ギャスパル・ランドウォーカーと世界の王
〈世界の王〉が最初に造り出した被造物は泥人形であった。
彼らの最初の役目は、世界に放たれた〈第四の獣〉を抑止するため、ことさら獣へ智慧を与えることであった。有限である〈可能性〉を、獣が喰らい尽くさぬようにだ。
そして最初の役目を終えると泥人形は選別され、残された泥人形は王から世界の歪みを正す裁定者としての役割を与えられた。聖霊と呼ばれる存在がそれだ。
刻の流れは、遠く見れば一本線のようであり連綿と続くもののようだが、近くへ寄り凝視すれば、大小様々な揺らぎが身を寄せ合う濁流の大河であることが判る。まるで血管や臓器が身体を成しているようにだ。つまり聖霊とは、この揺らぎに起こる歪みを修復する管理者であり、刻の濁流が世界を破滅へ押し流すことの無いよう常に監視し修復する存在として機能する。
かたや選別されなかった泥人形は世界壁の向こうに存在すると云われた〈聖域〉で眠りについた。特に中でも〈世界の王〉の種を宿した七体の泥人形は〈聖域〉の奥深くで静寂のなか眠りについたとされる。
※ ※ ※
フリンフロン王国——フリンドーシャ大森林。
ロアの気の利いた張り手で意識を戻したギャスパルは、すっかり痛みの引いた胸部へ目を落とした。奇妙な痛みの引き具合に違和感を覚えたのだ。そして、またぞろ驚きの色を浮かべた。大穴は開いていないにしても、胸当ては砕け散っているだろうと想像をしていた。だがどうだろう。胸当ては綺麗さっぱり真新しい姿に戻っている。他の装備もそうであった。
「なあ——取り込み中のところ悪いんだが、一つ訊いていいか?」誰にとでもなく、そう云ったギャスパルは胸当てや腰回りの装備を手でなぞり怪訝な顔をして見せた。これは幻ではないのかと疑っているのだ。
「二つ訊ねたら、首を刎ねるわよ」それに、突きつけるよう答えたのはロアだった。まだ刎ねる頸はギャスパルにはあるというわけだ。
ギャスパルはそれに大きく双眸を見開き大袈裟に肩を竦めて返した。そうしたのは、随分と仰々しい答えに驚いたのもあったが、やはりこの女は聖霊の女王ではないのだと、どこか確信めいたものを思ったからだ。もし、これが女王なのであれば、世界中の教会は認識を改める必要があるだろう。聖霊ロアは、口汚い非情な女だと。そう心中へ、ひとりごちたギャスパルは大きく溜息を吐きロアへやり返した。「ああ、判ったぜ。だったら、この状況を、まるッと説明してくれよ。溝鼠にも判るようにな」
ロアの向こうではアッシュがオルゴロスと何やら話し込んでいる。会話の端々が聞こえるが、所々聞きなれない言葉が混じっているのもあり要領を得ない。それに加え、オルゴロスが産み出した巨木と蔦の囲いと、降り頻る大粒の雨。これが現実離れした雰囲気を押し込んでくるものだから、余計に思考が鈍るのだ。
そんな中でも、はっきりと判るのは、やり返されたロアが幾許か機嫌を損ねているだろうということだった。それは返ってきた答えからも判った。「そうね。溝鼠には理解できないのだから、黙って待ってなさい。そのうちに答えが示されるから」
これにギャスパルは再び大袈裟に肩を竦ませて見せたが、それを見届ける者はいなかった。ロアは口汚くギャスパルへ答えると背を向けてしまったからだ。
※ ※ ※
それから暫くすると大粒の雨は止み、雷は遠のいていった。
それはまるでオルゴロスが抱いた苛立ちが晴れていくのを知らせるようであった。その証拠に、見れば四翼は巨躯をすっかり丸め込み話しを続けている。
しかしだ、一寸の隙も感じられない。だから決して緩い空気が漂っているのではない。寧ろその逆であった。冷静さを取り戻したからこその緊張感。それが、場に張り巡らされていた。
