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第9話 風が変わった
朝、裏口を開けると、空気が違った。
冷たいわけじゃない。
でも、夏でもない。
ミリアは一度、立ち止まった。
厨房に戻ると、鍋の音が少し高く響く。
火の入り方が、いつもと違う。
「……もう、そんな時期か」
誰に言うでもなく、そう思った。
食卓に出すスープが変わった。
香草が減って、根菜が増える。
客の服も、少しずつ厚くなる。
ユウトは、窓を開ける時間が短くなった。
それだけで、特に何も言わない。
昼前、ガルドが来て、席に座った。
「風、変わったな」
「変わったね」
「夏、終わったか」
「そうみたい」
それ以上は、話さない。
午後、猫は日向に集まらなくなった。
代わりに、入口の影にいる。
雨が降る。
強くもなく、弱くもない。
夕方、灯りをつけるのが少し早くなった。
それだけ。
夜、宿は静かだ。
変わったことは、たくさんある。
でも、説明するほどのことはない。
翌朝も、朝は来る。
ひだまり亭は、
変わらないまま、
少しだけ先へ進んだ。




