第8話 覚えていない人
午前中、見慣れない客が来た。
年は若く、服は少しだけくたびれている。
街道を歩いてきた顔だ。
「一休み、いいですか」
「どうぞ」
ミリアが水を出すと、客はほっと息をついた。
「静かな宿ですね」
「そうですね」
それは、よく言われる。
少しして、客は店内を見回した。
「ここ、何人でやってるんですか」
「家族と、居候です」
客はうなずいた。
「いいですね」
何が、とは言わなかった。
そのとき、ガルドが入ってきた。
「お、客か」
「ええ」
ガルドは席に座り、水を一口飲んでから言った。
「ここ、前からこの感じだよな」
ミリアは、思わず聞き返した。
「前から?」
「ああ。ずっと」
即答だった。
「ユウトは?」
名前を出すと、ガルドは眉をひそめた。
「ユウト?」
「……ほら、いつもいる」
ガルドは少し考えてから、肩をすくめた。
「いたか?」
ミリアは、それ以上言わなかった。
客は会話を聞いていなかったふりをして、
水を飲んでいる。
午後になって、ユウトはいつも通り裏で薪を割っていた。
それを見て、ミリアは少し安心した。
ガルドも、それを見て何も言わなかった。
夕方、客が帰り際に言った。
「人、増えました?」
「増えてません」
「そうですか」
それで納得したようだった。
日が沈み、
猫が一匹、入口で丸くなる。
今日、誰が覚えていて、
誰が覚えていなかったのか。
確かめる理由はなかった。
ひだまり亭は、
今日もいつも通りだった。




