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みんな、きらい

作者: 江藤ぴりか
掲載日:2025/12/23

 通行人が、笑ってる。

 おなじ制服の子が、笑ってる。

 みんな、きらい。みんな、不幸になればいい。

 だって私がこんなにイラついてるのに、みんな楽しそうなんだもん。


 制服が可愛くて入った高校は、私の思い通りにならなかった。

 私はのけもので、置いてけぼり。

 勉強もむずかしくて、私は赤点常習者。


 イライラする。

 今日は電車で知らない人に声かけられたし。

「あの、リュックのチャックが開いて、中身が零れそうですよ?」

 私は舌打ちする。

 なんで、私の失敗を指摘するの? 感謝されたいだけの、偽善者が。

 たしかにファスナーが開いてるのはアレだから、ちゃんと閉じてあげたけどさ。

 そんなようすを、同高おなこうの子がジロジロ見てる。

 ほら、私を笑うために見てるんでしょ? あとでみんなにネタとして話すために観察しているにちがいない。



 ああ、イライラする。

 どうして、みんなわかってくれないの?


 私は数ヶ月前のことを、思い出す。

 入学したらまずは私に声をかけるべきなのに、みんな私を遠巻きに見てたし。

「ねぇ、橋本さんだよね? 私、村田っていうの。よろしくね」

 うわ、地味子はないわ。なんでまず、すっぴんで学校、来れんの? 恥ずかしくない? なんかニキビだらけで汚いし。

「…………」

 村田とかいうブスにそっぽを向いて、私はスマホに集中した。

 そしたら村田は気まずそうに他の地味子に声をかけ始めた。

「橋本さん、なんか怖い子だった……」

「気にしないほうがいいよ。なんか不機嫌そうだし」

 私は声のする方に、ガンを飛ばす。

 すると、地味子たちは慌てて教室から出ていった。


 周りを見ると、みんな私の方に注目をしている。

「うわ、怖っ……」

「なにあれ、こっち見てる……」

 私は視線をスマホに戻し、インスタの投稿の通知を眺めていた。

『入学式☆ かわちい制服、アガる』

 イイネもあんまりついてない。



 なんでうまくいかないの? 私の思い通りになれば、しあわせになれるのに!

 今日も推しの配信者の動画を見て、心を落ち着かせる。

 学校はつまんないし、ガス抜きは必要でしょ?

 家に帰ってご飯とお風呂を済ませたあと、ツイキャスに行く。


「来てくれてありがと。マイちゃん、愛してるよ」

 アキトはガチ恋営業することで有名だけど、私はそれを手玉にとってる。アキトの方が私を好きなのは、当たり前のことだし。

「ほらね、下の名前で『愛してる』って言ってるし、絶対、私のこと好きじゃん」

 鼻高々に呟くと、アキトは金づるにも声をかける。

「あ、ミキちゃん! おはよう。ツイッター見たよ。今日もかわいいね」

 は? 信じられないんだけど。

 そういえば、雑談たぬきにもミキって子、晒されてたっけ。


 ガチ恋、勘違いおばさんって。これは私が晒してあげたんだけどね。だって、アキトと距離近いし、ずっとはっついててキモいし。

 アキトも迷惑そうだし、金だけある賞味期限切れより、私みたいな若い子のほうがずっと価値があるし。


『アキト♡♡ 見てくれてありがちょ♡ あとでDMするね♡』

 はー? DMとかふざけんなよ。

「ミキおば、調子乗ってんなぁ」

 配信者とは距離をおくモンでしょ。DMとか、距離なしにもほどがあんだろ。


 私はツイキャスをバクグラにして、たぬきに行く。

『ミキおば、距離なしじゃんwww おばさん、調子乗りすぎww』

 投稿して数分で返信がつく。

『オフイベでもベタベタしてた。なんかアキト、迷惑そうだった』

『ガチ恋営業なのに、勘違いしてんじゃね?』

 私はアキトの声を聞きながら、追撃する。

『アキトだって四六時中おばにまとわりつかれて、かわいそうだよねww』

 スレは大盛りあがり。

『それな。ストーカーおば、やばくね』

 ふふ、叩かれてる、叩かれてる。

『お茶爆イベでもめっちゃ投げて、五位にしたってツイッターで自慢してたはw』

 バッカじゃないの。金だけはあるんでちゅねー。


「最近、とあるところでリスナーが晒されてるみたいだから、行かないようにね。それより、俺のことだけ考えていてほしいな」

 ほら、アキトも話題にしてるじゃん。ミキおば、言われてんぞ。アンタが私と同じく、たぬきに出入りしてんの知ってるんだから。


「マイー! いつまで起きてんの。早く寝なさい!」

 うわ、ママが怒ってるわ。今、二十三時? まだ早いって。

 しかたなく部屋の電気を消して、イヤホンしながらスマホを見つめる。


 アキト、かっこいいなぁ。銀髪碧眼の王子様系なのに、ちゃんと私のこと見てくれてるし。

『もう寝ろって怒られちゃた。アキト、離れたくないよー』

 私はコメントで、少しの自我を出す。

「マイちゃん、もう寝るの? じゃあ、夢の中でも会おうね。おやすみ、チュ」

 きゃー! キスされたんだけどぉー。どうしよう、眠れないじゃん!