いっそのこと激情に呑まれ事態を収束させてしまった方が、短絡的な結末として受け入れ易いこともあるだろう。少なくともギャスパルは難しい問題については、大体においてそうして来たし、そう誘うことも多かった。短絡的な結末を結び合わせ、あたかもそれが正論であるように見せるのは、得意であった。それにだ。見たくもない厄介ごとは、いつだって冷静さの中で浮き彫りになるものだ。
そして、今もそうであった。
巨木と蔦の囲いがザワザワと音をたて、少しばかり蠢いたのが判った。これにハッと我に返ったギャスパルは、瞼を忙しなく上下させ周囲を見回し様子を伺い——そして、短剣を抜き放った。「そのうちに答えが示されるだと? これがか? 冗談じゃねえぜ!」
※ ※ ※
ギャスパルが短剣を抜いた理由は自明であった。
囲いが騒がしくなるや否や、またぞろ彩り豊かな小花が咲き乱れ、そしてオルゴロスの前脚が右、左と振り抜かれたのだ。
アッシュとロアは、それを軽やかに躱すと後方へ一足飛びに下がりギャスパルの眼前までやってきた。どうやら、これは答えではなく、予想外の問題なのだろう。ロアはギャスパルの絶叫へ「答えが知りたければ、あなたも手伝いなさい!」と叫んでいた。向こうではオルゴロスが咆哮を挙げ今にも突進してくる様子を見せている。そして、四翼の周囲にはあの霧が再び漏れ出し新たな囲いを形成し始め——もう逃げ出す隙もなくなっていた。
「いや——ロア、時間が惜しいかな。防壁を」次に口を開いたのはアッシュだった。
ロアは、それに苦々しく黙したまま頷くと、いつの間にかに手にした白銀の片手剣を横薙ぎに一閃、そのまま切先を頭上へ掲げた。白銀の軌跡は蒼や緑の粒子線を柔らかく引っ張り頭上へ達すると大きな幾重もの波紋へ姿を変えながら最外周から上へ上へと円周の頂点へ狭まり収束して行った。するとどうだろう——周囲は蒼と緑に輝く薄膜で覆われ、奇怪な文字をあちらこちらに浮かべると波紋に合わせ頭上へ流れながら明滅した。
ギャスパルはそれを呑気に見上げほくそ笑むと、どこか合点のいった様子をみせ「おいおい〈外環の狩人〉。俺は何をすれば良いんだ?」と、アッシュとロアの背後へスッと位置を取った。
※ ※ ※
ギャスパルの言葉はもっともだった。ロアは手伝えと云ったが、どこをどう手助けをすれば良いのか、皆目見当もつかなった。
奇怪な文字を浮かべた薄膜が張られると、空気が一変したのだ。
アッシュの口から聞き馴れない言葉が紡がれたかと思うと、強烈な碧緑の風が吹き荒れアッシュは瞬く間に姿を消していた。正確には瞬時に山のようなオルゴロスの頭上へ移動すると、短剣一本で左右から襲いかかる図太い爪と渡り合ってい始めたのだ。そして、撃ち合いの隙間にアッシュの強烈な蹴りがオルゴロスの顎へ何度も見舞われると、暫くすると四翼は身体をよろめかせた。
「おい、聖霊。俺は一体何を見せられてるんだ? 大蜥蜴の虐殺劇か?」云ったのはギャスパルだった。
「黙って見てなさい」答えたロアは終始真剣な眼差しでアッシュの一挙手一投足を追いかながら、ときおり「早すぎます」だとか「間に合わない」だとかを口にし白銀の剣を振るっている。
「手伝えとか、見ていろとか、忙しない奴だな。で、なんで大蜥蜴が、またぞろ暴れ出したんだ?」忙しなくしたロアを気遣う様子もないギャスパルは、どこか楽しげにロアへ訊ねていた。
「あなた、どこかで奇妙な術を使う輩と接触しているでしょ?」
「奇妙な輩だと——お前らの以外にか?」
「私たちの何処が奇妙だって云うの? あなたの方がよっぽど下劣で奇妙でしょうに。ふらふらと聖域を出た泥人形の末裔が」
