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自由の星の下で  作者: そーゆ
新たな故郷へ
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第二十三話:国境の試練

6月初旬、ルスラントの大地は自由の余韻と新たな試練に揺れていた。祝賀パレードは、レーテ全土に希望を灯したが、赤剣団の残党は闇に潜み、講和の光を憎んだ。パウルスブルクの人民広場は、フライエス・オイローパの赤い旗に輝くが、国境地帯は不安定だった。マンフレート・ベルンハルトとナディア・シュミットは、市民軍の任務で国境へ向かう。だが、赤剣団の襲撃が、二人の道を血で染める。無政府地帯への入境は、自由の重みを試す戦いだった。



パウルスブルクの市民軍拠点は、朝の光に活気づいていた。焼けた工場の倉庫を改装した建物で、フライエス・オイローパの赤い腕章が壁に並ぶ。マンフレート・ベルンハルトとナディア・シュミットは、祝賀の熱気を胸に、新たな任務を受けた。市民軍のリーダー、エレナ――二人を導いた女――が、地図を広げた。「マンフレート、ナディア、ルスラントの国境地帯を視察しろ。講和で奴隷が解放されたが、赤剣団の残党が国境を越えて逃げてる。無政府地帯での動向を報告してほしい」


マンフレートは、ボルトアクションのライフルを肩にかけ、頷いた。「エレナ、了解。赤剣団、祝賀で大人しくなったと思ったけど、まだうろついてるのか」彼の声には、ホルテン爆撃で赤剣団が壊滅した記憶が響いた。[[///検閲済///]]を葬ったことへの罪悪感は、自由の喜びで薄れていたが、戦いの覚悟は消えていなかった。


ナディアは、リュックに手榴弾と水筒を詰め、微笑んだ。「マンフレート、私、行くよ。フラームの光、守るためなら、どこだって」彼女の金髪はヘルメットに隠れ、青い瞳は望郷――旧帝国の村、両親の歌――を映していた。恐怖は、抱擁で癒され、市民軍の戦士としての決意に変わっていた。


二人は、人民軍の払い下げトラックに乗り、パウルスブルクを後にした。国境地帯は、ルスラントと旧帝国の残滓が交錯する荒野だった。講和でレーテの統制が緩み、奴隷解放が進む一方、赤剣団の残党や逃亡者が無政府地帯に流れ込んでいた。エレナの指示は明確だった。「奴隷の脱走ルートを確認し、赤剣団の拠点を特定しろ。だが、無理はするな」


トラックは、舗装の崩れた道を進んだ。焼けた村、放置された戦車、難民のテントが点在する。マンフレートは、窓から荒野を見た。「ナディア、自由って、こんな場所にも届くのかな? [[///検閲済///]]が言ってた、平等の夢って……」ナディアは、少年の手を握った。「届くよ、マンフレート。フラームが約束したんだ。私たち、確かめに行くの」


国境地帯の森に差し掛かった正午、トラックが突然止まった。運転手の市民軍兵士が、無線で叫んだ。「敵襲! 赤剣団だ!」マンフレートとナディアは、ライフルを構え、トラックの荷台から飛び降りた。森の奥から、黒いコートの民兵――赤剣団の残党――が現れた。機関銃、手榴弾、火炎瓶を手に、20人以上の集団が襲いかかる。


「伏せろ!」マンフレートが叫び、ナディアを地面に押し倒した。機関銃の弾が、トラックを蜂の巣にし、運転手が血を流して倒れた。赤剣団の隊長が、拡声器で吠えた。「フライエス・オイローパの犬め! 講和は偽りだ! ルスラントは俺たちのもの!」その声には、第十八話のマルティン・ヴェルナーの狂信が響いた。


マンフレートは、岩陰に隠れ、ライフルで応戦した。「ナディア、手榴弾! 右の茂みに投げろ!」彼の左腕は完治したが、緊張で震えた。ナディアは、ピンを抜き、手榴弾を投げた。爆発が茂みを吹き飛ばし、赤剣団の民兵が叫びながら倒れた。だが、火炎瓶がトラックに命中し、炎が二人を包んだ。


ナディアは、咳き込みながら、マンフレートの手を引いた。「マンフレート、森へ! トラック、ダメだ!」二人は、弾丸を避け、森の奥へ走った。赤剣団の追手が、銃声と共に迫る。マンフレートは、木の陰で狙撃し、追手の二人を倒した。「ナディア、弾、残り少ない。無政府地帯まで、なんとか逃げるぞ!」


ナディアは、リュックから最後の手榴弾を取り出し、投げた。爆風が追手を怯ませ、二人は川沿いの崖へ向かった。赤剣団の隊長が、無線で叫んだ。「逃がすな! 奴らはフラームのスパイだ!」だが、森の霧が二人を隠し、銃声が遠ざかった。マンフレートは、ナディアを支え、崖を滑り降りた。「ナディア、大丈夫か? もう少しだ!」


夕暮れ、ルスラントの国境を越えた無政府地帯に、二人はたどり着いた。そこは、レーテの統制が及ばない混沌の地だった。崩れた検問所、旧帝国の看板、難民の焚き火が点在する。奴隷解放で逃げ出した者、赤剣団の残党、略奪者がうごめく。だが、フライエス・オイローパの密かな連絡網が、二人を待っていた。


難民キャンプのテントで、フライエス・オイローパの連絡員――20代の男、ヤン――が二人を迎えた。「マンフレート、ナディア、よく生き延びた。赤剣団の襲撃、予想以上だ。無政府地帯は、奴らの隠れ家になってる」ヤンは、地図を広げ、赤剣団の拠点を指した。「視察の報告は、私がパウルスブルクに送る。お前たちは、ここで奴隷の脱走ルートを調べてくれ」


マンフレートは、息を整え、頷いた。「ヤン、了解。赤剣団、講和を潰そうとしてるな。フラームの光、こんなとこで消させねえ」彼の声には、パレードの喜びが、試練に変わった決意があった。ナディアは、膝の擦り傷を押さえ、言った。「マンフレート、私も戦うよ。パパとママの村、自由で帰るためなら、怖くない」


ヤンが、二人に水と弾薬を渡した。「赤剣団は、旧帝国の武器庫を狙ってる。気をつけろ。パウルスブルクに帰るまで、生き延びろよ」二人は、テントの外を見た。無政府地帯の夜空は、星もなく、闇に沈む。だが、ナディアの瞳には、望郷――焼けた村への夢――が光っていた。


マンフレートは、ナディアの手を握った。「ナディア、俺たち、帰れる。自由のルスラントに、村に、絶対戻るぞ」ナディアは、微笑み、頷いた。「うん、マンフレート。一緒だよ。フラームの光、ここでも届くよね?」二人の絆は、無政府地帯の混沌に、確かに火種を刻んだ。

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