氷花の王女さまは年上おっさん騎士に嫁ぎたいっ!
「よっ、と」
一目を引く真っ赤なキッチンカーを引きずり、私ことセリーヌ・レヴィンツォは王立騎士団本部に到着した。
硬い土だらけの広大な土地に、キッチンカーを停める。すると、王立騎士たちが待っていましたと言わんばかりに集まってきた。
「お待ちしておりました! セリーヌ殿下!」
「いやぁ、楽しみにしていたんですよ。昨日から」
「暑い中、本当にありがとうございます」
口々に笑顔で声をかけてくる王立騎士たち。
私はいそいそと冷凍庫に詰め込んであるアイスキャンディーを一個ずつ取り出した。
赤色、黄色、緑色、紫色。それぞれ淡い色彩のアイスキャンディーの中に、花びらのような白い氷も入っている。
私が魔法で作ったお手製『氷花アイスキャンディー』だ。
「じゃ、一つ二百ガルド」
私がにこっと笑いながら言うと、その場のみんなが「?」となっていた。
うち一人の王立騎士がおずおずと口を開く。
「え、っと……差し入れだと事前に伺っておりましたが」
「? 差し入れだぞ。有料の」
「そ、それは差し入れとは言わないような……?」
「私が魔力を使って作ったんだ。対価をもらうのは当然だろう」
「……」
私がどーんと構えて言い放ったからか、みんなはポケットから財布を一斉に取り出した。がっかりとした顔をしながら。
同時にどことなく呆れたような表情をしている者もいる。むっ、失礼な。
しかしいちいち反応したら、より子どもっぽいと呆れられるだけだ。
素知らぬふりをしてみんなから代金を徴収し、好きなアイスキャンディーを持って行ってもらう。
この暑い中でかぶりつくアイスキャンディーはとてもおいしいらしく、みんな満足そうな顔をしていた。
「デュート!」
私は残った淡い赤色のアイスキャンディーを持って、なぜか加わらなかった壮年男性である王立騎士の下へ小走りで駆け寄る。
デュート・ハンベル。十六歳の私よりも十四歳年上の彼こそが、私の大本命だ。
「ほら。食え。お前にはもちろん無料であげるから」
「う……い、いえ。そういうわけには」
「私がいいと言っているんだ。遠慮するな」
「……では、ありがたく」
デュートはアイスキャンディーを受け取って、一口食べる。
シャリ、と音を立てると、その強面な顔が花が咲いたようにぱっと笑顔になった。
「おいしいです。とても」
「ふふ。そうか。ところで、デュート」
「はい」
「私を嫁に迎え入れてくれないか?」
「!?」
明け透けな私の言葉に、デュートは「ごほっ、ごほっ」と咳き込む。何をおっしゃっているんだ、この姫様は、と言いたげな胡乱な目と目が合った。
私は努めてか弱げに訴える。頬を赤らめながら。
「私はこう見えて尽くす女だ。夜ももちろん……」
「ちょ、ややややめて下さい! 姫様! 何をおっしゃられているんですか!」
デュートの顔は真っ赤だ。慌てふためく姿が可愛い。見た目がイカツイおじさんなだけに。
別に本気で言ったのだけどもな。
私に男性経験はないけれど。でも、閨房学は聞きかじっている。デュートのためなら、乙女の顔を脱ぎ捨てて頑張るつもりだ。
「まったく……大人をからかわないで下さい。そのようなことも、淑女が口にすることじゃありませんよ」
「からかってなどいない。私は本気で言っている」
「!」
私の真摯な眼差しに、デュートはたじろいだ。信じがたいという表情をしつつも、あくまで子どもの戯言という形で固辞しようとする。
「はは。しがないおっさんをからかっても何も出ませんよ。では、失礼いたします」
逃げるように、その場から離れていってしまった。アイスキャンディーはきちんと手に持って。でも、アイスが溶けて指周りがべとべとしていそうな雰囲気だ。
「あっ! デュート、ハンカチを持って行け」
ポケットから絹のハンカチを取りだして、デュートに向かって渡す。
「あ、ありがとうございます。ですが、平気……」
「いいから」
ずいっと半ば押しつけるように差し出すと、デュートはおずおずと受け取ってくれた。
「こちら、後日きちんと洗ってお返しいたしますね」
「ああ。待ってる」
これでまた二人で会える口実ができた。たまたまだが、ラッキーだ。
しょんぼりとしつつも、内心うきうきの足取りでキッチンカーがある場所に戻ると。
