教えますよ。タダじゃないけど
「お待たせしましたーっ!カワリスの焼き鳥と、エールお冷割でーす!」
「……あ、あぁ。どうも」
先ほどの女性店員が、両手に持った料理をテーブルに置いていく。
明らかに違う料理の品だが、忙しそうに立ち回る彼女には文句も言えず……俺たちは苦笑いしながらそれに口をつけた。
「やっぱり働くもんじゃないなぁ……」
「なっ……!」
俺の独り言に、院長が反応し顔を青ざめる。
しかしこの店の有様には何も言えず、もそもそと料理を口に運ぶ。
実に気まずい空気が流れていた――――その時だった。
「おい!あんたどうしたんだ!」
「う〜ん……」
何やら厨房近くが騒がしい。騒ぎに乗じてコソッと覗くと、そこにはぐったりと倒れている先程の女性店員の姿があった。
目を白黒させながら料理もろとも床に突っ伏している。周囲の客は毒だなんだと騒ぎ出し、店はまさにカオスな状況となっていた。
はぁ、面倒くさい。
「誰か!医者はいないのか!」
近くにいた客が医者を探す。
いないだろうこんな辺境の田舎には。近くの町医者でさえ2時間かかるんだぞ。
「はぁ……」
狼狽える院長の横で、ため息を1つ吐く。仕方ない。ここは1つ、貸しを作るのもありかもしれないな。それにこの女、確実に“アレ”の症状だ。
「俺が見ます。医者ではないけど、ある程度の知識はありますよ」
あっさりと嘘をつき、ざわざわとしている人混みを掻い潜る。そして女性店員を仰向けに起こし、首に手を当て軽く脈を測った。
「脈は正常だな。君……最近食べられなかったり眠れなかったりしたか?」
「え……?えぇ……うん」
「やっぱりな。過労だ。要は働きすぎ」
女はキョトンとした表情をしていた。この店の有様に、この症状――過労以外のなんでもないだろう。俺もよくなっていたから、よく分かる。
俺はすぐ隣にあったコップを手に取り、ゆっくり水を飲ませていく。
「この店に休める場所はあるか?」
店主の方を向く。店主は少し狼狽え、首を横に振った。
「そうか……じゃあ、そこの椅子くっつけて、布敷いて。簡易ベッドだ」
即席で作ったベッドに先程の女性を寝かせる。女性は酷く混乱しているようだったが、休んでいいと分かったらすぐに目を閉じ、寝息を立て始めた。それだけ疲れていたのだろう。
ゆっくり休んでくれるといい。
さて、あとの問題を解決するとするか……。
「店主、この店は何人で回ってるんだ?」
「あ、あぁ。今日は少ない方で3人だが……大体は5人だな」
「5人?少なすぎないか」
この規模の酒場で5人の従業員というのは、何がなんでも少なすぎる。それに厨房には店主1人しか立っていないのだろう。それは回転率が悪いわけだ。
「店主、一つ言っていいか。この店、最悪だ」
「はぁ!?」
「いや、正しくは、“接客体制が”かな」
激怒する店主を遮り、倒れた女の方を見る。
辛かったろうな……。3人でこの店を回すなんて、余程の伝説アルバイターでないと出来ない。それこそ、俺のような。
顔を青ざめさせる院長を横目に、俺は淡々とこの店の悪い部分を指摘しだした。
「まず、基本的なことができていない。注文を受けたらメモを取らず、口頭で伝える?それに厨房には1人しか立っていないじゃないか。お陰で料理の取り違えが頻繁に起きていると見た」
「うぅ……」
店主がバツの悪そうな顔で俯く。
「あと、従業員への対応がなっていない。そもそもこの規模を5人で回すなんて、無理な話なんだ。あとちゃんと新人教育してるのか?片付けから接客まで、何もかもがもたついていたぞ」
最もな指摘に、店主はふるふると震えていた。そして次の瞬間、声を荒らげダンと壁を殴った。
「……黙ってれば言いたいこと言いやがって!んな事わかってんだよ!じゃあどうすればいいんだ!?」
そう、その言葉が聞きたかったんだ。
心の中でニヤリと笑う。
恐らく店主は、この現状が良くないことを一番わかっていた。しかし、この体制以上の策が見つからない。そんなところだろう。
じゃあ、俺の前世の全勢力を持ってお教えして差し上げようではないか――。労働基準法に違反しない、ピースでコンフォータブルな考えを!
「あぁ。だから俺の考えを聞いてもらいたい」
「……」
黙ったままの店主に語りかける。
「まず、注文はメモをとる。これを徹底して欲しい」
「だが――」
「分かっている。紙なんて高級品、そんなことで使えないよな」
「だったら――」
「そこでいい案があるんだ。俺の開発した“折り紙”で使っている“偽物の紙”を輸入してほしい」
店主の言葉を遮りながら、すらすらと言葉を紡ぐ。首を傾げる店主に、懐から取り出した“折り紙”を見せた。
「これは、使われなくなった廃材の紙から新しく作り出した紙だ。紙漉き、という方法を使って作ることができる」
「捨てるはずの紙から……紙を……!?」
「そう。“リサイクル”って言うんだけどね」
にこっと、貼り付けたような笑顔を向ける。店主は固まったまま“折り紙”を凝視していた。
「貴方さえ良ければ、安く売りつけるよ。さて、どうする?店主さん――――」




