表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ひだまり亭の、急がない時間 ~異世界に来たけど、特に目的もなく生きてます~  作者: 九条 綾乃


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

5/17

第5話 時計のない宿

 その客は、夕方に来た。


 荷物が多く、靴がまだ新しい。

 旅慣れていないのが、すぐわかった。


「一泊、できますか」


「はい。空いてますよ」


 部屋に案内すると、客は何度か窓の外を見た。


「……静かですね」


「そうですね」


 それ以上の説明はしない。


 夕食の時間、客は落ち着かない様子だった。

 スープを一口飲んでは、周囲を見回す。


「ここ、時計は?」


「ないですね」


「街道沿いの宿なのに?」


 ミリアは肩をすくめた。


「必要な人、あんまりいないので」


 客は少し困った顔をした。


「明日、朝早く出たいんですが」


「起きたらで大丈夫ですよ」


「……それ、遅れません?」


 ユウトがパンをちぎりながら言った。


「遅れたら、次に行けばいいですし」


 客は、言葉に詰まった。


 食後、外はもう暗い。

 でも、客はまだ夜だという実感が持てないようだった。


「今、何時くらいです?」


「たぶん、いい時間です」


 そう答えると、妙に納得された。


 部屋に上がる前、客は廊下で立ち止まった。


「ここ……時間、変じゃないですか?」


 ミリアは少し考えた。


「変じゃないですよ」


「でも、なんだか……」


「急がないだけです」


 ユウトが言った。


 客は笑った。

 半分、冗談として受け取ったようだった。


 翌朝。


 客は、思ったより遅く起きた。


 慌てる様子もなく、

 むしろ、よく眠れた顔をしている。


「……出発、遅れました」


「そうですね」


「でも」


 客は、外を見た。


「まあ、いいか」


 そう言って、荷物をまとめた。


 去り際、振り返って言う。


「また来てもいいですか」


「はい」


 それだけ。


 客がいなくなっても、宿は変わらない。

 時計はないままだし、時間もわからない。


 それでも、朝は来る。


 ひだまり亭では、

 それで十分だった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