「だ、大丈夫ですか? セリーヌ殿下」
「俺の嫁の席なら空いていますよ、いつでも! あはは」
「バーカ! お前の隣なんて誰も座りたがらねーよ!」
王立騎士たちが小気味いいやりとりをして、笑わせてくれる。
慰めてくれていることがすぐに分かった。
ここ最近、デュートにアタックし始めていたから、私がデューク一筋だということが筒抜けなんだろう。もちろん、全然構わない。
これしきのことで、デュークのお嫁さんの座を諦めるつもりはないのだ。
「ありがとうございました。姫様」
「またいらして下さいね」
「ああ」
見送りに残ってくれている王立騎士たちに、私は微笑み返す。
キッチンカーを引いて後宮に戻りながら、思い出すのは六年前の事件のこと。
六年前--まだ十歳だった私は、王都の下町へお忍びに行った際、盗賊団に誘拐されてしまった。もちろん、奴らは身代金目的だった。
一人、孤独に泣きじゃくる私を救出してくれたのが、当時二十四歳だったデュートだ。
『大丈夫でしたか!? 姫様!』
『うう……こ、わかったよぉ……』
『もう大丈夫です。私がきたからには、姫様に指一本触れさせません。……さぁ、王都へ帰りましょう』
『うん……っ』
当時の私には、デュートは英雄に見えたのだ。
それからだ。この淡い初恋が始まったのは。
「ただいまー」
「あら。おかえりなさい。セリーヌ。お疲れ様」
私を出迎えてくれたのは、王妃殿下である母上だ。優しい笑顔を浮かべている。優しくて穏やかで女性らしい、私の憧れの人。
「どうだった? デュートさんへの求婚作戦は?」
「ダメだった。遠回しに断られてしまった」
「そうなの……」
しょんぼりとしている私の体を、母上はそっと抱きしめる。頭をよしよしと撫でてもらい、私は顔を上げてにこっと気丈に笑ってみせた。
「ありがとう、母上。もう大丈夫だ」
「そう? では、新しい殿方との縁談を……」
「いや、違う。またデュートにアプローチして射落としてみせる」
「ええっ!?」
母上はちょっぴり困った顔をしている。
それはそうかもしれない。三番目の子どもとはいえ、王女の私が平民騎士と結婚したがるなんて……正直なところ、世間体の面では大迷惑だろう。
でも、こればかりは譲れないのだ。熱烈な恋愛結婚をし、今も仲のいい母上と父上のような情熱的な結婚が私もしたいのだから。
「……はぁ。あの堅物な方がどうしてそんなに好きなの?」
「そこがいいんだ」
デュートはあの誘拐事件で活躍した際、出世の話があったのに断ってしまった。それは、前線で騎士団の力になりたいからであり、そして--。
「私のことを傍で守りたいからと出世話を蹴った愚か者。私が責任を持って結婚してあげなくてどうする?」
「そ、そんなことは気にしなくても……。それよりも、誰かもっとよい方だと結婚した方がデュートさんも喜んで……」
「デュートがこの世界で一番イイ男なんだ!」
「……はぁ」
力説すると、母上は諦観のため息を吐いた。困った子どもを見るかのような目で、私のことを見つめる。
「じゃあ、もし次ダメだったら、諦めるのよ? あんまりしつこいと、デュートさんも困るでしょうから」
「う……わ、分かったよ」
次、一回。それがラストチャンス。
もっとアプローチをかけ、むしろ彼の方から求婚してくるくらいにメロメロにさせないといけないな。
母上と約束をして、私は自室にいそいそと戻った。
「ええっ!? ミゾル地方に死霊兵が現れた!?」
その日の夜。
父上から急な呼び出しがあったかと思ったら、とんでもないことを知らされた。
死霊兵とは、文字通り死者の霊が宿った骸骨の姿をした兵士のこと。ミゾル地方と折り重ねる異界に実は地獄の門があって、その門が開かれてしまったというのだ。
「地獄の門の番人様はどうされているのですか?」
「分からない……。忽然と姿を消したそうだ」
「……そうなのですか」
「ああ。急ぎ、民は避難させている。が……負傷者も多い。これから王立騎士団第七師団と竜医師団を向かわせる」
「私も行きます!」
名乗り出た瞬間、父上の表情が困ったように曇った。
「セリーヌ。お前はダメだ。ここで……」
「いえ、行きます。私だって竜医師免許があります。--失礼します!」
「セリーヌ!」
颯爽と身を翻し、国王室を出る。扉を閉めるのと同時に、父上が諦めたような表情でため息をついたのが見えた。
