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凡夫道中  作者: カルギウス
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4/6

結果

一刀両断って

 最低限の応急処置を終えた僕らは焚き火を囲むように座った。

 ルーゼは今日1日すごく移動したので疲れて寝てしまっている。アルマはあれだけ出血していたのだが、血を止めるや否や周囲の警戒をし始めた。


「アルマ、少し休め

 見張は僕が変わるから」

「いえ、私は大丈夫ですので

 ヴィルヘルム様の方こそお休みください、先程から腕の感覚がないのでしょう?」

「……そうだけど」

 言わないようにしていたのに、アルマにはバレてしまったようだ。

 折れただけだと思っていた僕の右腕は傷口が真っ青になり、痛みすら訴えてこなくなってしまった。

 あの戦闘で全く僕は役に立たなかった。

 屋敷の奴らが強いだけだと思っていた。外に出れば僕は、やれる方なのではないかと。

 幼いとはいえ剣聖と模擬戦をしていたり、国で最も強いと謳われる道場に所属していたんだ。

 少しはやれると思ってた。

 結果はただ何もできず、突っ立ってることしかできなかった。

 夢見た冒険の一ページ目の主人公みたいなことなんて、できるはずもなかった。


「アルマ、見張くらい僕にやらせてくれ

 そんな状態で活動し続けてしまったら倒れてしまう」

「……わかりました。

 それでは少し、お願いします」

 この時が、アルマが屋敷を出てから初めて休息を取った時だった。


 パチパチと、木が弾ける音だけが夜の静寂に響き渡っている。

 見張を初めて、二時間ほど経っただろうか。

 僕の体力も限界に近づいていた。瞼が重く、身体中が痛い。

 体の穴という穴から変な汗が出てきている。

 折れた腕を放置したからか、熱が出てきた。

 満身創痍、今魔物に襲われれば抵抗もできないのだろうな。


「ヴィルヘルム様、代わります。

 私は十分休めましたので」

「あ、あぁ。助かる」

 アルマは大丈夫なのか、そんな心配できる余裕もなくその場に倒れ込むように僕は眠りについた。

 夢を見ていた気がする。

 僕らの旅は順調だった。

 予定通り村につき、馬車を買い、国境を越えた。

 国境を越える時はヒヤヒヤしたがここは傭兵の国、深く聞かれることはなかった。

 そこでは久しぶりのちゃんとしたベットで寝れて最初の三日くらいはダラダラと過ごした。

 各々が各々のやりたいことをやれた。

 3人でご飯を食べて、3人で川の字になって寝て、そして僕とアルマは冒険者になってお金を稼いで、そうやって細々と生きていく。

 そんな、幸せな夢を、見ていた気がする。

 これからこんな人生を送るのだと、そう決心して屋敷を出た。

 僕らは幸せになれる。そう信じて二人を巻き込んだ。

 目が覚めればルーゼがいて、傷ついたアルマがいて、もう少しの辛抱で村に到着する。もう少しだけ頑張ろう。あと、少しだから。

 きっとこの先には、夢のような生活が待っているから。


「ルーゼ、はまだ寝てるのか」

 よく寝る子だ。

 まあ仕方ないだろう。今日だけで初めてのことがたくさん起こったたんだ。ルーゼには酷だったろう。

 可哀想だがそろそろ起きてもらうことにしよう。

 夜明け前でまだ暗く、周りが見えていない時に出発してきたい。


「ルーゼ、ルーゼ、そろそろ起きろ」

 熟睡しているのか反応がない。

 さらに可哀想になって心が痛くなったが起きてもらうしかない。ルーゼを担ぎながら移動できるほどの体力がないのだから。

 直接肩に触ってルーゼを起こす。


「・・・」

 沈黙がこの場を支配する。

 ルーゼの体は冷えていてとても冷たかった。そういえば焚き火の火が消えてしまっていたな。寒い思いもさせてしまっていたみたいだ。


「ルーゼ、もう行くぞ?」

 少し強引に体を引っ張る。が何かに引っかかったのか途中で止まった。

 ……ポタ……ポタ

 水が水面に落ちる音、暗闇に少しづつ目が慣れた頃、辺りには真っ赤な水たまりができていることに気付いた。


「ルーゼ?」

 ルーゼの目はとっくに空いていた。濁った目でどちらの瞳も違う方向を見ていた。

 呼吸をしていなかった。

 いや、できなくなってしまっていた。

 小さな体の小さな胸には自分の体の二倍もありそうな剣が杭のように突き刺さっていた。


「ルー……ゼ?」

 状況を把握した、はずなのに状況が飲み込めない。

 これは、何が起こったんだ?

