第7話 ユウトがいない日
その日は、ユウトがいなかった。
朝になっても、階段を下りる音がしない。
裏口にも姿が見えない。
「出かけたのかな」
ミリアは、そう思った。
特に探さなかった。
必要なら、戻ってくる。
掃除をして、
パンを焼いて、
猫に水を替える。
いつも通りの朝だった。
昼前、ガルドが来た。
「あれ、今日は静かだな」
「いつも静かだよ」
「いや、もう一段」
そう言って、いつもの席に座る。
「ユウト、いないね」
「いないね」
「まあ、そういう日もあるか」
それで話は終わった。
昼過ぎ、泊まり客が一人来た。
荷物は少なく、顔は少し疲れている。
「一泊、できますか」
「はい」
客は、宿に入るなり言った。
「……落ち着きますね」
「そう言われます」
それ以上は、説明しない。
午後は、特に何も起きなかった。
外で何かあったのかもしれないけれど、
ここまでは届かない。
夕方、雨が降った。
猫は一匹も見えない。
さっきまでいた気もするけれど、
気のせいかもしれなかった。
夜になっても、ユウトは戻らなかった。
「……泊まってる?」
一瞬だけ、そんな考えが浮かんだ。
でも、すぐに手放した。
誰かがいない夜は、
珍しいことじゃない。
翌朝。
裏口で、薪を置く音がした。
「おはようございます」
「おはよう」
それだけ。
いなかった一日と、
戻ってきた朝のあいだに、
違いはほとんどなかった。
ひだまり亭は、
誰か一人で成り立っているわけじゃない。
翌朝も、朝は来た。