困った第二王女かもしれないが、許してほしい。
民の危機に馳せ参じない王女なんて……私の理想とする王女じゃない。
それに私は王位を継ぐ立場ではないから。父上が渋々でも許諾してくれるだろうという計算は最初からあった。
きびきびと回廊を歩き、王城を出て王立騎士団本部へ向かう。
「騎士団長っ」
「セリーヌ殿下」
第七師団の騎士団長が驚きに目を見張った顔をする。なぜここに、と言いたげな顔だ。
私は腕を組みながら、騎士団長を見上げる。
「ミゾル地方で緊急事態が起こったみたいだな。今から出撃か?」
「は、はい」
「私も行く。私の分の竜も手配してほしい」
「で、ですが……」
「陛下のご了承はいただいている。問題はない」
「しょ、承知いたしました」
騎士団長は一礼し、急いで本部に戻っていく。上層部にこのことを報告しに行くのだろうと思う。
いちいち報告しに行かねばならないこと自体がバカバカしい。この緊急時くらい、省略してもよかったものを。
「姫様!?」
背後でデュートの驚く大声が上がった。
私は毅然とした表情で振り向く。
「ま、まさか私についてこられるので……?」
「何を勘違いしている。たわけ。私は竜医師として赴くんだ」
「えっ、あっ……失礼いたしました」
慌てて頭を下げて謝罪するデュート。その分厚い肩に、私はぽんと手を置いた。
「私に同行しろ。さすがに一人では行けない。護衛の観点から」
「はっ。もちろん一人では行かせません。いざという時、私があなたを守る剣になります」「! ……ありがとう。デュート」
私は内心キュンとしながらも、表には出さずに凜々しく微笑む。今は乙女モードになっている場合じゃない。
毅然と前を向いて、竜が集まっている敷地へと急ぎ歩いた。
一体の赤い竜に、私とデュートが乗り込んだ。
ちなみに私は前の方に座り、デュートが後ろから抱きかかえる形で。
少しドキドキはするものの、表には一切出さなかった。
「地獄の門の門番はどこに行ったのでしょうね……?」
「分からない。もしかしたら、だが」
「はい」
「私は彼が開けてしまったのではないかと疑っている。なにせ、彼は数日前に伴侶の方を亡くされたばかりだというから」
「ええっ!?」
そこまで私的な情報を入手していなかったのか、デュートは目を丸くしていた。数拍置いて、「……確かに。怪しいですね」と強張った顔で同意してくれた。
地獄の門は、門番の力がないと開閉できない仕組みだ。
番人自身が開けたのだとしたら……困ったことになった。どう説得して、地獄の門を閉じさせたらよいのか。
私は凜然とした面持ちで前方を見据えた。
「急ごう。民が心配だ」
「はい。--しっかりと掴まっていて下さいよ!」
「え、あっ、きゃああああああ!」
突然、ぐんと速度を出されて、風を真向かいから受け止めながら、私は悲鳴を上げてしまった。私ではここまでの速度を出せたことが一度もないからだ。
そう、竜医師の私でも。やはりデュートは凄腕の竜騎士だ。
竜に乗って飛行し、早数時間。
ミゾル地方が目と鼻の先に見えてきたところで、--なんと骸骨姿でコウモリのような羽を生やした死霊兵の軍団が襲いかかってきた。
「くっ!」
私が思わず面を伏せている間にも、デュートが死霊兵を一体一体返り討ちにする。
デュートの剣技に敗れた死霊兵たちは、次々に地上に落っこちていく。
といっても、これで完全に倒せたわけじゃないはずだ。また肉体を蘇生し、こちらに襲いかかってくる。おそらくは。
「すまないっ、デュート! 今、私も戦う!」
「いえ。私一人でもう十分……」
「ならば、私が残りを片す!」
私は手の平を宙に向かって広げた。
さらに上空に巨大な魔法陣が出現する。無色の魔法陣だ。
「《氷花嵐舞》!」
叫ぶのと同時に、魔法陣から放たれた氷の結晶の刃が、ひらりふわりと花びらのように舞って敵を切り裂く。
速度は出ない代わりに、柔軟に軌道を変えることができる、氷属性の攻撃魔法だ。
蹴散らされた死霊兵たちはみな、深い谷底へと落ちていった。
「……さすがです。姫様」
デュートは半ばぽかんとしつつも、私に賛辞を送った。
私は「ふふん」とちょっと得意げになってしまったが、すぐにはっとする。って、そんなことをしている暇はない!
