」
拓っちの一言にみんな爆笑。
しばらく休憩した後またアトラクションを廻った。
特に楽しかったのがジェットコースター♪
紗衣は怖がって大変だったけど…
みんな一緒に乗って楽しかった。
百合も優との距離が縮まったのが分かった。
時間はあっという間に過ぎていき…
気付けば七時。
夜のライトアップ。
観覧車が光ってとても綺麗だった。
「ぉし!!
じゃぁシメに観覧車乗るかっ♪」
観覧車は二人乗り。
花と光雄
紗衣と拓っち
百合と優。
観覧車に乗り込む百合に精一杯エールを送った。
『百合が優と付き合えますように』
百合なら…
きっといけるよ!!
観覧車に乗り込み、椅子に座る。
何だか二人っきりって言うのが恥ずかしかった。
「百合と優…
うまくいくといいな♪」
光雄が言った。
百合が優を好きな事…
優を除いて全員知ってる。
「そうだね…」
静かに言う花。
「花…
俺じゃ駄目?」
「え?」
光雄の真剣な眼差しに花は戸惑う。
「花の心には優がいるだろ?
俺じゃ優を忘れさせてやれないかな?」
優しい光雄の眼差し
光雄は…
優しすぎる。
「花は…
多分…光雄をいっぱい傷付けると思う」
俯く花を光雄が抱き締める。
「それでもいい。
俺は花が好きなんだ。」
光雄の告白に時が止まったような気がした。
胸の中が熱くて
鼓動がうるさくて
目頭が痛くなった。
花は光雄に甘えちゃっていいの?
「花も…
光雄が好き」
光雄の顔が近くなる。
色っぽい…
今まで見た事ない光雄の表情。
花もゆっくりと目を閉じた。
光雄の唇が優しく、花の唇に触れる。
甘くて…
切ない…
ファーストキス。
キスをした後…
花はずっと光雄の隣にいた。
恥ずかしくて…
光雄の顔が見れない…
光雄は優しく花の髪を撫でてくれる。
花の中にある…
優をぬぐい去るように…
光雄の側にいると…
光雄に触れられてると…
優が忘れられた。
一秒でも…
一瞬でも…
花の中から優が消えてくれる。
でも…
光雄がいないと優は前より花の中で溢れるんだ…
光雄…
花は光雄がいないと生きてけないよ。
観覧車が止まった。
地面に降り立つと不思議な感じ…
「あれれぇ?
ラブラブぢゃん♪」
手を繋いだ花と光雄を見て、先に着いていた紗衣がからかう。
「そっちもじゃん♪」
光雄が笑う。
紗衣と拓っちも手を繋いでいた。
「残るは…
あと一組だねぇ」
紗衣が言う。
観覧車が下りてきた。
窓から優と百合が見えた。
「来たっ♪」
四人は観覧車を見つめる。
良い結果か…
悪い結果か…
息をのむ。
百合と優が下りてきた。
ちゃんと…
手を繋いで。
「花…紗衣…
付き合えたよ…
あり…がとっ……」
百合が泣きながら言った。
でも…満面の笑みで。
「ぅちらも付き合ったんだょぉ!!
花と光雄も♪」
紗衣がはしゃぐ。
花の目から涙がこぼれ落ちる。
「大丈夫か?」
光雄が優しく涙を拭ってくれる。
違うよ…
これは悲しみの涙じゃない。
花は優が好きだった。
だから大好きな友達の百合と…
大好きな優が幸せになってくれるのが嬉しいんだよ…
「そろそろ帰るか」
紗衣の言葉にみんなは解散。
「花…
何かあったらすぐに連絡しろよ♪」
光雄が言ってくれた。
紗衣の原チャリに跨る。
行きは心地よかった風も…
夜は肌寒い。
「花!!」
運転しながら紗衣が叫んだ。
「幸せになりなよ!!」
多分…
優と百合の事を気遣ってくれてるんだよね?
「拓も心配してたよ!!」
拓っちも…?
涙がこぼれそうになる。
花は良い友達に恵まれた…
みんながいなかったら花はどうなってたんだろう?
みんな…
花の事を心配してくれて…
ありがとう
花は幸せモノです。
「到着!!」
原チャリは花の家の前で止まる。
「色々…
ありがとね!!」
目一杯の笑顔を見せる。
みんなに…
これ以上、心配かけちゃだめだ…。
「ぅちら親友なんだから何かあったら言いなよっ♪」
紗衣の優しい笑顔。
親友…
友達…
友情の大事さが分かったよ。
ガチャ…
「ただいまぁ♪」
家に入るとカレーの臭いがした。
同時にグゥと鳴るお腹。
「お腹すいたぁ!!」
リビングに入る。
「花……」
泣きはらしたお姉ちゃんがいた。
テーブルには、
向かい合って座るオカンとオトン。
テーブルの上には……
「何よ…これ?」
離婚届…?
