結集ー最後の騎士ー
やがてサミエルからそれぞれのパレスの鍵が渡され、それぞれのリーダーと共に拠点となるそのパレスへ入った。少ししてリーダー達は再び集まった。
「後はリューイの行方を探すだけだな。」
「あたし達が此処で出会ったという事は、リューイはおそらくあそこにいるわ‥」
レイリーが呟くように言った。
「おい レイリーわかるのか…?」
キースが言った。
「ええ 何となくね…あたしの中で全ての条件が符合したの。ついてきて…」
レイリーが言った。
「大丈夫か…レイリー」
ユーゴが言った。
「彼女が言うなら間違い無いぜ。」
ケインが言った。
「レイリーについて行きましょう。」
ライザが言った。
「どういう事だ…」
ユーゴが言った。
「レイリーにはそういう力があるのよ。再会した時にはわたしも驚いたわ…そしてかなり確実‥」
ライザが言った。
その言葉に促される様にキースとユーゴは歩きだした。
レイリーは皆んなの先頭でホテルに入った。
ホテルに入ると言った。
「あそこに リューイの側近がいるわ…」
そう言ってフロントの方を見た。
「リューイの側近にしては、若過ぎるか歳がいきすぎていないか…」
キースが言った。
「あの フロントにいる支配人‥あれはテリーよ」
レイリーは言った。
「ウソでしょ。テリーってもっと若いわよ。」
ライザが言った。
「確か テリーって変装が得意だったな。」
ケインが言った。
「確かめてみましょうか。」
レイリーは支配人の側まで行くと話しかける。
「支配人 ちょっとお聞きしたいのですがいいでしょうか?」
「はい。どうぞ…」
「オーナーは リューイは何処にいるのかしら…あなたなら案内して頂けるわよね…テリアット・パドリー」
レイリーは言った。
「私はそういう者では…」
「あたし 全て思い出したわ。あたしにはあなたの変装は通じない‥それはあなたが一番知っているわね。」
「本当に思い出したのなら、私に聞かずともわかるはずですよね」
テリーは言った。
「ええ 勝手に入ってしまっていいのかしら…」
レイリーは聞いた。
「どうぞ…構いません。」
「ではそうさせて頂きます。」
レイリーは言うとフロントの側のホールの一角にあるドアの前に立つとドアノブに手をかけた。
それを見た従業員が慌てて声をかけようとした時、ふいにドアの前にいた人達が見えなくなった。
従業員の後ろからテリーが声をかける。
「彼女達はいいんだ…特に今 ドアを開けた彼女はオーナーの奥方になるべくして目覚めた方だ。そしてそれはあの方のレイリー様の真なる目覚めに繋がる…」
テリーは言った。
「それでは戦いは…」
従業員が言った。
「彼女が目覚めないのを前提として考えていたからな‥彼女が全てを思い出した今 今度の戦いは我々にとってかなり有利になる…彼女はそういう力を持った人だ。」
レイリー達が階段を登り切るとそこは壁になっていた。
レイリーはその壁に手を翳す。壁は白く輝くと開いた。中に入ると壁は締まり灯りが点く。そこは大人数を収容できる広さをもつ大きなホールになっていた。
「此処は仲間全員が集まれるようになっているわ。其々のパレスから地下を通って直接此処に来られるようになっているの‥」
レイリーは言った。
その広間を横切りレイリーは向かい側のドアに向かった。そのドアを開くと長く続いた廊下と幾つものドアがあった。レイリーは躊躇いもせずひとつのドアの前に立つと此処にリューイがいると合図をした。ドアをノックすると
「どうぞ…」
声が返ってきた。レイリーはドア開けると皆んなを先に入れ自分は一番後から入った。
「リューイ!」
皆んなが口々に彼を呼び奥へ走り寄った。
リューイは入ってきた仲間達を見て立ち上がって迎えた。
「元気だったか」
「ああ もちろんだ。」
キースが言った。
「お前 変わらないな…」
ユーゴが言った。
「相変わらずのようだな。」
ケインが言った。
「お久しぶり」
ライザが言った。
「皆んなにまた会えて嬉しいよ…よく此処が分かったな。テリーが案内したのか?」
リューイは言った。
「違う…彼女が‥レイリーが此処まで連れてきてくれた。」
ユーゴが言った。
「レイリーが…」
リューイは言った。その言葉と同時に皆んなが振り返った。