慌てて地上を見下ろした時だった。見知った人影が逃げているのが見えた。
--地獄の門の番人だ。
「ここで降ろしてくれ、デュート!」
「え? で、ですが」
「地獄の門の番人を見つけたかもしれない!」
「ええっ!?」
デュートは目をぱちくりさせたのも一瞬、すぐに表情を引き締めた。
「では、降下いたします! 振り落とされないように!」
「ああ!」
竜に乗った私たちは、そこで地上に降りた。
「見つけたぞ! ノルトハイム様!」
森を抜けた先にある川辺で、私たちは地獄の門の番人--ノルトハイム様を見つけた。
駆けずり回ったので、呼吸を乱しながら、しかし私は毅然とした顔で歩み寄る。
「お戻り下さい。地獄の門を閉ざしていただけないと、世界は大変なことになります」
「うう……ゆ、許してくれ」
「罪は問わないと私がお約束いたします。ですから、早く」
急かしても、ぶるぶると震え上がっているノルトハイム様は動かない。ただ、茂みに隠れているだけだ。
「ノルトハイム様! お願いいたします!」
懸命に叫んでも、ノルトハイム様は首を横に振った。
「む、りだ……もう」
「「え?」」
「鍵そのものが壊れてしまった……わ、私のせいで」
「「ええっ!?」」
私たちが驚きの声を上げていると、ノルトハイム様はダッとその場からまた逃げ出してしまった。
「追いますか? 姫様」
私は顎に手を添え、毅然と応える。
「……いや。その必要はない。ノルトハイム様の言が正しいのだとすれば、連れ戻しても意味はないだろう」
「信じてもよいのでしょうか……」
「本人に門を閉ざす力があるのだから、確かにその力を使わずに逃げ回っているのはおかしい。事実なんだろう」
「!」
デュートは悔しそうに歯嚙みする。
「だとしたら、どうやって門の封印を……」
「問題ない」
「え?」
「私が再び魔法で鍵をつける。--地獄の門まで運んでくれ。デュート」
決然とした顔でデュートを見つめる。
同時に……一抹の寂しい笑顔を浮かべ、微笑んだ。
「今までありがとう。お前と出会うことができて私は幸せだった」
「な、にをおっしゃられているんですか……?」
嫌な予感に襲われているような、そんな強張った表情のデュート。
私はふといつも通りの笑顔を向けた。
「いや。なんでもないよ。伝えておきたかっただけだ」
「……本当にそれだけ、ですか?」
「ああ。もちろん」
「……」
疑心の目を向けられていることに気付きつつも、私は颯爽と竜に乗り込む。デュートも顔色を悪くしながらも、無言で乗り込んだ。
「では、出発いたします」
再び、私たちは空に飛んだ。三日月が輝く、夜闇の空へと。
……デュートと最期の夜走行だ。
「到着いたしました」
「ありがとう」
地上に露出してしまっている地獄の門に到着すると、私たちは竜から降りた。
竜は少しぶるぶると体を震わせている。それでも、ここまでよく送り届けてくれた。
私は感謝と褒美の代わりに、竜の額にそっとキスをする。竜は一瞬、目が桃色に変わったけども……なぜか、睨みつけられた。
なぜ?
