第17話 切れ味
「あ、起きた。おはようユウト」
「おはよう」
「これ、硬くて切れないから手伝って」
ユウトは厨房の隅にある包丁を手に取った。
特に力を入れた様子もなく、刃を下ろす。
ストン、と音がした。 野菜が二つに割れる。
「……コツ、あるの?」
「いえ。重さに任せるだけです」
ユウトは淡々と作業を続けた。
昼前、ガルドが来た 。
今日は鎧を着ている 。
腰の剣が、ひどく汚れていた。
「よう、ユウト。……最悪だ。森で変な魔物に絡まれてな」
ガルドがカウンターに置いた剣は、刃がボロボロだった。
「研ぎに出すと高いんだよな」
「砥石なら、裏にありますよ」
「お前に研げるのか?」
「真似事くらいなら」
ユウトは剣を持って裏口へ出た。
黒猫がそれを見ていたが、すぐに目を逸らして丸くなった 。
シュッ、シュッ、と音が響く。
早くもなければ、遅くもない 。
薪を割る時と同じ、一定のリズムだった 。
しばらくして、ユウトは店内に戻った。
「終わりました」
「お、早いな。……どれ」
ガルドは剣を受け取り、鞘から抜いた。
窓から入る光を反射して、刃が白く光った。
ガルドは指先で軽く刃に触れ、すぐに引っ込めた。
「……おい、これ」
「汚れを落としただけです」
「いや、そんなレベルじゃねえだろ。お前、何者だ?」
「お待たせ。スープできたよ」
ミリアが鍋を持ってきた。
ガルドは何か言いかけたが、スープの匂いに鼻を鳴らした。
「……まあ、いいか。飯だ」
ガルドは剣を鞘に収め、スプーンを手に取った。
午後は、特に何も起きなかった 。
外では誰かが手柄を立てたり、魔物を倒したりしているのかもしれない 。
でも、ここは静かだ 。
夕方、ミリアが言った。
「今日も平和だったね」
「そうだな」
それでいい 。




