第10話 白い朝
朝、裏口の木桶に、薄く白いものが張っていた。
ミリアは指先で触れて、すぐに引っ込めた。
「……冷たい」
音はしない。
割れるほどでもない。
ただ、白い。
厨房に戻ると、息が少しだけ見えた。
いつもと同じ朝なのに、どこか違う。
ユウトは、もう起きていた。
「寒くなりましたね」
「そうだね」
それだけ。
火を強めて、スープを温める。
昨日までと同じ材料なのに、味が少し変わる。
客が来た。
肩をすくめながら、入口で靴を脱ぐ。
「今朝、白かったですね」
「ええ」
「雪かと思いました」
「霜ですね」
「もうそんな時期か」
客はそう言って、席に着いた。
昼前、ガルドが来た。
「朝、滑りそうになった」
「気をつけて」
「年だな」
そう言って笑う。
猫は、今日は外に出てこない。
入口の内側で、丸くなっている。
午後、陽が差すと、白さは消えた。
水桶も、いつも通りだ。
何かが始まった感じはしない。
終わった感じもしない。
ただ、季節が一つ、進んだ。
夜、戸締まりをする頃には、
空気はもう、戻らなかった。
それでも、灯りは温かい。
ひだまり亭は、
今日も変わらず、そこにある。




