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凡夫道中  作者: 底王
1/4

剣聖

部屋を真っ暗にしてセーターを着て暴れ回ってみてください

 聞こえる、周りの声が。


「またやってるよ」

「懲りないねえ」

 期待されていないのなんて、いつも通りのことだ。

 そんなことよりも今は目の前の敵に集中しなければいけない。

 僕の目の前に立っている敵、は言い過ぎか。模擬戦相手は四つ下の今年で九つになる実の妹のエリスだ。

 体格は一回りほど僕の方が大きい。この道場を初めて訪れたものならば止めに入ってくるだろう。


「構え」

 師範の静かな掛け声でざわざわとうるさかった周りが静かになった。

 エリスの雰囲気が変わったからだ。

 先ほどまでと同じ体制ではあるのだが恐ろしいほどの集中力と気迫が溢れ出している。


 口の中の唾を、飲み込む音がした。


「始め」

 開始の合図とともにガードの体制に入る。

 腕に大きな衝撃を受け、なってはいけないような音がなった。


「っっ反撃!」

 悲鳴を上げる腕に鞭打ち剣を振り下ろす。

 が振り下ろした剣は空を切った。


「そこまで」

 気づいた時には試合が終わっていてエリスに背中を取られていたことにやっと気づいた。

 また、負けたのか。


「ま、そうなるよな」

「相手が剣聖様だし、そもそもヴィルヘルム様じゃあね」

「この道場で一番弱いやつが世界で一番の剣聖様に挑んでもなぁ」

 剣聖、一年前八つだったエリスは数多の剣豪がいる中でその小さな身一つで自分よりも二倍も三倍も大きな大人達をバッタバッタと薙ぎ倒し剣聖の称号を授かった。

 生まれた時から剣神の寵愛をその身に受け、成長を重ねるごとに剣の腕が上達していく。この歳でまだ二度しか負けたことがない。

 文字通り無双しているのだ。


「に、兄様その腕大丈夫ですか?」

「はぁー」

 これまたヒビ入ってるのかなぁ。

 幾重にも巻かれた包帯には少し血が滲んでいた。また取り替えないといけないな。

 戻ろう。

 今日の稽古も厳しかったな。あの道場で一番弱いのは僕、それに僕の家の道場なんだから弱いと色々と都合が悪いこともあるからな。厳しくなるのも無理はないのかもしれない。

 別に稽古は嫌いなわけじゃないし、強くなりたいとも思ってるから今はまだ、耐えられる。


「アルマ、包帯変えてくれ」

「・・・ヴィルヘルム様、いい加減あのゴリラの一撃を受け止めるのやめて下さい

 一々包帯を変えるの、とてもとても面倒くさいです」

 お前が言うか、と心の中で突っ込んでおこう。

 アルマも大概だ。僕の近くにいる女どもは暴力的でゴリラ的な奴らしかいないかもな。


「何か、失礼なこと考えてらっしゃいますよね」

「気のせいだろ」

 消毒しみしみで痛みに悶えながらも包帯を新しいのに変え終えた。

 今日は腕がもうぼうだ。上がらねえ。


「ヴィルヘルム様、お時間ですよ?」

「・・・疲れてるんだ」

 もう嫌だ、このまま寝たい。腕が痛い、立ちたくない。


「ヴィルヘルム様、サボる気ですか?」

「・・・」

 こうなればもう、狸寝入りだ。アルマが折れることがこれまでに一度もなかったが今日ならいける、そんな気がする。


「では、このままいきましょうか」

 ふわっと体が浮いた。

 肩にバッグをかけるような感じで僕を抱えた。どうせ、こうなるとは思ってたよ。


「それでは始めましょうか、継続は力なり

 チリも積もれば山となるですよ」

 はいはい、どうせ僕の努力はチリ以下ですよ。


「変なこと考えてないで早くやって下さい」

「へいへい」

 森の中、巨石の上で座禅を組む。

 魔力を感じるための特訓だ。始めてもう九年位になるだろうか、未だにその感覚をつかめていない。

 遅い人でも5年くらいで魔力の感覚というか流れというかそういったものを掴めるらしいんだが僕は九年やってもそれがわからない。

 色々と試してはいる。一度だけ掴みかけて雷を発生させたことがる。静電気程度のものだったが。

 本当に静電気だったのかもしれないが。

 魔術は使えるはずなんだ。きっと

 だから今もこうして自然の中で集中している。

 ごちゃごちゃと考えている時点であまり集中していないのかもしれないが、集中している。多分。

 その内に、寝てしまったようだ。



「おはようございます、ヴィルヘルム様」

「あ、おはようアルマ

 今日もいい天気だね」

「本日は豪雨でございます、ヴィルヘルム様」

 いい天気じゃん。

 朝食を終え、書庫へ向かう。今日は稽古のない日だし雨で外に出る気も起きないからな。たまには書庫に行ってやろう。

 無駄に重い扉を開けて中に入れば本が山積みにされてあり城壁が築かれていた。


「相変わらず、ずっと本読んでるのか?

