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02 煌めく閃光。駆け上がった先で女王は ~スプリンターズステークス~

『勝ったのはカレンタン!! 香港の刺客、並みいる男馬を従えて、五連勝で頂点へ! 新女王の誕生ォォォ!!』



 実況の声が、スタンドの歓声が中山競馬場を壊さんばかりに爆発する。


 ゴール板を先頭で駆け抜けた芦毛の牝馬──【疾風乙女】カレンタンは、ゆっくりと速度を緩めた。


 勝てた。


 カレンタンは、ホッと優しく息を吐いた。



 短距離戦は、常に刹那の世界だ。


 一瞬で勝敗が決まり、一瞬で主役が入れ替わる。だからこそ、そこに「女王」が君臨すること自体が、奇跡に近い。




□スプリンターズステークス

 香港からの刺客・バレットマン、国内戦線を引っ張ってきたダッシャーゴーオン。速さを誇る者たちが、己のすべてを叩きつけてきた舞台で、カレンタンは最後に先頭に立った。


 風を裂き、観衆の視線を一身に浴びながら───新しい短距離女王の誕生だった。




 世界を知るため、新女王は海を渡る決意をする。


 女王の次走は香港スプリント。

香港の短距離界は世界最高峰のスピードが渦巻く。その中で、カレンタンは五着。勝てはしなかったが、決して見劣りはしなかった。

 悔しさと自信を深めて女王は帰国した。



 年が明け、高松宮記念のステップレースに選ばれたのはオーシャンステークス。


一番人気のカレンタンは、重馬場に苦しみ、思うように脚が伸びず四着に敗れる。


 ───衰えたのか


 ───女王は絶対ではない


 そんな囁きが、風に混じり始めていた。



□高松宮記念

 女王カレンタンは二番人気にとどまっていた。一番人気は、同厩舎の後輩、【迅雷覇王】ローダカナロア。


 重賞勝ちを含め五連勝中。若く、鋭く、そして強い。

 だが、女王には女王の意地があった。


 レースは横綱相撲、強いの一言。

 流れを読み、脚を溜め、最後の直線で一気に解き放つ。


 後輩に王座は渡さない───そう言わんばかりの快勝だった。


 カレンタンは、まだこの戦線の中心にいることを、誰の目にもはっきりと示した。



□スプリンターズステークス

 実りの秋。国内短距離GⅠ三連覇がかかる一戦が、再び訪れた。春のGⅠで見せた強さ。ファンは迷うことなく女王に従った。


 一番人気は、【疾風乙女】カレンタン。相手筆頭はローダカナロアが名乗りを上げる。


 厩舎の先輩として。短距離女王として。

 

 負けられない理由が、胸の奥で幾重にも絡み合っていた。




『カレンタン、好スタート! 逃げ争いはバドワイザー、マガジンプロスパーが出ていった!』



 十四番枠からのスタートが決まった。カレンタンは五番手。理想的な位置取りだ。


 前半六百メートル三十二秒台。息を呑むほど速い流れとなった。カレンタンはしっかりと折り合って脚を溜めている。


(焦るな。勝負は、後半よ)


 バクつく胸の鼓動。必死に気持ちをコントロールする。ふと後ろから視線を感じた。でも、気にしている時間はない。



『四コーナーを回って最後の直線!見逃せない三百メートルの叩き合い!』



 実況のボルテージが一段、上がる。その声がのろしとなったかのように各馬が直線へと雪崩れ込んだ。




 カレンタンは外へ進路を取る。じわりと進出し、逃げる馬たちを射程圏に捉える。


(いける!)


 満を持してスパートをかける。

 視界が一気に開け、他馬が線を引くように後ろへ流れていく。


 残り二百。先頭に並びかける。


 カレンタンの目前には中山の急坂が立ちはだかる。ここを越えれば、三連覇の栄光が待っている。


 (……まだ、行ける!)


 カレンタンは脚に力を込め、坂を駆け上がる。

 

 その時、外側に()()気配を感じた。


 誰だ? いや、ありえない。

 これは女王の最高速度だ。誰も追いつけるはずがない。


 だが、一度遠ざかっていた歓声が、再び膨れ上がる。


 影はみるみる大きくなり、次の瞬間、あっさりと横を通り過ぎていった。


【迅雷覇王】ローダカナロア。その走りは、迷いも躊躇もなく、ただ速かった。



 レース後、カレンタンは静かに息を整えながら、後輩に声をかけた。



「負けたわ。新しい王様は、あなたよ」



 ローダカナロアは、首を低くして答える。


「今日は、どうしても勝ちたかった。 今日を逃したら、国内で先輩に勝つことができなくなるから」



 年内引退が決まっている女王。


 最後のチャンスで、成長した姿を見せ、王座のバトンを受け取りたかったのだろう。


 なんて後輩だ、とカレンタンは思う。

 そして、微笑んだ。



「怪我に気をつけて。私の分まで、頑張ってね……王様?」



 ウイニングランを促し、逞しくなった背中を見送る。


 

 短距離界を引っ張ってきた女王は、その役目を終えた。だが、その速さは、確かに次の時代へと受け継がれたのだ。




 カレンタンは、ホッと息を吐いて、静かにターフを後にした。


お読みいただきありがとうございました!

ぜひ、動画サイトで史実のレースもご覧ください!


※本作は連載中の『見た目と血統が悪いと生産界から追放されたダービー馬、極東の地から世界の血統図を塗り替える!』


と世界観を共有する番外編的位置づけです。

本編では描けなかった一戦を、戦記調で切り取っています。


ご興味ありましたら、本編もぜひ。

https://ncode.syosetu.com/n2297jn/

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番外編用に、おすすめのレースがあれば教えてください!


リアクションくれると作者が喜びます(・ω・`人)

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