 体温も呼吸もないルーゼの胸に突き刺さった剣、ルーゼを中心に真っ赤な水たまりが広がっている。


「……う、そ、だ……いやだ……いやだいやだいやだ……!」

「誰がこんな!返せよ……返せよ、ルーゼをッ……!」

「あああああああああああああああッ!!」


「おーこいつはいい絵ができたぁ」

「死んだ妹に縋り付く兄……くくっ、これは芸術だぁな」


 突然響いた男の声。

 あまりにも場違いで、あまりにも不愉快で――それでも、確実に現実だった。


 今この場に、アルマ以外の“誰か”がいる。

 ならば、そいつの正体はただ一つ――刺した“敵”だ。


「うわぁああああああ!!」


 視界が歪む。頭が真っ白になる。

 それでも、反射的に腰の銀剣を引き抜いた。

 怒りも、憎しみも、悲しみも、すべてを力に変えて――振る。


 ただ、振る。

 見えなくても、届かなくても。

 何かを斬り裂かずにはいられなかった。


「ゲハッ!」


 ――背後。

 突き刺さるような衝撃。空気が抜ける音。

 次の瞬間、地面に叩きつけられていた。


 呼吸ができない。視界が揺れる。

 だが、それでも――殺意だけは、消えなかった。


「お前ぇお前がやったのかぁ!!」


「御名答、もちろん俺っちがやったぜぇ」

「俺っちながらいい絵が描けたと思うぜぇ、芸術だなぁ」


「クソが、クソ野郎がぁあああああ」

 立てない、立ってこいつを僕は殺さなきゃいけないのに!


「いい絵だ芸術だぁ、妹を思う兄の憎悪の炎!!

 すばらしぃッッッ」

 こいつを、こいつを殺す!僕の命に変えてもこいつを殺す!!


「あーっと、そうだそうだ、二作目」

 軽薄な声が空気を切り裂いた。


「ヴィルヘルム様!」

「アルマ!? 来ちゃだめだ!!」


 闇の中から飛び出してきたアルマの姿が見える。

 その顔は鋭く、刀に手をかけ、完全な臨戦体勢――

 でも、違うんだ。アルマじゃ勝てない。僕にも、誰にも、こいつには敵わない。


「首なしの従者、完成っと」


 ――トス。


 何かが放物線を描いて落ちてくる。

 その“何か”が地面を転がって、こちらを向いた。

 その顔は――


「アル……マ?」


 音が、消えた。

 世界から音が消えた。


 アルマの首が、そこにあった。

 目は、僕を見ていた。

 僕を、見たまま、動かない。


 何かが崩れる音がした。

 それが自分の心だったのか、世界だったのか、もうわからない。

 でもわかった。僕の心は、限界だった。


 その後僕はのうのうと生き残った。

 タイミングがいいのか悪いのか僕らを追ってきていた屋敷の連中が辿り着き、二人を殺したやつは逃げていった。

 いや、二人を殺したのは僕なのだろう。

 僕が変な気を起こさなければこんなことに巻き込まれることもなかったのだから。

 僕は全て、自分で台無しにして失った。

 あれ以上を、求めることなどしなければよかったのだ。

 二人がいれば、幸せだった。

 満たされていた。

 なのに、僕は二人を失って心にぽっかり穴が空いた。

 時より吹き込んでくる風が剥き出しの心臓を痛めつける。

 全部自分で、壊したのだ。


「これが、結果だ」

「お前がなそうとしたものはちっぽけで、くだらなくて、何の野望もなかったのだろう」

「それに対して支払ったものはあまりにも大きかっただろう」

「これが、結果だ」

「自分で何も成せないものが他人を巻き込むなど、それほど烏滸がましいものはない」

「お前はもう、何もするな」

 当主から僕にかけられた言葉。

 その一つ一つが全て僕が考えていたものだった。

 多くを望んだつもりはなかった。

 その望みで、失っていいものではなかった。


「お兄様、いえ、ヴィルヘルム殿」

「これが力なき物の末路です」

「持たざる者はおとなしく父上のゆうことを聞いていればよかったのです」

「あなたがいなければルーゼは死ななかった」

「残念です、私は二人のこと、大事な兄弟だと思っていました」

 何人かが僕に対して悪口を言いにきたが覚えているのはこの二人の言葉くらいだった。

 別に心に響かなかった。

 ルーゼの葬式は簡単な物だった。とんとん拍子で色々と進みすぐに埋葬された。ルーゼには婚約者がいた。

 だけど死んでしまった今、まずいことになってしまう。だが幸いルーゼは社交の場に一度も出たことないし婚約者とも会ったことはない、ならば替え玉を用意しようという話になったそうだ。

 だからルーゼの葬式はもみ消すように行われた。

 アルマは行方不明ということになっている。ルーゼの死体を回収した時、アルマの姿はどこにも見当たらなかったそうだ。現場には大量の血液と魔石だけが残されていたらしい。

 まあ、二人とも、僕が目の前で死んだのを確認したから間違い無いのだがな。

 目を瞑ったら今も目の前にアルマが虚ろな目で現れる。何かをゆうわけでもなく、ただじーっとこっちを観ている。

 体を無くしのは僕のせいだと、責めるように


 僕は全てを失った。

 ただその結果がだけが僕の心中に残った。

あまりできる物じゃ無いらしいですね


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