ドアの前にレイリーは黙って立っていた。そしてリューイの方へ歩きだした。
「レイリー」
「リューイ…あたし全て思い出したわ。」
「まさか‥どうして…」
「此処の場所があたしに記憶を返してくれたの‥次の戦いがくる事をあなたはわかっていた筈よね‥なのにあたしの記憶だけ封じた…次の戦い これから始まろうとしている戦いにあたしという存在は必要ないと判断した。あたしはそれだけ足手まといだったって事でしょう…リューイ」
「どういう事…」
ライザが言った。
「あたしは全てを思い出したと言ったわよね。」
その言葉にライザが頷く。
「リューイがあたしの記憶を封じるその時まで鮮明に思い出したの。彼のその時の言葉までね‥リューイは言ったの『君はもうこの戦いに必要ない…戦いに関する全ての記憶と戦いにおいての俺達の記憶を全てを忘れて君の存在を必要としている人達の為に俺達とは‥俺とは離れて別の道を歩くんだ。それが俺の望む事であり君の生きるべき道なんだ』って…それはあたしの存在はリューイには必要ない。だから離れてくれって‥これ以上関わりたくない‥ってそういう事でしょ…答えて‥リューイ…」
「…ああ そうだよ。あれ以上面倒は見切れなかったからな…次の戦いでもあんなんじゃ俺達の足を引っ張るだけだからな…」
リューイは答えた。
「やっぱり…あたしを守るふりをして‥あたしを愛するふりをして…あたしがあなたにとって邪魔な動きをしない様に仕向けていたという事よね…」
レイリーはリューイの瞳を真っ直ぐに見る。
「それは違う…リューイは本当に君を…」
ユーゴが言った。その言葉を遮るようにレイリーは言った。
「ありがとうユーゴ…あたしを気遣ってくれて‥でもねそんな事誰が信じられると思う?あたしを必要としない人が‥あたしを邪魔に思っている人がどうしてそのあたしを愛する事が出来るの。そうでしょ…リューイもたいした演技力よね…感服するわ。あなたはあたしを仲間にしたくないでしょうけれど、今回の戦いも参加させて頂くわ…皆んなが感じている事だからあなたも感じている筈よね。あたしが前のあたしと違うという事を‥」
レイリーは俯いた。
確かにそうなのだ。あたしとあたしの仲間達が今度の戦いにどうしても必要なのだ。だからあたしの封じられていた記憶は解放された。そして今あたしが分かる事それは…
「あたしはあなたの為に戦うわけじゃない!あたしは多くの人達を守護する為に戦うの…そして忘れないで‥あたしは邪黒魔の者達をその中心に居る邪黒の魔道士グラッドを消し去る者であり『人々を守護する者』だという事を…あたしはこれで失礼させて頂くわ。」
リューイを正面から見据えそう言うと踵を返して去って行った。
少しの沈黙の後キースが言う。
「本当に今のがあの一人では何も出来なくて、不安そうにしていて俺達を頼りきっていたレイリーなのか…」
「そうだ…彼女は自分の歩くべき道を見極めたのさ。」
ケインが言った。
「今のレイリーを見れば彼女が《風のリー》だという事が納得できるな…」
ユーゴが言った。
「何だってレイリーが《風のリー》なのか…」
リューイは言った。
「そうだ。彼女が美麗なる伝説の《風のリー》だ…」
キースが答えた。
「そうか‥彼女が…」
リューイの声は明るかった。
その言葉に被せるように今まで下を向いていたライザが顔を上げながら言う。
「だから何だって言うの…レイリーが《風のリー》だったら愛すると言うの‥リューイあなた酷すぎるわ‼︎あんなにあなたを純粋に愛していたレイリーなのに‥騙していたっていうの。」
「やめるんだ。ライザ。」
キースが止めた。
「いいえ‥やめないわ。レイリーがあなたを愛して行く様はあなたにとってさぞゾクゾクして面白かったでしょうね‥男として自慢話の一つにでもするつもりだったの…レイリーの心を持て遊んで傷つけてそれで『守護する者』ですって笑わせないで…」
「やめろ‥ライザ‥やめるんだ…」
キースは大声を上げた。
「キース」
ライザはキースを見た。
「男には男の立場というものがあるんだ。俺もリューイと同じだ。出来れば君を仲間に入れたくない。」
「そうあなたもわたしを騙していたの…だから戦いが終わった後 連絡するのはわたしばかりであなたからの連絡は無かったのね。迷惑なら迷惑とはっきり言ってくれた方がどんなに良かったか…」