 それからはもう有頂天だった。

 ママからも「最近、いいことあった?」って聞かれるくらいには、顔に出ていたみたい。

 だって、お小遣いを貯めて、やっとアキトのオフイベに参加できるんだから!

「明日は地雷系の病みカワ系で行こっかな? アキトって清楚系が好みかなぁ?」

 好きな人のためにオシャレしたい。

 ミキおばみたいな厄介金づるとは違うとこを見せなくちゃね。

「よし、地雷系で行こ!」

 これならおばさんにはできないし、若い子って感じをアピールできるし。


「あら、オシャレしてどこ行くの? マイもおでかけ?」

 ママもなんだかオシャレしてる。

 テーラードにニット、ワイドパンツにネックレス。ママ友とおでかけなのかな?

「うん。ちょっとイベントに行くんだ。ママは?」

 視線を上に向け、ママは言葉をつまらせた。

「うーん。ちょっと、イイとこに行くから。途中まで一緒に行こっか」

「うん!」


 オシャレなママと、地雷系の娘。これってみんなに仲がいいアピールできるよね?

 家を出て電車に乗り、目的の最寄り駅に着く。――ママも。

「あれ? ママ、ここが最寄りなの?」

 ママの顔はこわばっている。

「あら、マイもなの? ママはここからタクシーだから、お別れね」

 なんだかようすが変だ。まぁ、どうでもいいかと、手鏡で前髪を整える。

 今日は風が強いから、いやになるなぁ。


 会場、といっても雑居ビルの一室には数名の女の子たちがいた。

 アキトのアクスタを痛バにしている子や、厚化粧で頑張っている子、地味な子、おばさんと様々だった。

「うわ、ブスとおばばっかじゃん。私が一番、ビジュいいまであるわ」

 手鏡を取り出し、前髪とツインテを整える。

 つけま、ちょっと取れてる……。私は会場のトイレに駆け込んだ。


「一回、外したほうがよさげ? うーん?」

 右目のつけまを外し、グルーで再接着。乾かしている時に見知った人が声をかけてきた。

「……マイ、よね?」

 ママだ。同じ雑居ビルに用事なんて、偶然がすぎない?

「あれ? ママ、なんでここにいるの?」

 私たちはお互い無言になった。


「嫌な予感はしてたのよね。アキトくんのイベントに来たんでしょ?」

 聞きたくない。

「ママもなの」

 きらい。

「まさか親子で同じ人の配信を見ているなんてね」

 言わないで。

「ママね、ミキって名前でアキトくんを応援しているのよ」

 やめて。


 オフイベは、親子の地獄の邂逅かいこうになってしまったのだ。

 てか、よりによってミキおばがママとか、出来すぎてない? 世間狭すぎ、笑えないよ。

「は? なんでママがミキおばなわけ?」

「おばって……。そんな言い方しないで。雑談たぬきでも見て影響受けたの?」

 外ではアキトが来たのか、歓声があがっている。

「てかパパがいるのに、他の男に貢いで恥ずかしくないわけ?」

 ママは片腕をこすり、目を下にやる。

「それとこれとは、別よ。私の小遣いの範疇はんちゅうでやってることだし」

 ありえない。

「浮気じゃん! パパに言いつけるからね!」

 私は声を荒げる。

「それじゃあ言わせてもらうけど、雑談たぬきにママのこと誹謗中傷したこともパパに言うからね」

 なんで知ってるの?

「は? なんでそうなるの? だいたい、私がママのこと書いたって証拠でもあるの?」

「分かるわよ、それくらい。マイの自由時間とたぬきの書き込み時間で予測できるし、開示請求すればいいことよ」

 実の娘になんでそんなことが言えるの?

「ママなんて、知らない! 今日はおばあちゃん家に泊まるから」

 私はトイレを出て、会場をあとにした。



 ミキおばがママだった。

 ハートマークいっぱいつけて、若い男にキモコメする厄介おばがママだった!

 もう、どうしたらいいかわかんない。

 みんな、きらい! 誰も信じられない!

 ママのせいで入場料もパァだし、アキトにも会えなかったし、もう知らない!

 おばあちゃん家に今日は泊まるとして、これからどうしたらいいの?

 トー横にでも行って、自活する? そんなのやだ。あんな底辺の集まりに私はふさわしくない!


 ふらふらと駅のロータリーのベンチに座る。

 鏡を見ると、かわいいナメクジ涙袋は涙で取れて、ボロボロになっている。

「……っ! もう、サイアク」

 通行人がちらりとこちらを見ては、そらす。

 かわいそうな私。誰からも心配されない。



 私は雑談たぬきのアキトスレを開く。これはもう自然に身についたしぐさだ。

『ミキおば、今日のオフイベ不参加なうww』

 ママも参加しなかったんだ。

「嫌な予感はしてたのよね。アキトくんのイベントに来たんでしょ?」

 ママの言葉が頭の中で反響する。

 そして私の書き込みも頭の中に浮かんでくる。

『ミキおば、距離なしじゃんwww おばさん、調子乗りすぎww』

 そうだよ。ママはおばさんで、パパがいるのにアキトに心酔しちゃって、投げ銭までしているクズじゃん。

 私は若いし、かわいいし、あんなババアとは違うもん。


 通行人が楽しそうに笑ってる。

 スマホを見ながら、みんな誰かを笑ってる。


 みんな、みんな、きらいだよ。

 私だけ、正しくてきれいだもん。


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