 ルーゼ」

「ヴィル兄さま!?

 い、いらっしゃるなら言ってくださればよかったのに!!」

 言っても言わなくてもお前は本読んでるだけだろ。

 ボサボサの何日も解かれていない髪の毛、この前顔を合わせた時と同じドレス。三日位書庫に居続けてたな、こいつ。


「本が好きなのもわかるが少しは外で遊んだりしたらどうなんだ?

 それに風呂は毎日入れてもらえ」

「お外もお風呂も嫌いです

 でも、ヴィル兄さまが一緒ならいきます」

「はぁ、しょうがないやつだな

 アルマ、風呂の用意をしてくれ」

 ルーゼは甘えん坊の僕の妹だ。

 生まれつき体が弱く、病気がちで小さな頃からずっと本を読んでいた。まあまだ年齢的にも物理的にも小さいが。

 最近になって体の調子が良くなってきたのか自ら書庫に足を踏み入れるようになったみたいだが一度入るとなかなか出て来ず、使用人を困らせているそうだ。

 だからたまに僕が書庫を訪ねてこうやって風呂に入れたり、生存確認をしている。


「くすぐったいです、兄さま」

「文句があるなら自分で洗え」

「いやーです」

 無駄に広い浴槽にしっかりと浸かり温まってから風呂を出る。


「ほら、乾かすぞ

 せっかく綺麗な髪の毛してんだから、大事にしろよ」

「きゃ 兄様に褒められた」

 ルーゼの髪の毛は母さんと同じ銀色。綺麗な、銀色だ。

 櫛で解いてやっているとうとうとし始めてそのままパタリと寝てしまった。

 どうせ昨日も遅くまで読書に耽っていたのだろう。また熱を出しそうなことするな、こいつは。


「アルマ、部屋まで頼む」

「お任せ下さい」

 さてま、僕は書庫に戻りますかね。

 書庫に行ったのには目的が二つあった。一つはすでに完了したがもう一つの目的がまだ全く手付かずだ。

 勉強しなけれいけない。

 十五歳になったら学校を受験して受からなければいけない。

 僕は一応、貴族の生まれだから王立学園に優先的に入学することができるとはいえ難易度はかなり高い。

 実技で得点を見込めない僕は勉強をして座学で得点を多めに取らなければ簡単に落とされてしまうだろう。

 だからこういう稽古のな日とかを使って勉強をする。

 途中アルマが昼飯とおやつを持ってきてくれた。ついでに算術を教えてもらったのだが、持ってきたおやつを自分で全部食べて行きやがった。


「もう、こんな時間か」

 伸びをして外を見れば五番月と三番月が空に上がって光を発していた。

 もう一年が、終わろうとしている。来年は忙しくなるだろうな。

 色々と、あるだろうしな。



 ーーーー


 金属と金属が衝突する音が頭の中で響いている。

 多分肋とか歯とか腕とか色々と、折れてるんだろうな。全身が痛い。

 これまでもずっと手も足も出なかったけどあれはまだほんの僅かな力しか使っていないお遊び程度のものだったんだろうな。

 長年愛用していた木剣は芯から見事に砕けてしまっていた。

 見物していた人たちが慌ただしく動いている。

 一応僕もヴァイド家の男児だからなぁ死ぬのはまずい、よなぁ。


「ヴィルヘルム様!

 しっかりして下さい!」

 アルマの声が聞こえる。

 体の痛みが落ちかけてる意識を拾い上げ続ける。


「心配するな、アルマ

 僕は大丈夫だ」

 剣聖、か。

 神に愛された人間は格が違うな。多分エリスは、怒ったんだろうな。

 僕も大人気がない。妹にお母様を殺したのはお前だ、と言い放ったのだから。

 別に事実を述べただけだ。

 エリスが『お兄様はなぜ、私を無視するのですか。私のことが嫌いなのですか?』なんてこと聞いてきやがったから僕も言ってやったんだ。別に嘘も何もついていない本当のことだ。

 なのにそれに怒ったのか僕のことを本気で殺しにかかったのかもな。

 でもこれはみんな思ってたことで本人も周りの雰囲気でやんわりそうゆうことだとは知っていたのかもな。

 これでしっかりとわかっただろう。立ち会った僕が直接言ってやったのだから。


「ヴィルヘルム様、流石にあんなこと言うのはよろしくありませんよ」

 アルマが涙目で説教をしてくる。こんな時にも説教、別にいいじゃないか。あいつのせいでルーゼはよその家に、嫁がされることになったんだから。

 僕たちの母はもともと第四婦人だったからヴァイドの家での地位は一番下だった。だが母が当主に気に入られていたから養子に出されるだとかの話はなかったし、それなりにいい待遇をしてもらっていた。