花は部屋に飛び込んだ。
何で?
何で離婚届があるの?
何があったの?
オトンは滅多にうちに帰って来なかった。
仕事…って聞いてた。
仕事じゃ……
無かったの……?
涙が止まらない。
何で今日なの?
花が何かしましたか?
光雄の顔が頭に浮かぶ。
光雄……
花を…助けて…。
トントン
花の部屋のドアをノックする音。
「…誰?」
「…お姉ちゃんだよ…」
花はゆっくりとドアを開けた。
泣きはらしたお姉ちゃん。
花の前で泣いた事なんか無かったのに…
胸が締め付けられた。
「花…
お父さんね…
愛人がいたの」
お姉ちゃんが話し出した。
愛人…?
オトンは浮気してたって事…?
頭の中がグルグル。
「オカンは愛人の事を知ってた…
でも離婚しようとしなかった。
あたし達の為に。」
オカン…
涙が零れる。
「でもね…
愛人のお腹に赤ちゃんが出来たの。
だから…
お父さんが離婚しようって…」
怒りが芽生えてきた。
オトンは、
長年一緒にいた花とかオカンとかお姉ちゃんを捨てて…
見ず知らずの女を選んだの?
オトンにとって…
家族は何だったの?
「ちょっと花!!」
花は階段を駆け下りリビングに入った。
目に入ったのは離婚届に判を押すオカン。
「オトン!!」
花はオトンの隣に立ちオトンを睨む。
「花…」
オトンは花をみる。
冷たい目…
「気安く呼ばないでっ!!!!
あんたにとって…
花とか…
オカンとか…
お姉ちゃんはどうでもいいんやろ!?
見ず知らずの女と浮気して…
女に赤ちゃんが出来たから離婚しよ!?
ふざけんなよっ!?」
パン
オカンが花の頬を叩いた。
ジーンと広がる痛みに涙が溢れる。
「もういいっ…」
花は家を飛び出した。
行くあてなんか無い…
辛くて…
苦しくて…
悔しくて…
情けなかった。
ただ走った。
もう…
どうでもいい。
死んでしまいたい…
そう思った。
気付けば…
優の家に来ていた。
花は何してるの?
何がしたいの?
訳が分からなかった。
「花!?」
ふと上を見ると優が窓から顔を覗かせていた。
「優…」
優は玄関を開けた。
優しくて…
愛おしい優の姿。
さっき会ってたのに…
懐かしいよ…。
「とりあえず入れ!!」
優に促されるまま優の家に入る。
優は優しく花を抱くと部屋へ案内してくれた。
「どうした?」
花をベッドに座らせると優が優しく言った。
「…」
言葉がうまく出て来ない…
「ゆっくりでいいから…
話して?」
優の言葉に花はポツリポツリと話し出した。
親が離婚した事…
父親の愛人の妊娠…
母親にひっぱたかれたこと…
優は黙って聞いてた。
そして…
花が話し終えると、花を抱き締めた。
ぎゅっと強く。
「辛いな…
苦しいな…
俺も親がいないから良く分かる。
泣いていいんだぞ…」
優の胸の中で花は泣いた。
涙が枯れるんじゃないかって位…
沢山…泣いた。
「優……
花を抱いて?」
泣きはらした後…
優につぶやく。
「え?」
優は花を見る。
「乱暴に抱いて!!
花から何もかも忘れさせて…
お願い………」
優は花に口付けた。
一回…
二回…
三回目は舌が入ってきた。
どうすればいいのか分からない。
ひたすら優の舌に自分の舌を絡ませた。
そして優は花を抱いた。
一つになる時も花を抱き締めてくれてた。
快感に身を委ね…
何もかも忘れる。
花は…
最低な人間だ。
百合の彼氏の優に抱かれてる。
吹っ切れた筈なのに…
心は…
体は優を求めてる。
光雄の彼女なのに…
彼氏以外の人と…
キスして
抱き合って
愛を確かめ合う。
人間は…
花は…
欲に溢れた醜い生き物なんだ。
行為が終わった後…
優の腕で眠りに着いた。
気付けば朝の八時。
良かった…
今日は祝日。
「ん…」
優も目を覚ました。
「おはよう…」
「おはよ♪」
優の顔をまともに見れない。
今の花は罪悪感の塊とも言える。
優も…
迷惑だったよね?
「ごめん…
花、帰るね……」
散らばった服を着て鏡を見る。
メイクしっぱなし…
「大丈夫か?」
優は花を見つめる。
「大丈夫っ♪
本当にごめんね!!
後…
みんなには親の事もこの事も黙ってて?
花は…
昨日ここには来なかった。」
花が笑うと優も安心した様に笑った。
「何かあったら…
また言えよ!!