「こちらの竜には、番がいるので」
デュートからの情報に、私は納得する。あ、なるほど。
それは悪いことをした。
「すまない。それからありがとう、ここまで送り届けてくれて。二人とも」
「姫様をお守りする騎士として当然のことです」
「キュウ!」
応えてくれるデュートと赤竜に、私はにこっと笑いかけた。
「ここからは私だけで行く。お前たちは被災地の方へと急ぎ行ってくれ」
「……姫様」
デュートが顔色悪いまま、私に向かって問う。
「このまま、この門の番人になられるのでしょうか? もしや」
私は迷わず頷いた。笑顔で。
「ああ。だから、これでさようなら、だな!」
「……っ」
デュートがぎりっと奥歯を噛みしめる音がする。その伏せた面は、心底悔しそうなものだった。
自分の無力さを呪っているかのような。
「嫌です、姫様……」
ようやく上げたその顔には、一筋の涙が流れ落ちていた。
「好きです。本当はずっと以前からお慕いしておりました……!」
「!」
私は目を大きくする。まさかの言葉だった。
本当か、と問い返したい。でも、しなかった。本当だと知ってしまったら……私はきっとここで役目を放棄したくなる。
だから、何も言わずにくるりと背を向けた。
「聞かなかったことにする。でも、デュート。……私はあなたのことを愛してる」
「! 姫さ--」
デュートが何か叫びながら駆け寄ってくる直前、私は魔力を全解放した。
氷の施錠を作り、地獄の門をロックする。
瞬間、死霊たちが吸い込まれるように地獄の門の向こう側へと消えていく。
その日から私は、『地獄の門の番人』となった。
地獄の門とともにこの地と折り重なる異界から動けぬ身となり、デュートと会うこともまたできなくなった。
***
地獄の事件から数ヶ月後--。
デュートは心ここにあらずという様子で、騎士団本部にいた。あの事件……セリーヌが消えてしまってからというもの、訓練に身が入らない。
何もできなかった自分が情けなく、また彼女に対して申し訳なかった。
(俺にもっと力があったら……俺が立場を変わることができたのに)
いや、それよりももっと強大な力があったら--。
デュートはそっと目を伏せる。英雄騎士なんて名ばかりの称号でしかない。俺は愛する人を守れなかった情けない男だ。
国王陛下も、王妃殿下や王太子殿下たちも、大変悲しまれていると聞く。
セリーヌは、厳密にはお亡くなりになったわけじゃない。新たな『地獄の門の番人』として異界にずっとおられるだけだ。
そう、ずっと。御身の寿命が尽きるまで。一人で。
少なくとも、デュートはそう伝え聞いている。『地獄の門の番人』とは、孤高の存在なのだと。
しかし--その時だった。
「デュート!」
「!」
ピトッと首筋に冷たい棒が押し当てられた。
なんだと思ったら、それは氷花アイスキャンディーだった。
「セ、リーヌ……?」
デュートは茫然としてその場に立ち尽くす。
視線の先には、悪戯っぽく笑うセリーヌの姿があった。
「ははっ、幽霊でも見た顔だな?」
「な、んで……ここに」
「異界と人界は行き来できるようだ。地獄の門の方は定期的にチェックをしていれば問題なさそうだから、--会いにきた! お前に!」
「っ!」
デュートの目からぽろりと涙がこぼれ落ちる。
失いそうになって初めて吐露した告白のことが、脳裏によぎる。
「私を嫁に迎えてくれるだろう?」
不敵に笑うセリーヌの姿に、デュートは涙を拭いながら笑顔で応えた。
「もちろんです!」
セリーヌのか細い体をぎゅっと抱きしめる。
強く、強く。その温もりを……確かめるように。
「愛しています。セリーヌ」
「ふふ。私もだ」
二人は抱きしめ合い、そっとキスをする。
離さない。--もう二度と。
それから始まった、夫婦生活。
国王御一家は泣きながら祝福してくれた。もちろん、デュート側の家族も。
おかしなことに常人と変わらぬ肉体を持ったセリーヌと、デュートは五年後には子を授かることにもなる。
「ママ! だいちゅき!」
「ふっ、あはは! 私もだ!」
「セリーヌ。俺は?」
食事を運びながら、デュートがちょっと意地悪げに訊ねると、セリーヌは頬を赤らめた。
「もう! 言わなくても知っているだろう!」
「セリーヌの口から聞きたい」
「じゃあ、そっちこそ言ってみろ」
「もちろん、愛してるよ」
囁くように愛の睦言を呟くと、セリーヌは恥じらう乙女の顔になった。嬉しげに、そしてどことなく照れた様子で微笑む。
「私もだ。愛してるよ。デュート」
近くにあるミモザの花びらが、宙へ舞う。
澄んだ青空に吸い込まれていくように、黄色い花びらは消えていった。
ご拝読ありがとうございました!