 だが母を亡くした今僕たちを守ってくれるものは何もない。

 ルーゼは生まれつき体がとても弱かった。それにずっと病気がちだったため政治的な力を少しでも広げるための道具として18も上の貴族に嫁がされる。

 さらにその貴族は黒い噂が絶えない。今までに嫁いできた49人の嫁も不審な死を遂げて今では5人ほどしかいないらしい。

 そんなとこに行ってしまえばルーゼなんか簡単に殺されてしまう。

 全部、エリスのせいだ。

 あいつが神に愛されなければこんなことにはならなかった。

 お母様を失うことも、ルーゼをこれから失うことになることにもならなかったんだ。


「そんなことを考えても、僕にはどうにもできないか」

 どうしたいのか。どうにかしたいのか、そんなこともわからない。

 ただ憤りを覚えて妹を糾弾する。結局そんなことをしたところでこれまでが変わることもないしこれからが変わることもない。

 ただ敷かれたレールの上の歩いていくしか、僕たちには選択肢がない。

 考えるだけ、無駄か。


 何もできない僕にも人より優れているものがある。

 それは肉体の傷の治りの速さだ。あれほど大きな怪我をしていても三日も経てばまだ痛みは残っているものの多少動けるようになる。

 折れた骨もあらかた復活しているだろうな。

 だがまあ、まだ剣術の稽古ができるほど万全なわけじゃないので書庫に行った。

 書庫の真ん中では山積みの本の真ん中に毛布を被せられたルーゼがくるまって寝ていた。


「ほんと、ずっと書庫にいるな」

 本の虫、ってやつなのだろう。山積みの本は全て勇者の冒険譚や英雄の伝説、貴族の恋愛を描いた架空の物語などがたくさんあった。

 ルーゼもこの貴族令嬢のように悪い貴族に嫁がされそうになったときに王子様に助けに来てほしいとか、当てのない冒険をしたいだとか、そういう願望はあるんだろうか。


「ん〜、兄しゃま〜」

「あーあ、涎垂らしちゃってるよ」

 ハンカチで拭ってルーゼを抱える。多分使用人は書庫で本を読んでいるルーゼ体が冷えぬように毛布を持ってきてあげたのだろうがルーゼは毛布の暖かさに負け、そのまま寝てしまったのだろう。

 あんまりここ人が出入りしないからな、毛布をかけてもらえただけありがたいか。


「アルマ、頼んだ」

「かしこまりました」

 さて、僕は勉強しますかね。

 今日は魔術についてのおさらいだ。理解を深めることで何か感覚を掴めるかもしれない。

 基礎的な話からやっていこう。

 魔術、を使うにはまず魔力が必要だ。魔術と似たようなものに魔法というものがある。

 魔術と魔法の違いは魔術が自身の中に存在する魔力に変化を加えて炎やら風やらを発生させる。詠唱を必要とするものと簡易的なものがあるのだがまずどこかの属性の適性を持っていないと使うことはできない。だが魔法よりは適性がある人が多いし貴族とかの生まれの人たちは大体使うことができる。

 そして魔法は空気中の魔力に干渉して変化を加えて炎やら風やらを発生させる。魔術と違う点は自身の魔力を消費しないため理論的には無限に使用することができる。

 が、魔法を使うのにも体力はかなり消耗するから使いすぎるとばててしまう。

 魔術を使う人よりは断然多くの魔力を行使することができるが限界は存在する。それに魔法を使える人はかなり限られている。王族や位の高い貴族、ごく稀に平民にもいるらしいがそもそも魔法使える人間の数が少ないから何年かに一回とかの出来事だ。

 ヴァイド家で僕の兄弟たちはすでに3人魔法を使うことができる。

 位の高い貴族どうしの血筋だと魔法を使える子供が生まれてくる確率も高いらしい。お兄様たちやお姉様たちは政略結婚の末できた子供たちだからいい血筋を持っている。

 僕もいい血筋ではあるはずなのだが、魔法を使える気配は一切ない。

 それどころかまだ魔力の感覚も掴めていない。つくづく思い知らされる、自分の才能の無さに。

 周りの才能の多さに、絶望する。

 普段見ないようにしていたものがどうやってもこの時は見てしまう。

 だから、僕は勉強も嫌いだ。

 可能ならば勉強なんて無縁な世界で生きていたかった。

 ルーゼは僕が、守らなきゃな。


「ヴィルヘルム様、お夕飯です」

「あ、すまないアルマ

 もうそんな時間だったか」

 空には半分にかけた三番づきと五番月が光を発している。


「ヴィル兄さま」

「ん?