俺は花の味方だからなっ☆」
優にお礼を言った後優の家を出た。
空はカラッと晴れていて青空が綺麗だった。
「どうしよ…」
行く所が無いとは正にこの状況。
家には…
絶対帰りたくない。
途方に暮れていると携帯が鳴った。
良かった…
携帯持って来て…
《紗衣》
紗衣からの電話だった。
『もしもぉし♪』
電話越しに聞こえる紗衣の声。
「もしもし…」
『どしたぁっ?
元気ないぞ花っち!!』
紗衣なら…
「実はね…」
花は離婚の事
行く所が無い事を告げた。
もちろん…
優の事は伏せて。
『なぁんだぁ!!
そういう事は早く言ってよぉ♪
ぅち一人暮らしだからぅちにおいで☆』
思いもよらない嬉しい言葉。
「一人暮らしなのっ!?」
『まぁ色々あってね♪』
紗衣の一人暮らしには驚いたけど…
良かった。
『今どこ?』
紗衣は辺りを見回した。
公園…
「キリン公園って所…」
『OK♪
今、友達といるから友達と迎えに行くねぇん☆』
花はキリン公園のブランコに座り紗衣を待った。
七月中旬の大阪は少し暑い。
公園には小さい子達が数人いた。
砂場で泥だらけになりながらも無邪気に笑う子供を見て、
羨ましく思う。
あんな子達には悩みなんか無いんだろうな…
こんなに汚れた花にも…
こんなに綺麗な時代があったのかな?
ブンブン
バイクの音に顔をあげると紗衣が大きいバイクに乗っていた。
紗衣の周りには五人の男女。
みんな紗衣と同じでかなりチャラい。
「花ーー♪」
紗衣達が花の所へ来た。
今日もド派手な紗衣。
「みんな紹介するねっ♪
ぅちの大親友の紗衣ちゃんですっ☆」
チャラいみんなは花に笑いかけた。
「ぁたしは、
カザハ♪高二だょ!」
カザハさんは、
睫が長い綺麗な人。
「ぅちは那智。
花ちゃん!!よろしく」
那智さんは、
髪が短くサバサバした人。
「俺はトオル。
よろぉ♪」
「司です!!
よろしくなっ」
「裕哉です…
よろしく」
みんなが挨拶をする。
いっぱいいすぎて一辺に言われても…
その後は、みんなでドライブに行った。
みんなはそれぞれ自分のバイクに乗ったけど、
花はバイクが無い為…
裕哉と二ケツした。
裕哉の髪から漂う甘い香り…
裕哉はクール。
顔は格好よくて
センスも良い。
花の理想のタイプだった。
「イェーイ♪」
花は思い切り叫ぶ。
初夏の乾いた風。
遥か頭上に広がる青い空。
花は嫌な事も全部忘れて、ただ風に気持ちを委ねた。
ウゥー…
「やべぇ!!
サツだっ!!!」
一番後ろを走っていたトオルが叫んだ。
サツ…?
捕まったら…
グンとスピードが上がった。
後ろから迫ってくるサツ。
ひたすら逃げるみんな。
捕まったらどうしよ…
なんていう不安は無くなり、スリル満点のドライブを楽しんだ。
「あっははは♪
楽しかったぁ!!!
最高だねっ」
数時間後…
辺りはすっかり暗くなった。
「俺らは捕まるなんて慣れっこだけど、花までそんな目に合わせたくねぇし…
ヒヤヒヤした!!」
裕哉が言った。
花の事…
考えてくれてたんだ…。
チャラい人でも悪い人では無いんだね。
「なぁ!!
夜景みにいかね?」
司の提案にみんなは大賛成。
結局、司が知ってる穴場の夜景スポットに連れて行ってもらう事になった。
夜景スポットまではバイクで十五分。
すぐに着いた。
「到着っ♪」
着いたのは夜景が綺麗に見える丘みたいなと
ころだった。
「綺麗っ…」
花の目に映る眩い星空と光る夜景。
赤とか…
黄色とか…
こんな場所があったんだ……
大阪の街でこんな星空が見られるなんて…
「大阪にも…
こんなに綺麗な星空があるんだな…」
裕哉が呟いた。
「テレパシー!?」
「は!?」
同じ事を考えてた事に驚きはしゃぐ花。
花を見てみんなは笑った。
「どしたの?」
目をパチクリさせる花。
「紗衣に聞いたんだ…
花ちゃん色んな事あって元気ないって…
だから…
ちょっとでも元気出して貰えたらなって思って…」
那智さんが優しい目をして言った。
「だから…?
だから夜景を見せてくれたの?
バイクに乗せてくれたの?」
紗衣が笑って頷く。
「まぁ!!サツの出現は予想外だったけどな!!」
司が頭を掻きながら笑って言った。
「み…んな……」
自然と涙が出てきた。
花はどうしてこんなに弱いんだろ?
みんなに…
みんなに心配かけて…
みんなに迷惑かけて…
ごめんね…
ありがとう。
その後…
みんなと別れて紗衣と紗衣の家に向かった。
「紗衣…
花ね?