「へいへい。溝鼠の次は泥人形かよ。この劇は一人何役あるんだ? ほら聖霊様、無駄口叩いていると、ご主人様が危ないぜ?」実のところ、ギャスパルはロアが口にした、奇妙な輩に心当たりがあった。それはあの〈白の魔導師〉アイザック・バーグだ。しかし、それを正直にロアへ答えることを意図的に控え話を逸らせた。そうしろと、ギャスパルの直感が囁いたのだ。
脳裏に過ったのは、娼館の夜にアイザックが妙に馴れ馴れしく囁いた「価値を同じくする友だ。兄弟と云っても差し支えないな」という一言だった。
ロアはギャスパルを咄嗟に「泥人形の末裔」と呼んだ。オルゴロスもそれに近しいことを口にしていた。それであれば、アイザックが口にしていた一言は、オルゴロスが追った盗人の姿を多少なりとも浮き彫りにするではないか。泥人形。額面通りにとらえれば、それは〈世界の王〉の眷属の一端であり、アイザックの奇妙さはそれに起因している可能性も薄らと見えてくる。そして、もう一度反芻し額面通りに考えを辿ればギャスパルの珍妙な運命も、何処かでアイザックのそれに繋がれている可能性がある。もっともギャスパルは、自身の出自は甚だ劣悪な裏路地に零れ落ちた何かだという認識であった。だから、その考えにたどり着くには、あれやこれやと例の如く頭の中の円卓は騒がしかったが、オルゴロスに捕捉され殺されかけたこと、それ自体が碌でもない運命に繋がれている証左なのではないかと結論づけた。
だから大盗賊は瞬時にそれを思うと、すかさず話を逸らしたのだ。ここは、短絡的に事を済ませてしまった方が良い。そうしなければ厄介ごとが襲いかかり、妹——ソフィの命運を喰らってしまうだろう。
※ ※ ※
ギャスパルが煽るように云ったロアのご主人様の危機は、確かに起こった。際限なく交わされた猛攻と激昂は遂にアッシュがオルゴロスの野太い尾に身体を弾かれ一旦の幕間を迎えた。それにロアは「ご主人様!」と、悲痛の声を挙げたが、当のアッシュは軽く片手を挙げ心配ないと暗に云い、そしてこの幕間についてを手短に語って見せた。「オルゴロスの封印は難しそうだね。別の誰かの制御下に入ったみたいだ」
「制御下? 何のだ?」アッシュの言葉へ即座に返したのはギャスパルだった。
「ああ——僕たちを追跡する輩のだ」先ほどまで黒瞳を蒼緑に明滅させたアッシュだったが、そう答える頃には、すっかりと凪いだ黒を双眸に浮かべていた。ギャスパルは、その様変わりの瞬間を目にすると背筋に冷たいものが流れ落ちるのを感じた。アッシュの凪いだ黒瞳は鋭い薄刃ような眼光を発している。次にギャスパルが口にする言葉を間違えれば薄刃の眼光は静かに大盗賊の頸を落とすのではないかと思ったのだ。だからギャスパルは慎重に言葉を選んだ。「そうかい。それでオルゴロスは、どうなるんだ?」
「〈世界の焔〉へ還るはず。どういう訳か、王笏が祭壇に戻ったようだね」そう答えたアッシュの眼光はすっかりと柔らぎ、双眸の凪いだ黒瞳も輝きを戻したようだった。
それに安堵したギャスパルだったが、緩んだ空気が何もかもの支えを取り払ったのか、周囲が騒がしくなると巨木と蔦の囲いがガラガラと音をたて崩れ始め、再び緊迫した面持ちとなった。アッシュを弾き飛ばしたオルゴロスは苦悶の声を挙げ、つい先程までのたうち回っていたのだが、周囲の崩落を合図にまた襲いかかってくるのではないかと危惧したのだ。だが、それはまったくの取り越し苦労だった。オルゴロスは周囲の崩落に合わせ地中へと姿を潜らせていったのだ。
オルゴロスの翼は大地を飛ぶ翼——四翼が望む場所へと巨躯を瞬時に運ぶと伝えられている。アッシュの言葉が正しければ、竜の翼はオルゴロスを〈世界の焔〉へ運んだのだろう。
ギャスパルは、表情を緩めると恐る恐るアッシュへ疑問に思ったことを訊ねた。「グラントの大将。その〈世界の焔〉ってのは何なんだ? それに王笏ってのは、そこの聖霊様の杖じゃあないのか? なら、あんたは〈世界の王〉って奴なのか?」
