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好きと好きには違いがある!!  作者: 五十嵐 桜詠
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好きと好きには違いがある!! side 蒼

これをを読む前に、好きと好きには違いがある!! の方を読んでから見るのをおすすめします!

アイドルになったときから、分かっていたことがある。これは普通の人生じゃない。誰か一人のものになることも、特別な誰かを作ることも、簡単には許されない世界だってことも。それでもステージの上に立つことを選んだのは自分だし、その全部を受け入れるつもりだった。——はずだった。


最初に気づいたのは、ただの偶然だった。ライブ中、なんとなく視線を流した先に、ひとりの女の子がいた。他のファンと同じようにペンライトを振っているのに、なぜか少しだけ目に残った。理由なんて分からない。ただ、次のライブでも、その次でも、同じ場所にいる気がして、自然と目で探してしまうようになった。それが、神代ももだった。


特典会で名前を聞いたとき、どこかで聞いたことがあるような感覚があった。「もも」と口に出したとき、不思議としっくりきて、いい名前だと思った。それだけのはずだったのに、その響きがやけに頭に残った。


そのあとにもらった手紙は、今までのものとは明らかに違っていた。ファンレターはたくさんもらうし、全部に目を通しているつもりでも、一つ一つを強く覚えているわけじゃない。でもあの手紙は違った。飾った言葉じゃなくて、綺麗にまとめようともしてなくて、ただそのままの言葉で書かれていた。俺の声が優しいとか、少し寂しそうに聞こえるとか、そんなところまで見てくるやつはいなかった。読んでいる途中で、少しだけ息が詰まった。この子、ちゃんと見てるんだなと思った。


あのとき「助けられた」と言ったのは、本当だった。当時の自分は少し余裕がなくて、それを表には出せないまま無理をしていた。そんな中で、あの言葉は確かに支えになった。だからこそ、ほんの少しだけ踏み込んでしまったんだと思う。


連絡を送ったのは、完全に衝動だった。本当はやっちゃいけないことだって分かっていたし、送った時点で戻れなくなることも理解していた。それでも「もも?」と送ったのは、どこかで返ってくる気がしたからだ。実際に返事が来たとき、安心したのと同時に、やっぱりやめておくべきだったとも思った。


やり取りを続けるうちに、はっきり分かっていった。この子は、俺にとって危ない存在だと。優しい言葉をくれるし、無理に明るくしようとしないし、ちゃんと見て、ちゃんと受け止めてくる。そういう相手に、自分が弱いことも分かっていた。だから本当は距離を取るべきだったのに、それができなかった。


会いたいと思ってしまった時点で、もう遅かった。あの夜、来てくれたとき、正直ほんとに来るとは思っていなかった。でも姿を見た瞬間、安心した。「会いたかった」と言ったのは本音だった。アイドルじゃなくて、ただの自分でいられる時間が欲しかった。それを、この子に求めてしまった時点で間違っているのに、それでも止められなかった。


手を取ったのも、完全に自分の弱さだった。あそこで終わりにすることもできたのに、それを選ばなかった。付き合うなんて言葉にしなくても、お互いに分かっていた。この関係はただのファンと推しじゃない。でも同時に、ちゃんとした恋人でもない。そんな中途半端な関係だった。


一緒にいる時間は確かに楽だった。でもそれ以上に、怖かった。ライブで客席を見るたびに、ももがいるのは分かるのに、そこだけを見ているわけにはいかない。俺は全員に向けて立っている。それが仕事で、それが責任だ。ももが苦しんでいることも、なんとなく分かっていた。それでも何もしなかった。いや、何もできなかった。


「独り占めしたい」と言われたとき、やっぱりそうなるよなと思った。それが普通だし、当然の感情だ。でも俺はそれに応えられない。それを選んだ時点で、今の自分は全部壊れる。グループも、ファンも、ここまで積み上げてきたものも全部裏切ることになる。だから答えは最初から決まっていた。「俺は、それできない」。あのときのももの表情は、たぶん一生忘れない。


それでも引き止めることはできなかった。最初に踏み込んだのは自分なのに、最後まで責任を持つこともできなかった。「ありがと」としか言えなかったのは、それ以上言える資格がなかったからだと思う。


それから連絡を取ることはなくなった。でも完全に忘れることもできなかった。たまに思い出す。あの手紙も、声も、時間も、全部ちゃんと残っている。


ライブのとき、客席を見ると、その中にももがいることがある。前よりも分かるようになった。でも何もしないし、何もできない。それでいいし、それが正しい。


それでも、ほんの一瞬だけ視線が止まることがある。気づかれないくらいの時間。それだけで十分だと思ってしまう自分がいる。


☆好きと好きには違いがある。


あいつの“好き”と、俺の“好き”は、同じじゃなかった。でも、あのとき確かに好きだったのは、本当だ。それだけは、嘘じゃない。

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