ニトルス教会博士の新たに発見された書簡
幾たび目かセオへ
そして初めて僭王セオレクトゥスへ
かつての友よ、と私はいま君に呼びかける。古くからの友よ、ではない。「かつての」といい、「古くからの」といわないことに留意してほしい。「かつての」という語には「古くからの」という語とちがい、過去から継続し現在もそうであるという連続性は含まれない。過去のある時点においてそうであった、ということしか「かつての」という語は意味しない。
このような修辞学の基礎中の基礎を説くのは、しかしかつて君が私とともに、デビトアの学び舎に肩を並べたことをすっかり忘れてしまったように思われてならないからだ。だが私を忘れ果てたとしても、デビトアで学んだ偉大な作者と作品群のことを、君は忘れたわけではあるまい。そう、まさか、古の最大の賢人・ルーペルヴィウスの箴言を、忘れ去れるわけがない! イディキアスが技術と哀切の限りを尽くして文字に留めたメルラヴィア滅亡の様子を! ケマペイオスが鋭く苦く、だがあくまで利他的に、切々と後世のために歌った警世の叙事詩の傑作『ハリュアティア』を!
それとも、もはや、これらの人々もその作品のことも、君の脳髄には留め置かれていないのだろうか。これらの名前はただの空疎な音の羅列としか、いまの君の耳には響かないのだろうか。とすれば、十代の我々があのデビトアの古い空の下で長嘯したパシカ・パシリアナの美しい一節のことも、君はもう覚えていないのだろう。
「変節と共に、友情は重石を意味する。権力の中で、友情は係留を意味する」
〔Em enuerīs, sētinus gunīfo sētinam. Lu aunitīse, sētinus gunīfo sētinum.〕
かつての我々は〔男性形の〕「友情」という語が〔女性形にすると〕「重石」に転じることを、妙と論じたね。友情はあの頃の我々には、「重石」とは似ても似つかない「羽」のように思われたから。これさえあればどこまでも飛んで行ける両翼と! それに「変節する」「権力」という語の、何と親しみのなかったことか!
しかしあの頃の豊かな薔薇色の頬を失い、代わりに痩けた青白い頬を持つ今の私なら、「友情」が「重石」に転ずることはもちろん、〔中性形にすると〕「係留」に変ずることも、何ら不思議に思われない。蓋し、君が平和と尊厳のために何を為すべきか私に語ったときも、君が三百年の牢獄たるあの城砦を打ち破り不当に囚われた無辜の人々を解放したときも、君が戦禍にあえぐ民に求められるまま私欲に満ち満ちた貴族どもを追放したときも、君が質素な硬い石造りの第一奉民官の椅子に座ったときも、そして――君が豪奢で柔らかい王座に座ったときには一層のこと、私は君が有徳の岸辺から離れ不徳の腐海へ漂流しないための係留であろうとして、言葉を尽くしたのだ。その言葉たち、私が君へ送った書簡群は、今も君の手元にあるのだろうか。
もしそうなら、かつての友よ、それらは棄ててくれたまえ! 今私が君との「友情」をただの「重石」に変えそれを忘却の大虚に押し投げ入れんとしているように、君は私の「友情」の「係留」たる書簡たちを、君の王座の傍らにあるという、碧玉と翠玉と黄金に飾られた炉縁の、その中で灼灼と燃える業火へ投げ棄てたまえ!
私は君を忘れよう。君との友情だけでなく、君自身を。セオ、私が〔礼儀正しく「あなた」とではなく、親しく〕「君」と呼ぶのは、ただ君一人だ。セオ、君は私にとって何より「友情」の最初の音であり、そのものを意味した。「友情」はセオ、君の名前の一部であり、それそのものを意味した。だからセオ、君だけを忘れて友情だけを覚えておくことは、私にはできない。
私は君を忘れる。私と君が同じ心で温めた理想を、私と君が一晩のうちに書き上げたあの演説の台本を、「変節と共に、友情は重石を意味する。権力の中で、友情は係留を意味する〔Em enuerīs, sētinus gunīfo sētinam. Lu aunitīse, sētinus gunīfo sētinum.〕」、SのあとのEのアクセントを発音する前の君のいつもの癖だった、歯のあいだを通る君の呼気の、幽かな音の響きのことも、全て。
ウェンセトゥス24日 ラティディアにて
ニトとしてではなく
ピィラ教会のニトルスとして
く***たれ!何もできやしないやせっぽっちの〔二行判読不明〕弱虫のフクロウめ!呪われろ!呪われろ!呪われろ!世界で一番 大っ嫌いだ!