表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
6/7

エンティア国

 「ちょっと 俺のパレスまで来てくれ」 

 ケインがそれぞれのパレスのリーダーとチーフに召集をかけた。

 皆んながケインのパレスに行くとケインが魔の気流を察知する珠の前にいた。

 「これを見てくれ‥」

 指した光に黒い気流が流れ込んでいる国が写っていた。

 「この国は…?」

 キースが聞いた。

 「エンティア国だ…」

 ケインが答えた。

 「エンティア…」

 レイリーが呟くように言った。

 リーダー達の視線がケインとレイリーに集まった。 

 エンティア国…それはレイリーとケインが生まれ育った故国だった。

 そこにはレイリーとケインの両親や血縁者 知人がいる。

 皆んなの中に その思いが湧く…

 レイリーにとっては家というものの考え方や一族という鎖に縛りつけられた場所でもあり、豊かな考えと大きな愛情を教えられた場所でもあった。

 俯きながら目を閉じたレイリーの脳裏に去来したのは、凝り固まった一族の長老達の顔と引き離された両親 そして大好きな伯父一家の顔だった。

 レイリーは静かに顔を上げると言った。

 「行くわ‥」

 「俺達も行こう‥こっちは結界も張ってあるしチーフ達に任せれば安心だ。」

 キースが言った。

 「しかし すぐに出発して馬で強行軍するとしても三日かかるぞ…その余裕はあるのか‥?」

 リューイは言った。

 「この様子だと おそらく三日の間に国の三分のニが危ない‥下手すれば‥全部‥」

 ケインは冷静さを取り繕うようにして言った。

 「全部ですって…」

ライザは言った。

 「少し魔の進行が速すぎはしないか?俺は 昨日この珠を見ているが黒い気流は写っていなかったぞ。」

 ユーゴが言う。

 「おそらく グラッド自らエンティアに入ったんだわ。」

 レイリーが言う。

 「グラッドが‥それでは急ごう‥何か少しでも早く行ける方法はないのか…」

 キースが言う。

 「あるわ…すぐにエンティア国に行ける方法が‥皆んな支度してあたしのパレスまで来て…」

 レイリーはそう言うとケインのパレスを後にした。

 そのレイリーの後を、エミーとサミエルが追った。

 レイリーに追いつくとサミエルが言った。

 「レイリー嬢 まさか 移動魔法を‥」

 「そうよ‥」

 レイリーは答えた。

 「いけません。あれを使えるのはわかっています。でもご自身でおっしゃっていたではありませんか…今はまだ移動魔法を使うとかなりの体力を消耗すると…」

 エミーが言った。

 確かに体力 魔力を消耗する…移動魔法を使った後少しでも休めれば…そう思う。でも今回はそのまま戦いになるだろう。グラッドもいるだろうし…それにまだ時は満ちていない。レイリーは冷静に考えた。

 「レイリー嬢に何かあったら、グラッドを消滅させる者はいなくなるのですよ。それがどういう事かあなたにはおわかりのはずです。」

 サミエルが必死に言った。

 「サミエル エミー ありがとう。あたしの事心配してくれて…でもエンティアなら『聖風石』があるから体力も通常の半分で済むから大丈夫よ。それに時を満たすきっかけをあたしが作らなければいけないとしたら今回はいいチャンスだわ。」

 「レイリー嬢…」

 サミエルとエミーは顔を見合わせると諦めたように言った。

 「わかりました。これがあなたの故国エンティアでなくとも、あなたは何かと理由をつけて移動魔法をお使いになるのでしょうね‥でも覚えておいて下さい。あなたは《グラッドを消滅させる者》なのですよ。