ちゃんとお父さんと話するよ」
花は決意した。
ずっと逃げてても仕方ないもんね…
支えてくれるみんなの為にも…
けじめつけなきゃ!!
「よし!!
でも今日は遅いから泊まってきな!!」
優しく笑う紗衣がとても頼もしく見えた。
「お邪魔しまぁす…」
紗衣の家は、
綺麗なアパートだった。
どうやって家賃とか払ってんだろ…
紗衣はバイトとかしてない筈…
「上がって♪」
紗衣がカチッと電気を付けると可愛い部屋がよく見えた。
紗衣らしいピンク一色の部屋。
ぬいぐるみも沢山ある。
「すごい…」
一部屋しか無いけど一人暮らしにはピッタリな広さ。
「ごめん!!
散らかってるけど、適当に座って♪」
紗衣がコーヒーを入れてる間、
ソファーに膝を抱え座った。
「おまたせ♪」
紗衣がコーヒーを出してくれた。
紗衣はブラック。
花はお砂糖を沢山いれないと飲めない。
「紗衣さぁ!!
家賃とかどうしてんの?」
黙ってるとオトンの事ばかり考えてしまう為、紗衣に話しかける。
「んー仕送り」
紗衣がコーヒーを飲みながら言う。
「仕送り?
家族とは住まないの?」
はてなマークを出す花に紗衣は悲しく笑った。
「追い出されたの。中学ぐらいから親父と仲悪くてね…
高校に入って追い出された。
まぁあたしが悪い事ばっかしてたからなんだけどね…
だから母親からの仕送りで暮らしてる」
紗衣の言葉を聞いて言葉を失った。
花は…
今まで家族と暮らしてたのが当たり前だったから…
紗衣の辛さは想像つかない…
でも…
苦しかったよね?
紗衣と話した後…
一時くらいに就寝についた。
紗衣はベッドで…
花はソファーで…
でも眠りにつける筈もなく、ずっとオトンの事を考えてた。
オトンは花が生まれた時から無口だった。
だから、
「花が生まれた時、お父さん泣いて喜んだんだよ」
ってオカンの言葉も信じらんなかった。
でも…
休みの日にはいつも色んな所に連れて行ってくれた。
海とか…
遊園地とか…
楽しかったよね?
花が疲れたらおんぶしてくれた。
花が眠たいって言ったら子守歌うたってくれた。
花が病気になったら走って病院に連れて行ってくれた…
目を閉じれば…
楽しかった事ばっかり思い出すよ…
オトンの笑顔…
怒った顔…
悲しい顔…
嫌だよ……
家族がバラバラになるなんて…
嫌だよ…
また…
また、みんなで遊園地いこうよ!!
こんなの……
辛すぎるよ…
声を押し殺して泣いた。
目を覚ますと、
紗衣は既に起きて朝ご飯を作っていた。
「おはよぉ♪」
美味しそうな匂いが漂うトーストとスクランブルエッグ。
「おはよ…」
寝起きの花はボーっとする。
「花…大丈夫?
目…腫れてるよ?」
「嘘っ!?」
鏡を見たら目が腫れていた。
昨日…泣いたからな…
仕方ないと呟き朝ご飯を食べる。
美味しいっ…
「あたし料理は得意だからね♪」
紗衣がニコッと笑う。
良いお嫁さんになるよ♪
朝ご飯を食べた後は化粧をして髪をセットした。
今日はオトンとちゃんと話さなきゃ!!
紗衣にお礼を言った後、急いで家へ走った。
オトンはもう…
もう居ないかもしれない…
花はひたすら走った。
「ハァハァ……」
家の前へ着き息を整える。
ピンポーン♪
ゆっくりインターホンを押した。
家へ帰るだけで…
こんなに緊張するなんてね…
『はい…』
弱々しいオカンの声が聞こえた。
「オカン…
花だよ…」
『花!?
