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自由の星の下で  作者: そーゆ
自由を求めて
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第二十一話:議場の熱気

1958年6月中旬、ゲルマニアは希望と混乱の坩堝だった。の赤剣団駆逐、第二十話のパウルスブルクでの交渉を経て、ドイツ・レーテ社会主義共和国は転換点を迎えていた。ヘルベルト・フラームの講和条件――民主化、独立保障、植民制度廃止、自由選挙、政治犯釈放、奴隷解放――は、ルスラントの炎をレーテ全土に広げた。人民宮殿の議場は、フラームの提案を巡り分裂し、ゲルマニアの街は新たな叫びで震えた。パウルスブルクでは、マンフレート・ベルンハルトとナディア・シュミットが、フライエス・オイローパの旗の下、講和の報を待つ。議場の決断は、レーテの未来を、希望か血かで染める。



人民宮殿の議場は、大理石の冷たさに反し、熱気で煮えた。円形の議席には、民族共産党の指導部、人民軍の将校、地方管区の代表が並ぶ。鋤と剣の党章が、演壇を照らす。アルベルト・シュペーアは、第二十話のフラームとの会談から戻り、2週間の猶予を終えた。フラームの条件――レーテの民主化、大管区の独立、奴隷の解放――は、党の基盤を揺さぶる爆弾だった。


抗戦派のリーダー、軍司令官ヴィルヘルム・ハルトマンが、演壇で声を張り上げた。「同志諸君、フラームの条件は裏切りだ! 民主化は党の死、独立はレーテの解体だ! ルスラントを焦土にしてでも、フライエス・オイローパを潰すべきだ!」彼の拳が、演壇を叩き、赤剣団の駆逐を無視する強硬さが議場を分けた。ヴォルガの管区長、党の古参が拍手した。


講和派のヨーゼフ・クレナー――ルテニアの代表――が立ち上がった。「ハルトマン、血はもう十分だ。ルスラントの民衆、ヴォルガの鉱夫、バルトの漁民――彼らはフラームの光を信じた。奴隷解放と自由選挙は、レーテを救う。シュペーア閣下の交渉を支持する!」講和派の改革派、都市官僚が頷いた。人民軍と共産党の連合は、クレナーの背を押した。


議場は、叫び声で割れた。「裏切り者!」「現実を見ろ!」――指導部は、党の存亡を賭けた選択に引き裂かれた。シュペーアは、演壇の後ろで腕を組み、静かに聞いていた。「講和は安いもの」は、フラームの急進的な条件に試される。ホーネッカーを葬った彼の目は、議場の混乱を冷たく見つめた。




議場の外、ゲルマニアの人民大ホールを取り囲む広場は、別の嵐に包まれていた。大学自治連合会(UUS)――ゲルマニアの学生と知識人が結成した新勢力――が、大規模なデモを起こした。灰色の街に、赤と白の横断幕が揺れ、「フラームの光を!」「奴隷解放!」「民主主義を!」と叫ぶ声が響く。若者たちは、ルスラントの反乱(第十五話)に触発され、講和を求めた。


UUSの中心は、20代の学生リーダー、カタリナ・フォーゲルだった。彼女は、拡声器を手に、群衆を鼓舞した。「同志よ、ルスラントの民は戦った! パウルスブルクは自由を掴んだ!ゲルマニアも変える! シュペーア、フラームの条件を受け入れなさい!」群衆が、歓声で応え、人民大ホールへ押し寄せた。人民軍の警備が、バリケードを築くが、デモの熱気は止まらなかった。


だが、一部の若者が暴徒化した。石を投げ、警備のトラックに火をつけた。群衆の端から、黒いマスクの集団が議場の門を破り、突入した。「講和を! フラームを! シュペーア、聞け!」――彼らの叫びが、議場の窓を震わせた。衛兵が催涙ガスを放つが、暴徒は議場のロビーまで達し、壁に「自由選挙」とスプレーで書いた。


議場内では、議論が中断された。ハルトマンが叫んだ。「見ろ、フラームの扇動だ! 学生までテロリストだ!」クレナーは反論した。「違う! 民衆の声だ! シュペーア閣下、講和を!」議席が、混乱に飲み込まれた。シュペーアは、窓からデモの炎を見た。第十二話の「繁栄」の約束は、遠い夢だった。




暴徒の叫びが議場に響く中、シュペーアが演壇に立った。彼の黒いコートは、埃に汚れ、だが目は冷たく輝いていた。「同志諸君、静粛に。レーテの未来は、我々の手に委ねられている」議場が、しんと静まり、暴徒の声だけが遠く響いた。


シュペーアは、フラームの条件を手に、言った。「フラームは、民主化、独立、奴隷解放を求めた。過激だ。だが、ルスラントの血、ゲルマニアの炎――これ以上、民衆を失えば、レーテは滅ぶ。外の学生は、フラームの光を信じた。我々も、変革を選ぶべきだ。私は、講和を支持する。フラームの条件を、段階的に受け入れる」


議場が、息を呑んだ。ハルトマンが、席で拳を握り、クレナーが微笑んだ。講和派の拍手が、議場を満たした。シュペーアは、続けた。「民主化は、党の統制下で進める。奴隷解放と政治犯の釈放を、2年以内に。独立は、10年後を目安に。フラームと再交渉し、詳細を詰める。同志諸君、団結を!」


暴徒の叫びが、拍手と歓声に変わった。UUSのデモ隊は、議場の外でシュペーアの声を聞き、歓喜した。カタリナが、拡声器で叫んだ。「同志よ、勝った!自由だ!同志よ!」人民軍が、デモを解散させず、見守った。ゲルマニアのテレビとラジオが、シュペーアの表明を全国に流した。「指導者シュペーア、フラームの講和を支持。レーテに新たな時代を」――その声は、ルスラントに届いた。



ルスラントのパウルスブルクは、フライエス・オイローパの心臓だった。人民広場のバリケードは、市民軍で守られ、赤い旗が風に揺れる。マンフレート・ベルンハルトとナディア・シュミットは、怪我――マンフレートの腕、ナディアの足首――を癒し、市民軍に復帰していた。二人は、工業地帯の拠点で、ラジオを囲んでいた。


ラジオが、ゲルマニアの報を伝えた。「シュペーア指導者、フラームの講和を支持。民主化、奴隷解放、自由選挙を約束。レーテに平和を!」放送が、フラームの声を流した。「同志よ、ルスラントの戦いは、ゲルマニアを変えた。光は、欧州を照らす!」


マンフレートは、ライフルを置き、叫んだ。「ナディア、やったぞ! フラーム、勝った! 俺たちの戦い、報われた!」彼の瞳には、[[///検閲済///]]の罪悪感が消え、希望が溢れていた。ナディアは、目を潤ませ、少年に飛びついた。「マンフレート! 本当だ! 自由だよ! パパとママの夢、叶うよ!」彼女の金髪が揺れ、青い瞳が涙で輝いた。


二人は、抱き合った。ナディアの泣き声は、恐怖を洗い流した。「マンフレート、私、怖かったけど……あなたと戦ってよかった。フラームの光、届いたよね?」マンフレートは、彼女の肩を抱き、頷いた。「ああ、ナディア。天国で[[///検閲済///]]も、笑ってるよ。俺たち、自由を掴んだ」


拠点の市民軍が、歓声を上げ、赤い腕章を振った。パウルスブルクの空は、煙を越え、青く輝いた。だが、遠くの森では、赤剣団の残党が息を潜める。シュペーアの講和は、レーテに平和をもたらすか、新たな影を呼ぶか。マンフレートとナディアの喜びは、その答えを信じていた。

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