表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

3/3

教えますよ。タダじゃないけど

「お待たせしましたーっ!カワリスの焼き鳥と、エールお冷割でーす!」

「……あ、あぁ。どうも」


先ほどの女性店員が、両手に持った料理をテーブルに置いていく。

明らかに違う料理の品だが、忙しそうに立ち回る彼女には文句も言えず……俺たちは苦笑いしながらそれに口をつけた。


「やっぱり働くもんじゃないなぁ……」

「なっ……!」


俺の独り言に、院長が反応し顔を青ざめる。

しかしこの店の有様には何も言えず、もそもそと料理を口に運ぶ。


実に気まずい空気が流れていた――――その時だった。


「おい!あんたどうしたんだ!」

「う〜ん……」


何やら厨房近くが騒がしい。騒ぎに乗じてコソッと覗くと、そこにはぐったりと倒れている先程の女性店員の姿があった。


目を白黒させながら料理もろとも床に突っ伏している。周囲の客は毒だなんだと騒ぎ出し、店はまさにカオスな状況となっていた。


はぁ、面倒くさい。


「誰か!医者はいないのか!」


近くにいた客が医者を探す。

いないだろうこんな辺境の田舎には。近くの町医者でさえ2時間かかるんだぞ。


「はぁ……」


狼狽える院長の横で、ため息を1つ吐く。仕方ない。ここは1つ、貸しを作るのもありかもしれないな。それにこの女、確実に“アレ”の症状だ。


「俺が見ます。医者ではないけど、ある程度の知識はありますよ」


あっさりと嘘をつき、ざわざわとしている人混みを掻い潜る。そして女性店員を仰向けに起こし、首に手を当て軽く脈を測った。


「脈は正常だな。君……最近食べられなかったり眠れなかったりしたか?」

「え……?えぇ……うん」

「やっぱりな。過労だ。要は働きすぎ」


女はキョトンとした表情をしていた。この店の有様に、この症状――過労以外のなんでもないだろう。俺もよくなっていたから、よく分かる。


俺はすぐ隣にあったコップを手に取り、ゆっくり水を飲ませていく。


「この店に休める場所はあるか?」


店主の方を向く。店主は少し狼狽え、首を横に振った。


「そうか……じゃあ、そこの椅子くっつけて、布敷いて。簡易ベッドだ」


即席で作ったベッドに先程の女性を寝かせる。女性は酷く混乱しているようだったが、休んでいいと分かったらすぐに目を閉じ、寝息を立て始めた。それだけ疲れていたのだろう。


ゆっくり休んでくれるといい。

さて、あとの問題を解決するとするか……。


「店主、この店は何人で回ってるんだ?」

「あ、あぁ。今日は少ない方で3人だが……大体は5人だな」

「5人?少なすぎないか」


この規模の酒場で5人の従業員というのは、何がなんでも少なすぎる。それに厨房には店主1人しか立っていないのだろう。それは回転率が悪いわけだ。


「店主、一つ言っていいか。この店、最悪だ」

「はぁ!?」

「いや、正しくは、“接客体制が”かな」


激怒する店主を遮り、倒れた女の方を見る。


辛かったろうな……。3人でこの店を回すなんて、余程の伝説アルバイターでないと出来ない。それこそ、俺のような。


顔を青ざめさせる院長を横目に、俺は淡々とこの店の悪い部分を指摘しだした。


「まず、基本的なことができていない。注文を受けたらメモを取らず、口頭で伝える?それに厨房には1人しか立っていないじゃないか。お陰で料理の取り違えが頻繁に起きていると見た」

「うぅ……」


店主がバツの悪そうな顔で俯く。


「あと、従業員への対応がなっていない。そもそもこの規模を5人で回すなんて、無理な話なんだ。あとちゃんと新人教育してるのか?片付けから接客まで、何もかもがもたついていたぞ」


最もな指摘に、店主はふるふると震えていた。そして次の瞬間、声を荒らげダンと壁を殴った。


「……黙ってれば言いたいこと言いやがって!んな事わかってんだよ!じゃあどうすればいいんだ!?」


そう、その言葉が聞きたかったんだ。

心の中でニヤリと笑う。


恐らく店主は、この現状が良くないことを一番わかっていた。しかし、この体制以上の策が見つからない。そんなところだろう。


じゃあ、俺の前世の全勢力を持ってお教えして差し上げようではないか――。労働基準法に違反しない、ピース(平和)コンフォータブル(快適)な考えを!


「あぁ。だから俺の考えを聞いてもらいたい」

「……」


黙ったままの店主に語りかける。


「まず、注文はメモをとる。これを徹底して欲しい」

「だが――」

「分かっている。紙なんて高級品、そんなことで使えないよな」

「だったら――」

「そこでいい案があるんだ。俺の開発した“折り紙”で使っている“偽物の紙”を輸入してほしい」


店主の言葉を遮りながら、すらすらと言葉を紡ぐ。首を傾げる店主に、懐から取り出した“折り紙”を見せた。


「これは、使われなくなった廃材の紙から新しく作り出した紙だ。紙漉かみすき、という方法を使って作ることができる」

「捨てるはずの紙から……紙を……!?」

「そう。“リサイクル”って言うんだけどね」


にこっと、貼り付けたような笑顔を向ける。店主は固まったまま“折り紙”を凝視していた。


「貴方さえ良ければ、安く売りつけるよ。さて、どうする?店主さん――――」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