待ってや!!!』
直ぐにドアが開いた。
出てきたのはやつれた顔のオカン。
クマが出来て…
皺も増えた。
「花っ…」
オカンは花をぎゅっと抱き締めた。
苦しい程に…
オカンの愛情が伝わってきた。
「オカン…
ごめんな…
オトンはおる?」
オカンは暗い顔で首を横に振った。
オカンの話では、
オトンは花が出て行った後…
出て行ったらしい。
遅かった…
落ち込む花にオカンは一枚の紙を渡した。
「何これ…?」
紙には住所と電話番号…
もしかして…
「お父さんの住所と電話番号…
行ってあげて…」
花は走った。
疲れてたけど関係ない。
オトンに…
謝りたい。
お礼を…
言いたいんだ。
着いたのは、
さびれたアパート。
「…106号室……」
呟きながら見つけた部屋。
表札には
《田村》
可愛いピンクの表札から若い人だと分かった。
インターホンを押せない。
怖い…
オトンの浮気相手が出て来たら…
花は何をするか分からない。
花の大事な家族をバラバラにした…
酷い女を…。
ガチャ…
花が立っていると部屋が開いた。
出てきたのは…
まさしくオトンの浮気相手。
でも…
花の想像とは全然違った。
花の想像では、
浮気相手はチャラチャラしたヤンキーみたいな人。
でも目の前に立っているのは…
髪を伸ばした、
大人しそうな可愛い人だった。
「花……ちゃん?」
女の人は聞いてきた。
女の人のお腹…
膨らんでる。
「父はいますか?」
花は拳を握りしめ冷たく聞いた。
「ごめんなさい…
今、買い物に行っているの。
とりあえず…
入って?」
オトン……
普段は…
買い物なんて絶対、行かなかったのに。
怒りはもう出て来ない。
あるのは…
悲しみだけ。
「花ちゃんに…
話があるの。」
部屋に入ろうとしない花を見て女の人は言った。
話…?
話なら花にだっていっぱいある。
花は女の人に導かれるまま部屋に入った。
部屋は綺麗で幸せいっぱいだった。
台所ではお味噌汁が良い匂いで…
歯ブラシは2つ並んで…
オカンがどれだけ辛い思いしたか…
知ってるの!?
胸が痛くなった。
「座って?」
女の人は和室に座布団を敷いて言った。
懐かしい匂いが漂う部屋…。
「飲み物…
出すね…」
女の人はジュースを出してくれた。
果汁100%のオレンジジュース。
花の大好物…
「花…
オレンジジュース飲めませんから」
馬鹿みたい…
こんな嘘…
何の抵抗にもならないのに。
「ごめんなさい…
ごめんなさいっ……ヒック……」
女の人は泣き出した。
何で…っ?
何で泣くの?
花が……
花が正しいのに…
悪者みたいじゃん…
「泣かないでよっ!!
泣きたいのはコッチだよ!!!
あんたのせいで…
あんたのせいで、
花の家族はバラバラになっちゃったんだよ!!!
オカンだって…」
叫んでたら涙が溢れた。
何でよ…
何で…
悪い人だったら…
オトンの事…
利用するような最低な女だったら…
オトンと別れてって怒鳴れたのに…
何でこんなに…
良い人なの?
好きな人と側にいたいって…
女の人の気持ち…
花には痛いほど分かるから……
別れてなんて言えない。
もう…
グチャグチャだよ…
「花ちゃん…
あたしね…
自殺しようとしてたの。
でも…
そこを花ちゃんのお父さんに救われた。
あなたのお父さんは…
優しくて…
温かくて…
好きになっちゃったの。
駄目だって…
駄目だって思った。
結婚してるのは知ってたし…
でもね?
止められなかった。
だから…
諦めるからって…
一回だけ…
結ばれたの。
初めてだったから…
初めては大好きな人とが良いって…
そう思って……」
女の人はポツポツと話し出した。
目に涙を溜めて…
一生懸命に。
「そしたら…
赤ちゃんが出来ちゃたんだね…?」
女の人は頷いた。
「赤ちゃんが出来て…
でも…
迷惑かけらんないから…
一人で育てていくからって言ったの。
そしたら…
俺も一緒に育てるって…
結婚しようって…
家族は大事だけど、家族なら分かってくれるって…
俺は…
家族を信じてるからって……」
涙が止まらない。
花は…
オトンを信じれなかった。
オトンは…
花を信じてくれてたのにね…
ガチャ…
女の人と話し終えた時…
オトンが帰って来た。
女の人も…
花も…
慌てて涙を拭く。
「花…」
オトンは部屋に座ってる花を見て目を見開いた。
「オトン…
話は全部聞いたから…」
オトンは悲しく笑った。
「そうか…」
また…
また泣きそうだ…
「オトン!!