ギャスパルが訊ね終える頃には、オルゴロスが地中へ潜る際に撒き散らした湿った土が空か降りしきり、周囲の崩落が巻き上げた乾いた灰色の煙が辺りに充満した。そして暫く——それが収まると、すっかりと夜を迎えていたことが判った。大森林にぽっかりと穿たれた丸く姿を露わにする土肌には月明かりが落とされ三人を照らしていたのだ。
ギャスパルは、この光景に固唾を飲んだ。返ってこない答えをアッシュに催促しようと大袈裟に咳き込んでみせ視線を奪おうとしたのだが、どうだろう——月を見上げるようにしたアッシュの姿が、どうにも神秘的に映り、それを断念した。月光を受けた黒瞳は白々と揺らめき、決して小綺麗とは云えない肩にかかった黒髪は何を受けているのか毛先を白々と縁取り輪郭を揺らし美しく踊っている。
横を見れば、ロアもアッシュの姿に瞳を奪われているようだったが、こちらはこちらで片瞳へ奇怪な文字を浮かべているように見えた。どうにもこの二人は奇妙で——そして神秘そのものに思える。ギャスパルはそう思うと、本日何度目かのお得意の所作——大袈裟に両肩を竦め再び口を開いた。「なあ、どうなんだい大将? 返答なしなら、もう行って良いのか? 命を救ってもらっておいて何だが、俺はそこまで暇じゃあねえ。それこそ神に祈る暇も惜しいくらいだぜ」
※ ※ ※
「ああ、ごめん。そうだったね。ええっと——その前に……ギャスパル・ランドウォーカーさんで良かったかな?」ギャスパルの再三の声に、悪びれる様子もなくアッシュはそう訊ね返すと薄らと微笑んで見せた。
どこか儚げで今にも壊れてしまいそうなアッシュの声音、言葉を発した薄い表情は、悪びれる必要を感じさせなかったのだろう。ギャスパルは質問に質問で返したアッシュに悪態を突く素振りは見せなかった。あえて云うならば、そんなアッシュを受け入れたとも見える。
「おう。気の置けない奴らはギャスって呼ぶぜ」気後れした訳ではなかった。だが、ギャスパルは何故かアッシュから目を逸らし、そう答えていた。
「そっか。じゃあ僕もギャスと呼んでも?」相変わらずの様子でアッシュは、再び訊ねながら静かにギャスパルの傍へ歩き始めた。
「お、おう」
「それじゃあギャス。悪いのだけれど、君の質問には答えることはできないんだ。それに——」言葉を詰まらせ答えたギャスパルのすぐ傍まで歩いたアッシュは、そこまで云うとグイッと顔を寄せ大盗賊の瞳を覗き込み言葉を続けた。「——ああ、やっぱりそうか。ギャスの目的が何であれ、僕らに付き合ってもらおう」
「おい、藪から棒に何だってんだ。なんで俺が——」不躾に瞳を覗き込まれたギャスパルは、アッシュの言葉に面喰らうと慌てるようにそう答えた。それもそうだろう。このままでは、ギャスパルは一切の収穫もなく、本来の目的も果たせなくなってしまう。それは避けたかった。情報は盗賊の武器であったし、どんな目的を果たすにせよ情報は重要な取引材料なのだから。
だがアッシュは、そんなギャスパルを他所に言葉を遮った。相変わらず悪びれる様子は伺えない。「これから僕は追跡者の目を欺くためにちょっとした偽装をしなければいけないんだ。ギャスを助けるための一戦で漏れてはいけないものが漏れてしまったようで——もっとも、全部が全部漏れてしまう前にロアが防いでくれたから、最低限の偽装で済みそうなんだ」
「俺を助けるための一戦だと? そんなもの頼んだ覚えはねえぜ」
「それもそうだったね。でも、そこで一つ提案だ。良いかいギャス?」
「何だよ。云うだけ云ってみろよ」