「違うんだ。そうじゃないんだライザ」
キースは自分の気持ちをライザに伝えた。自分は危険だと分かっている所へライザを連れて行きたくないと‥安全な場所にいてもらいたいと…自分との関わりを断つ事で今度の戦いに君を引き入れなくて済むのならと思って自分からの連絡を一斎しなかったと…
「俺の気持ちは、あの頃と少しも変わっていない‥」
「キース…わたしはただ安全な場所であなたを待っているなんて事は出来ない」
ライザも自分の気持ちを伝える。女性は本当は愛する人に何時も側にいて貰いたいと‥少しでも長く一緒にいたいってそう思っている事を…
「でも何の術も無いから、その人の身を案じて我慢して待ってるの‥でもわたしは『守護する者』として育てられてきたわ。だからそれに相応しい術も持っている。それならわたしは‥危険があるというなら尚更あなたと少しでも長くいたい。あなたの側にいたいの…」
「分かった…一緒に戦おう。ライザ リューイも同じなんだよ。前の戦いでレイリーを辛い思いをさせてしまった。男にとって愛する女性が目の前で他の男に無理矢理奪われていく。それは心を貫かれる程辛い事なんだよ…慟哭の苦しみと言ってもいいだろう。そんな目に遭わせてしまった女性をどうしてまた戦いに引き込む事ができる…」
キースは言った。
「リューイ‥あなた…」
ライザはリューイを見る。
「俺はレイリーを守ってやる事が出来なかった。あんなに俺を頼りにしてくれていたのに‥俺は守る事が出来なかったんだ!」
リューイはその思いを口にした。二度とレイリーをあんな目に遭わせたくないと‥できるだけ戦いから離れた所で、レイリーに合った生活をしてもらいたいと思ったのだと‥レイリーが幸福でいる‥それが自分の幸福でもあったのだと‥自分を忘れてもいい レイリーが安全な場所にいる事が出来るのなら…そう思って自分はレイリーの戦いに関しての俺達に関しての記憶を封じたんだと…
「俺はあいつを愛しているからこそあいつの無事を守りたかったんだ。それなのに 今 この時になって記憶を取り戻すなんて…俺は一体何の為にあいつの記憶を封じたというんだ。こんな事になるのなら俺はあのままあいつの側にいてあいつを守り続けたかった。」
「リューイそれは違うわ。おそらくあの頃のままのレイリーだったらグラッドに仲間の前で‥愛する人の前で全てを奪われたという事実を乗り越える事は出来なかったわ…精神的にも深く傷つきボロボロになっていたと思うわ。今のレイリーだからこそその事実を受け止め乗り越える事ができたのよ。レイリーもあの頃からわたしと同じ思いを抱いていた筈よ…危険な事なら尚更少しでも長くリューイと一緒に居たいって…だから彼女はその為に学んでいたし努力もしていた…ただ彼女が目覚める前に前の戦いが始まってしまった。」
ライザは言った。
「そうだろうな…『守護する者』としてそれに相応しい術を学ぶように俺達は育てられてきたが、レイリーの場合は違った。その古くからの家柄のせいもあるだろうが、女性が自分を守る術を習う事さえ一族の者達が反対していたと聞いている。それでもご両親はその力だけでも伸ばさせようと内緒でレイリーに学ばせたそうだ‥そして戦いは始まりあの忌まわしい時がきてリューイはレイリーの記憶を封じた。しかしレイリーの心の中に自分を守る術を学びたいという気持ちは残っていた。だから彼女は誰にも内緒であらゆる武術を習得していった。そして彼女は生まれ変わり今 完全に目覚めている。リューイ‥君は彼女が生まれ変わる為に完全に目覚めさせる為に彼女の記憶を封じたんだよ。」
それまで黙っていたケインが言った。
「彼女はあの頃の彼女じゃない…あらゆる武術を習得する事によって精神的にもかなりの強さを持っている。そして力もあの頃と比べものにならない程 強くなっている。その力を自在に操るのよ‥彼女は…その事はわたしもケインも証明する事が出来るわ。そして彼女が多くの人達を守りたいと思っている事もね」
ライザが言った。
「そうか‥そんなに変わったのか…俺の感じたあの圧迫感と大きなやすらぎはそこからきているのか。」
リューイは言うとどこか遠くを見つめていた。
その夜 リューイは自分の仲間達と拠点へ行き、それぞれの仲間と硬い結束を誓い全てが此処に結集した。。