オトンは…
オトンは悪く無かったんだね…
悪いのは…
花だよ…
オトンの事…
信じれなかった。
大好きな…
大大大好きなオトンの事……
信じれなかったよ…
ごめんね…
それと…
今まで…
ありがとうございました。」
深く頭を下げる。
今まで過ごしてきた日々が…
頭をぐるぐる巡る。
オトンは…
いつも花を想ってくれてたんだね…
無口でも…
無口なりに…
花を愛してくれてたんだね…
花も…
オトンを…
心の底から…
だぁい好きでした。
これからも…
ずーっと。
オトンは花を抱き締めた。
「花…
ごめんな…
オトンは家族を捨てたんだ…
でも…
これだけは信じて欲しい。
オカンも…
お姉ちゃんも…
花も…
オトンは愛してた。
ずーっと…
ずっと…愛してるからな。
辛い時…
悲しい時はいつでも会いに来い。
オトンがいるから」
「オトン……
オトンっ………
嫌だよぉ……離れたくないよ…
みんな離れ離れなんて嫌だよぉ…」
オトンは花を抱き締め言った。
「バラバラになるんじゃない…
離れ離れでも…
心はいつでも…
いつまでも一緒だ」
花は沢山ないた後、家に帰った。
お姉ちゃんの家に行くかと聞かれたけど花はオカンの側にいる事にした。
オトンが居なくなった今…
オカンを守るのは花しか居ない。
だからバイトを始める事にした。
オカンもパートを始めた。
少しでも…
生活を楽にしてあげたい。
オトンが居なくなって一週間。
もう夏休み間近。
今日はバイトの面接の日。
面接は光雄との特訓で完璧。
光雄は色々、花を助けてくれる。
彼氏という存在はやっぱり大きい。
百合は相変わらず優とラブラブ。
でも最近は、
忙しいせいかラブラブな二人を見ても気にも留めない。
紗衣はそんな花を見て少し安心していた。
「じゃあ行って来るね!!」
着なれないスーツに身を包んだ花を見てオカンは不安そうな顔をする。
「バイトしてくれるのは有り難いけど…無理だけはしないでよ?」
やせ細ったオカン。
「分かってる♪
オカンこそ、無理だけはしないでよ?」
オトンがいなくなったお陰は変だけど、オトンがいなくなってから家族の絆が堅くなった。
お姉ちゃんもこまめに帰って来てくれるし…
大事な事に気付かされた。
「行ってきまーす♪」
鞄を手に取り家を出る。
綺麗に広がる青空。
今日も…
一日が始まる。
バイト先は、
近くの喫茶店。
お洒落な雰囲気の花好みの店。
家からも近いし…
時給が高いのが決めてになったんだけど…。
カランコロン
喫茶店に入る。
喫茶店の名前は、
『ル・レーヴ』
“夢”って意味。
「あー花ちゃん?
こっちこっち!!」
奥から綺麗な女の人が出て来て案内してくれた。
着いたのは喫茶店の奥の部屋。
「待っててねー」
女の人が出してくれた紅茶を飲み、待つこと15分。
ガチャ…
「ごめんねっ!!
待った?」
軽いノリの店長らしき人が入って来た。
眼鏡をかけて…
黒い髪を束ねた大人っぽい男性。
「初めまして!!
進藤 花です。」
立ち上がり練習通りに挨拶をする。
「まぁまぁ難くならないで♪
軽く質問するから、簡単に答えてね☆」
花が目をぱちくりさせてる間に面接が始まった。
「年齢は?」
「十五です」
「家族は?」
「姉と母の三人家族です」
質問を十回くらいされた後、店長さんが笑顔で言った。
「決定ね♪」
決定?
決まり?
「いいんですか?」
ビックリして聞くと店長さんは笑って言った。
「ダメなの?」
「いえ!!
よろしくお願いいたします!!」
こうして花のバイトは一発で決まった。
店長さんは変だけど面白くて優しい。
でも…
店長さんの笑顔って誰かに似てる…
店員の香里さんはしっかりした人。
二十二歳で結婚間近らしい。
同じくバイトの橘クン。
可愛い系の男の子で年下に見えがちだけど一つ年上。
バイトは思ったより楽しく、直ぐに打ち解ける事が出来た。
そして…
高校生活初めての夏休みが来た。
夏休みはバイトが休みになる。
それも店長さんが旅行に行く為。
まぁ久々に遊べるから気分は最高!!
さっそく夏休み五日目…
紗衣と、
百合と、
光雄と優と拓ちゃんで海に行く事になった。
だから今日は久しぶりに真里と水着を買いに行く。
真里は花の大親友。
クラスが離れた為、全然遊んだりして無かった。
ピンポーン♪
さっそく真里が来た。
鏡で最終チェックした後、バッグを持って家を出る。
髪は四ヶ月でかなり伸びた。
「おっす♪」
久しぶりに見る真里はクラブでこんがり焼けていた。
「行きますか♪」
自転車に跨り近くのデパートへ向かう。
夏の風はカラリとして心地いい。
「暑いねえ…」
暑がりの真里はばて気味だけど…。
「着いたぁ♪」
自転車を適当に停めデパート内へ。
「天国う♪」
デパートの中はクーラーが効いていて最高だった。
「行くよっ」
エレベーターに乗り三階の服売り場へ行く。
光雄の為にも、
お洒落で可愛い水着をgetしなきゃね!!
水着売り場は色とりどりの水着が沢山。
「真里はどんな水着買うの?」
「やっぱビキニでしょっ♪」
真里はスタイル抜群。
足なんか鹿みたいに細いし…。
対する花は最近太ってきた。
体質的に余り太るタイプでは無いんだけど…
喫茶店で余ったケーキとかを貰う為…。
自業自得か…
「これとかは?」
真里が指さしたのは黒く可愛いセクシービキニ。
「無理無理無理!!
