死亡。そして転生
「キャーー!強盗よ!!」
なんだ……この数分の間に何が起こった――!?
「早く金を出せ!!さもないとこいつを殺す!」
目の前には、泣き叫ぶ幼女の頭に、銃を突きつけている黒ずくめの男。辺りは騒然としていて、誰もがパニックに陥っていた。
ダメだ……理解が追いつかない。これはなんだ。強盗、というやつなのか?
もちろん俺もパニックだった。とにかく警察を呼ぼうと、なんとかポケットに手を入れる。
――しかし、スマホが無い。
当たり前だ。今はこの百貨店のバイト中なのだから。
「はぁやぁく金を出せぇーー!!」
「キャァァァ!」
劈くような悲鳴が耳に刺さる。強盗はもたもたしている店長に痺れを切らし、幼女の髪を掴みあげた。
そして――――
ダンッ
鈍い音が響く。次に、腹部へ激烈な痛みが走った。
「は…は……」
「キャァァァーー!」
店長は倒れた俺を見て、顔を真っ青にしている。
あぁ、そんなだから店長は、裏でカピバラ(※世界一穏やかな動物)なんて言われるんですよ……。
これに懲りたら、少しは俺たちの賃金、上げてくださいね――……。
俺は、モップ一本で強盗に挑み、幼女を庇い、
そして、
――――死んだ。
――――「伊織くん、いつもありがとうねぇ」
「近藤くんが入ればうちは安泰だよ!」
「近藤伊織、か。腰抜けは要らん。死ぬ気で着いてこい!」
「お主……うちの店を継いでくれるな……?」
頭の中に、映像と音が一斉に流れる。
駄菓子屋のおばちゃんに、スーパーの吉田さん。板前の大将に、老舗居酒屋のじっちゃ……。
どれも、俺が経験した“アルバイト”の記憶だった。
俺、近藤 伊織はとにかく貧乏性だった。幼い頃から貧乏で、制限されて育ったせいもあるのだが。
それ以上に俺は、金を貯めるという行為にどっぷりハマっていた。
それは、ある種の麻薬だ。
止めたくても止められない。かっ○えびせん並の威力があった。
そのせいで俺は定職に付かずフラフラフラフラ――この歳になるまで、金を集めるのに効率がいいバイトを、何件もかけ持ちしていた。
お陰で生涯(34歳没)までにこなしてきたアルバイトの数は、100以上。
それに生まれ持った器用さで、大体の仕事は極限の境地まで上り詰めてしまった。
そのせいで大概、重要な役職に付かされそうになるのだが――面倒臭がりな俺はそれをのらりくらりと躱し、他のバイトへと移動していたのだった。
……それにしても、この深淵はいつまで続くのだろうか。
天国や地獄は信じていなかったが、この暗闇の中を永遠に彷徨い続けるなんて……さすがに精神が折れる。
まぁでも、この何かに包まれているような温かさは悪くない。
ちょっと寝てから、考えよう――――……。
◇◇◇
「おぎゃあ おぎゃあ」
「おぉ、こんな所に赤ん坊が。寒い中可哀想に……私の孤児院へ入れてあげましょう」
おくるみに包まれ、俺は息を吹き返した。いや、泣き喚いた、の方が近いだろうか。
ふわっと宙に浮く感覚がする。この修道着の男が、俺の入るかごを持ち上げたからだろう。
どうやら俺は、転生したらしい。
捨てられた、赤子の孤児として。
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