第14話 久しぶりの席
――ロルフの場合
久しぶりに、この通りを歩いた。
石の並びが変わった気がしたが、
たぶん気のせいだ。
角を曲がると、あった。
――ひだまり亭。
……だったはずだ。
ロルフは立ち止まる。
看板を見る。
「こんな……字だっけ?」
否定するほどの確信もない。
昔の記憶は、いつも都合よく丸くなる。
扉を開ける。
鈴が鳴った。
「いらっしゃいませ」
若い声。
中は、変わっていない。
少なくとも、雰囲気は。
ロルフは、いつもの席――
だったと思う場所に座った。
「久しぶりです」
そう言ったが、相手は首をかしげた。
「初めて、ですよね?」
「……ああ、そうか」
ロルフは笑ってごまかす。
奥から、もう一人出てきた。
落ち着いた男。
この顔は、知らない。
知らない、はずだ。
「何にします?」
「スープを」
「はい」
味は、覚えていた。
温度も、覚えていた。
「変わりませんね」
思わず言う。
「そうですか?」
「ええ。昔から」
二人は顔を見合わせたが、
深くは聞いてこない。
それが、妙に心地いい。
食べ終えて、勘定を済ませる。
「また来ます」
「はい」
外に出て、振り返る。
看板は、もう気にならなかった。
通りを歩きながら、ロルフは考える。
――昔、誰と来たんだっけ。
思い出せない。
でも、
来ていたことだけは、確かだった。