100%無理っ(笑)」
無理を連呼する花を見て真里は言う。
「彼氏も来るんでしょ?
だったらセクシーに決めなきゃ!!
黒だったらたるんだ体も引き締まるし」
真里の言葉に揺れる自分がいる。
セクシーに決めなきゃ…か…
光雄…
「よしっ!!
決めた!!」
黒のビキニを買う事にした。
影響されてるし…
真里は白いハイビスカスが付いたビキニを買った。
こんがり焼けた肌に…
白いビキニ…
男どもは釘付けだろうな…
なぁんて真里が少し羨ましかったりもする。
会計を済ませた後、二人はファーストフードコーナーへ向かった。
「花はさー…
彼氏とラブラブなの?」
いきなりの真里の質問にジュースを噴き出してしまう花。
「は!?」
真里はえ?というような顔をした。
「だって…
優君に振られて新しい彼氏出来たって喜んでたじゃん?」
「あのねえ!!
優には振られてません!!
告ってもないけど…まぁ彼氏とは普通だよっ」
優には告りもせず終わった。
今では良き友達だと思ってるし、
それで良かったと思ってる。
色んな事あったけど花の彼氏は光雄だしねっ♪
「真里はぁ?」
ハンバーガーに食らいつく真里に聞く。
「え?」
「え?って!!
真里は好きな人とかいないの?」
………。
「彼氏いる」
沈黙の後、真里が無表情で言った。
「彼氏っ!?」
予想外な真里の言葉に驚く。
「どんな人っ!?
同じ学校!?
何組!?
格好いい!?」
興奮する花と違って無表情な真里。
どうしたんだろ…
でもこの時は、
照れくさいんだろうと気にしなかった。
その後も結局、彼氏の事は何も教えてくれず家に帰った。
家に帰るなりベッドへダイブ。
「はぁ…」
溜め息をつき目を閉じる。
真里に彼氏がいたのは意外だったな…
真里は純粋で、
人を好きになっても告白せず終わる事が多かった。
だから真里に彼氏がいたのは驚いた。
でも…
幸せになって欲しいな…
それから月日は経ち八月五日。
みんなで海へ行く大事な日。
朝から張り切っていた花は化粧も服装も完璧。
鞄に水着とタオルと浮き輪とシャンプー類を詰め込む。
花はカナヅチ。
浮き輪は必須。
ピンポーン♪
準備が終わり、
一服していると沙絵が来た。
「花ちゃん♪」
沙絵のド派手な格好にも慣れた。
いつもの様に沙絵の原チャリに跨る。
風をきり、向かった先は近くの海岸。
みんなはもう着いてテントを立てていた。
「おっ♪
花達きたじゃん☆」
拓っちが笑顔で手を振る。
花と沙絵は手を振り返しみんなの元へ走った。
百合は優と二人で荷物を整理していた。
光雄と拓っちは二人でテントを建てる。
沙絵と花は浮き輪を精一杯膨らませた。
「はぁはぁ…」
うまく空気が入らず息継ぎをする花。
「下手くそ」
「え?」
光雄が花の浮き輪を引ったくり膨らませ始めた。
Tシャツを捲り上げ汗を流した光雄はいつもより格好良く見える。
「完成っ♪」
光雄はパンパンに膨らませた浮き輪を花に渡し笑った。
「光雄と花、間接チューだぁ♪」
拓っちがはしゃぐ。
「バーカ!!
付き合ってんだから当たり前だろ!!」
光雄が拓っちを小突く。
ヤバい…
光雄が格好よすぎてドキドキするよ…
にやける花を見て、微笑む人が一人…
優だ。
優はあの日から、
ずっと花が気になっていた。
花はそんな優に気付いていなかった。
「さぁて…
水着きがえてくるねっ♪」
沙絵が言った。
花と百合も沙絵に続く。
水着の御披露目だ♪
十分後…
テントに戻る三人。
男子は既に着替えて日焼け止めを塗っていた。
「じゃーん♪」
花は光雄の前に立ち水着を披露する。
光雄の顔が一気に赤く染まる。
「やべ…
花可愛いすぎっ!!」
光雄はぎゅっと花を抱き締める。
光雄の体からは日焼け止めの匂いがした。
「お前らラブラブすぎだろっ!!
人目を気にしろっつーの!!」
優が笑った。
「いいんだよ」
優と光雄の間には、わだかまりがあるような気がした。
花という…
わだかまりが…。
「ちょっと花さ…
日焼け止め塗ってくんない?」
光雄が花に言う。
「え?
いいけど…」
大きい光雄の背中に日焼け止めを塗ってあげた。
茶色のサラサラの髪が肩に掛かる。
光雄は髪が綺麗だ…
「よしっ♪」
花が日焼け止めを塗り終えると、
みんなは海に突入!!