「僕は偽装をすると、本来の力をこの世界で再現できない。まるっきり普通の人間と同じになってしまうから、オルゴロスを追うこともままならなくなってしまう。そこでだ。さっきギャスが質問してくれた〈世界の焔〉までの護衛をお願いできないかな? 無事にオルゴロスの所まで連れて行ってくれれば、僕がギャスの妹さんを何とかしよう」
結局のところギャスパルが思うところの情報収集は、叶うことはなかった。どちらかと云えば、アッシュの何とも言い難い薄ら氷で包んだような鋭い雰囲気に流され、最後まで言葉を耳にする羽目となった。そして、耳に届いた「妹さんをなんとかしよう」という一言に大きく目を見開き、息を呑みアッシュを凝視した。
「ちょ、ご主人様?」アッシュの言葉に今度はロアが過剰に反応をすると、制止するつもりだったのだろうが、どこか悲鳴に近い声で言葉を荒げた。
「大丈夫だよロア。どのみちこの時代から、しらみ潰しにしないとジョシュアの手掛かりは掴めないと思うんだ。なので、まずはオルゴロスを何とかしないとね。じゃないと色々と狂ってしまうだろ? ヴァノックも休眠してしまっているし」アッシュは、悲鳴を挙げるようにしたロアへ小さく笑いながらそう答えた。
「それは、そうですけれど——だからと云って封印までして、こんなのを連れて行くだなんて——馬鹿なんですか?」あからさまに眉根を寄せたロアは、きっと呆れたのだろう。語尾にちょっとした罵倒を織り込み、そう返した。
きっと、そんなロアの言い分は的を得ていたのだろう。アッシュは、うんうんと頭を振ると何度か声にならない声でブツブツと、ひとりごちる様子を見せると「いや——良いんだよロア。こちらへ来る前に見たんだ」と、この一言は、はっきりと口にした。
「はい? 一体何を見たのですか?」アッシュの独り言のような答えに、ロアは更に呆れたのか随分と強い口調でアッシュへ返していた。
その頃にはギャスパルはすっかりと気を取り戻すと二人のやり取りを眺めていた。先の戦いとは打って変わりアッシュとロアの使従関係が逆になったのか、はたまたはロアは気の強い世話役で、アッシュは出来の悪い主人といった様相に、再び面喰らった。先ほどまでの、言葉を間違えただけで頸を刎ねられそうな空気は、どこへ姿を隠したのだろう。そんな空気の緩急にギャスパルは、あわや身を委ねそうになると安堵の息を溢し、ハッと表情を改めた。
そう、あわや——だったのだ。
人心を掌握することにギャスパルは自信があった。場の流れを変えることもそうだ。だから、たった今、不意に感じた安堵は想定外だったのだ。この安堵は自身が得るものではなく、あくまでも相手が得るはずのもの。そうでなければ、ギャスパルは矜持を打ち砕かれたと云って良い。それは許し難いことだ。そう思うとギャスパルは口汚くアッシュとロアに割って入った。「おいおい、ちょっと待てよ——話の腰を折るんじゃあねえよ。なあグラント。お前、俺の妹を何とかすると云ったな? 何でそれを知ってるんだ」
「さっきギャスの瞳から読み取ったんだ」
「は? 瞳からだと」
「そう、瞳から。目は口ほどに物を云うって言葉は?」
「んなもん、知らねえよ。教会の魔導師みてえな口振りだなグラント。いいか? 言葉で煙に巻けると思うなよ」
「僕は——そうだね、偽装してしまえば魔導師の部類になるだろうから、間違ってはいないけれど、ギャスと同じく神は信じていないよ」
「だから、話を逸らすんじゃあねえよ、グラント。お前はさっき〈世界の焔〉については答えられねえって云ったんだぜ。それじゃ、この話は成立しないだろ。俺は、そこを知らねえからな、案内もできねえ。だったら何を護衛しろってんだ」
「いや、場所は判っているんだ。だから案内役ではなくて護衛をお願いしているつもりだよ。そう、僕を護って欲しいんだ。場所はサタナキア砦。君が目指しているエドラス村の直ぐそこさ」