 サミエルは言った。

 「わかったわ‥後はお願いね。」

 レイリーは言った。

 「はい。お任せ下さい。」

 サミエルとエミーは答えた。

 二人はその足でリューイの元を訪れ部屋へ案内された。

 二人が部屋へ入るとリューイが言った。

 「すまない。支度をしながら聞かせてもらう。」

 「申し訳ございません。それで充分でございます。私達はリューイ殿がご出発の準備でお忙しいのを承知の上で参ったのですから‥」

 「どうか‥レイリー様を‥レイリー嬢をよろしくお願い致します。」

 リューイはそのサミエルのいつにない改まった口調に‥エミーの懇願する様な声に準備する手を止め二人の方を向いた。

 「二人揃って一体何があったんだ。」

 「いえ、今はまだ…」

 「これから起ころうとしている事か…?」

 リューイは言った。二人は肯定するように黙って俯いた。

 「何があると言うんだ。」

 「私達にも分かりません。それは起こらないかもしれないからです。」

 エミーが答えた。

 「でも君達 二人が揃って来たという事は、それが起こる確率が高いという事だろう‥レイリーの身に…」

 リューイが言った。

 「はい」

 サミエルが答えた。

 「レイリーはそれを承知の上で君達が止めるのも聞かずそれでも行くと言うのだな‥」

 サミエルとエミーは頷く。

 「分かった。レイリーの事は俺に任せてくれ」

 リューイの声は力強かった。

 「ありがとうございます。それではこれで失礼致します。レイリー嬢の事はくれぐれもよろしくお願い致します。」

 サミエルとエミーは深く一礼して退室した。

 入れ替わりに入って来たリューイのパレスのリーダー テリアットが言った。

 「あの二人が来るという事は、レイリー嬢の身に何かあるという事ですね。」

 「鋭いな テリアット。」

 「同じ立場ですからね…ただサミエル一人ならそれで済ましてしまうのですがエミーまでとなると‥事の重大さが違ってくる。」

 「…まさかレイリーの生命に関わると言うのか…」

 「いえ レイリー嬢の事ですからそお生命までとは考えられませんが、最悪の場合それに近い事が起こり得るかもしれません。」

 「何!そんな馬鹿な‥」

 「でも あなたがいらっしゃるのですから大丈夫です。何が起こってもあなたならレイリー嬢を救う事が出来る。その術を知っている。そうではありませんかリューイ殿。」

 テリアットの声は静かだった。

 「そうだったな…後を頼む」

 「承知致しました。お見送り致します。」

 テリアットは力強く答えると優雅に一礼をしリューイと共にレイリーのパレスへ向かった。


 レイリーは皆んなをホールで出迎えると奥の部屋へと案内した。

 そこは不思議な光で満たされた部屋だった。その中心に光が集まっていた。

 レイリーはそこに皆んなを立たせた。

 「一体 何をするんだ。」

 ユーゴが言った。

 「移動魔法を使うのよ。」

 レイリーは答えた。

 「移動魔法まで使えるのか‥君は…」

 ケインが驚いた声を出す。

 「ええ。普通なら何処からでも使えるのだけど、エンティアは今黒い気流が急速に増えている。それがどんな影響を及ぼすか分からないから、軸を聖なる森に固定してある此処に来て貰ったの…準備はいい‥行くわよ…」

 レイリーは言った。

 皆んな黙って俯いた。

 レイリーが手をクルリと回転させると、皆んなの周りにけっかいが張られ見送りに来ていた者達の前で光り輝く風がそれぞれの組織の統括者達…守護の騎士達を包んでいった。

 レイリーが掬い上げる様に腕を上げながら何か呟くと周りの景色が揺らいだ。その横顔をリューイは黙って見つめていた。一瞬後 風が吹き上げ周りの風景を閉ざした。

 再び一同の前に見えた風景は森の中だった。そしてその足下には聖なる刻印が光っていた。その光が消えると共に一同を包んでいた風も‥結界も消えていった。

 「着いたわ。」

 レイリーが言った。周りを見回すと其処は対角線上の四つの石に囲まれた場所の中心だった。

 「あの石は?」

キースが聞いた。

 「《聖風石》だ。その昔 力のある聖女がその力をあの四つの石に封じ込めこの場所を作ったと言われている。今は聖なる力のある者がその力を伸ばす為 此処で学ぶ‥後ろに続く建物がその者達の学舎であり住居だ」

 ケインが答えた。

 「どうやら皆んな出ている様ね。此処は聖なる森 王城のすぐ近くよ。行きましょう。」

 レイリーが言った。

 その場所を後にし道を駆け抜けると大きく拓けた場所に出るという。

 その場所に近づくにつれ人の騒めきが聞こえて来た。

 「誰か来る…」

 「魔の者か…」

 「いいえ違うわ‥此処は聖なる森。魔の者が入れないのは皆んな知っているでしょう」

 「それにあの方向は《聖風石》からの道よ…」

 レイリー達がその姿を見せた時、人々の騒めきがその場所を支配した。

 「城都の街の人々だわ。」

 レイリー達はその人々を既に察知していた。

 レイリーは知っている女性の顔をその人々の中に見つけた。

 駆け寄ると声をかけた。

 「メリッサ無事だったのね‥良かった。」

 その女性は驚いたようにレイリーを見た。そのまま顔をじっと見つめると弾ける様に叫んだ。

 「レイリー様だ!本当にレイリー様だ!」

 「何だってレイリー様だって‥」

 「本当だ‥レイリー様だ…ケイン様もいらっしゃる。」

 人々の口からレイリーとケインの名が次々と伝わる

 「《守護の騎士》だ《守護の騎士》が我々の為においで下さったんだ。」

 それを驚いた様に見ていた聖なる使い人の所へ前にいる統率者から声が届いた。勿論その者の頭の中へ直接…

 「どうした…後方から人々の歓喜の気が伝わってくるが…」

 「はい《守護の騎士》がおいでになったと‥レイリー様が来られたと‥」

 「何 レイリー様が来られたと言うのか。」

 「はい人々はそう言っております。私はお顔を知らないので確認できません。」

 「分かった。すぐそちらに行こう。」

 統率者は近くにいた者にその場を頼むと後方へ走り去った。

 後方へ近づくにつれリーンという鈴の音のような軽やかな音が頭の中に響き溢れる様な光が拡がっていく。そしてその中心にレイリーとその仲間達《守護の騎士》がいた。

 「レイリー様…」

 彼は呼んだ。人々の歓喜の渦中にいるその人を…

 レイリーは呼ばれた方を見るとニッコリと微笑んだ。

 「スワット あなたが此処の統率者ね。」

 「はい!」

 スワットは答えた。レイリーはスワットの側に行くと言った。

 「あなたがいるなら此処は安心ね。でも負担も大きいわね。いいわ あなた達の負担を少し肩代わりしていくわ。」

 レイリーは言った。

「キース 皆んなが恐怖に打ち勝てるように勇気の力を…ユーゴ この森の隅々まで安全が確保出来る様に護衛の力を‥ライザ 皆んなの気持ちがギスギスしない様に安らぎの風を‥ケイン」

 「分かってる 森の平和が崩されない様に守護の力だろ‥」

 「ええ そしてあたしは皆んなの心と体の傷が痛まない様 癒しの風を‥」

 「俺はこの土地の聖なる力の継続と新たな復活を…」

 リューイは言った。

 人々はレイリー達がそれぞれの力を使った時、森の緑が鮮やかになった様な気がした。

 「これは少し所の肩代わりではないではありませんか。本当の助かります。これで人々を護る事だけに集中出来る。有難うございます。」 

 スワットが言った。

 「あたし達はこのまま街で戦っている人達の所と王城へ行くわ。此処はお願いするわね。」

 「はい 確かにお引き受け致します。」

 レイリーは頷くと森の入り口へ急いだ。


 









評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