花は浮き輪を持って海に飛び込んだ。
「つめてーっ!!」
叫ぶ光雄と拓っち。
優は百合と一緒に砂浜で灼いている。
「気持ちいい♪」
沙絵は平泳ぎ。
海岸からご
「お前らラブラブすぎだろっ!!
人目を気にしろっつーの!!」
優が笑った。
「いいんだよ」
優と光雄の間には、わだかまりがあるような気がした。
花という…
わだかまりが…。
「ちょっと花さ…
日焼け止め塗ってくんない?」
光雄が花に言う。
「え?
いいけど…」
大きい光雄の背中に日焼け止めを塗ってあげた。
茶色のサラサラの髪が肩に掛かる。
光雄は髪が綺麗だ…
「よしっ♪」
花が日焼け止めを塗り終えると、
みんなは海に突入!!
花は浮き輪を持って海に飛び込んだ。
「つめてーっ!!」
叫ぶ光雄と拓っち。
優は百合と一緒に砂浜で灼いている。
「気持ちいい♪」
沙絵は平泳ぎ。
海岸から五メートルぐらい離れた所にいる沙絵と花。
「よしっ!!
沙絵と花がいる所まで競争なっ♪」
拓っちが光雄に言ったのが聞こえた。
「花ーっ!!
掛け声頼む!!」
光雄もやる気満々。
「よーい…
ドン!!!」
花の声を合図に、
光雄と拓っちが泳いでくる。
光雄も拓っちも必死のクロール。
「頑張れ拓♪」
沙絵が叫ぶ。
「光雄ーっ!!
大好きだよー!!!
早く来てえ♪」
花の言葉に光雄のスピードが上がる。
「ゴールッ♪」
結果はもちろん…
光雄の勝利!!
光雄は花の浮き輪に掴まり、満面の笑みを浮かべる。
「拓っち…
ダサーい…」
沙絵が拓っちを睨む。
「馬鹿っ…
大好きだよはずるいだろ……」
拓っちは肩で息をして言う。
「俺らの愛のパワーは不滅なんだよ!!」
光雄が花を抱く。
光雄の心臓の音さえ愛おしい…。
花も光雄に抱きついた。
ずっと…
ずーっとこのままでいられたらいいのに…。
「俺ら上がるわ」
拓っちと沙絵が言った。
「俺もそうしよっかな…
花はどうする?」
光雄が花を見る。
「花はまだ泳いどくよっ!!
光雄も上がってていいよ♪」
光雄達が上がってしまい花は一人沖を泳いだ。
海って…
本当に綺麗だ…
キラキラして…
宝石がいっぱい浮いてるみたい。
「よぉ姉ちゃん」
波に漂っているとチャラい奴が話しかけてきた。
金髪のチャラい男が三人。
花は急いで海岸に戻ろうとする。
「だぁめ♪」
男の一人に腕を掴まれて囲まれる。
「可愛いじゃん♪」
男の一人…
リーダー格の奴が花の胸に触ろうとした瞬間…
ボンッ
男の頭にビーチボールが当たった。
「何だよ!?」
振り向くと…
そこには凄い剣幕の優がいた。
優は男たちを睨みつける。
「失せろ」
優の一言で男たちは消えていった。
「大丈夫か?」
優が優しく花に触れる。
「…っ」
溢れる涙。
恐怖から解放された安心感と…
優が助けに来てくれた嬉しさ。
「向こうのテトラポットまで行ってみよっか!!」
優は笑って花の浮き輪を持ちテトラポットへ向かった。
「…百合は?」
小さく聞く花。
「テントでみんなと焼き肉やいてる♪」
優は何事も無く笑う。
「そういう意味じゃなくてっ!!
こんな所…
百合に見られたら勘違いされるよ?」
せっかく…
せっかく忘れようとしてたのに…
優しくしないでよ…
すっかり優の事は吹っ切れたつもりでいた。
でも…
花の中にまだ優はいたんだね?
だから…
だからこんなに苦しいんだ…
嬉しいんだ。
「俺さ…
花が好きなんだ。」
優の告白。
いきなりの言葉に、花は黙ってしまう。
「花を抱いた日…
やっと分かった。
俺は花を愛してるんだって……
だから百合とは別れるつもり。」
え?
意味分かんない…
優が花の事好き?
嘘…
信じたくない。
「駄目だよっ…
花は光雄の彼女だよ?
優は百合の彼氏だよ?
花と優が一緒になったら傷付く人が沢山いるよ…
花は…
光雄を裏切れない。
裏切りたくない。」
優は悲しく微笑んだ。
「それでいい…
花が光雄の側にいたいならそうすればいい。
俺の側にいたいなら俺の側にいてくれたらいい。
でも…
俺は花以外の女を好きにはなれない」
優が花に口付けようとする。
「いやっ!!」
花は優を押す。
いやだよ…
花はどうすればいいの…?
ねえ神様…
教えて下さい。