 ルーゼ、起きたのか」

 さっきアルマに連れてかれててっきりもう寝てしまったかと思っていたが、なんだろう両手を後ろに隠してもじもじしている。


「どうした、ルーゼ」

「大丈夫ですよルーゼ様

 ヴィルヘルム様はとってもお喜びになると思います」

 あー、そういうことか。

 そういえば今日は、僕の誕生日か。


「兄さま!

 お誕生日おめでとうございます!!」

 小さな両手で持っていたのは不器用にラッピングされている小包だった。

 アルマと一緒に一生懸命作ったんだろう。お兄様、泣きそう。


「ありがとう、ルーゼ

 とても嬉しいよ」

 僕の言葉を聞いたルーゼは笑顔になり、ぴょんぴょん飛び跳ねてどこかへ行ってしまった。

 可愛いやつだな。


「ありがとうアルマ、ルーゼに付き合ってくれて」

「とんでもございません

 それと、私からもつまらないものではありますが」

 とポケットの中から不器用にラッピングされた少し大きめの箱を渡してくれた。

 あー、アルマが不器用なのね。


「ありがとう、アルマ

 アルマがきてもう8年になるか」

「そうですね、そのくらいになります」

 本当、時間が経つのは早いものだな。


「これからも、頼む」

「もちろんでございます」

 8年か、


「ここに来たばかりのアルマ、すごかったよな

 ここにいるどの大人よりも掃除も洗濯も料理も上手くやって見せてさ、」

「いえいえ、それほどでもあります」

「先に来てたやつから羽生られていじめられたよな」

「・・・そんなこともあったかもしれません」

「そのいじめっ子たちを腕っぷしで殲滅した時は僕も流石にビビったよ」

「・・・。」

「なんでもできるやつ、それがアルマに対するイメージだったなぁ」

「お任せください」

「でも、裁縫だけはてんでダメで指が傷だらけになってたよな」

 僕の服のボタンが撮れるたびに次の日には直してくれていたけど、必ず包帯でぐるぐるに巻かれた指で渡してくるんだもんな。


「・・・今はもうなりません」

「そうだろうな

 アルマは、本当は不器用なやつなんだけど

 たくさん練習して、努力してやってきたやつなんだよな」

 きっとたくさん、小さな頃からずっと


「僕の尊敬すべき人間だよ」

「どうしたのですか

 死ぬんですかヴィルヘルム様」

 素直に褒めたらこれだもんな。

 ひねくれたやつだよ、こいつはほんとに。長い間こんな僕に仕えてくれている。

 僕もアルマに恥じぬ人間でありたい。


 ーーーー


「今日からしばらく、魔力を掴むために本腰を入れて修行しようと思う」

「急にどうしたのですか、ヴィルヘル様」

 起き抜けに一発目の言葉にアルマは首を傾げている。

 なんの脈絡もなく突然言い出したんだ、無理もないだろう。


「いや何、僕ももう14だろ?

 来年には受験も控えてる、

 そろそろ本気で魔力の使い方くらいは覚えておかないと流石にまずいと思ってな」

「今更焦っても遅いのでわ」

 突然刺すじゃないかアルマ。


「今のは聞かなかったこととしよう

 そんなことよりもアルマ、修行に付き合え」

「・・・。

 はぁ、やる気になってくれたのならよかったです」

 心底めんどくさそうな顔をしてそんなことを言うなよ。傷つくだろうが


「でも、修行なんて何をするのですか?

 流石にいつもと同じようなやり方ってわけではないですよね」

「考えたんだが

 アルマの魔力は雷と風の適性があったよな」

「あと微力ですが火も扱えます」

 そうなのね。すごーざんすね


「僕は多分、おそらく雷の適性がある」

「あれが本当に魔力で生み出された現象だったのならそうなのでしょうね」

「つまり雷への耐性は少しはあるははずだ」

 個々人の持つ魔力には属性が異なる。水寄りのやつ、火よりのやつ、土寄りのやつだとか色々。

 それは使えるようになってからしかわからない。使えるようになったら自分で自分はこうゆう属性を持っていると知覚する。そしてその属性に対して耐性を持っていたりする。


「もしかしてヴィルヘルム様、私に魔術を使えと?」

「直接魔力に触れればその弾み覚醒するかもしれないだろ!」

「・・・嫌ですよ

 疲れるし」

 うんうん、断られるのは想定内、だからここで切り札を出す。


「最近メイドどもが噂しているチコレートとやら、取り寄せてやろうか」

「んな!?

 ヴィルヘルム様それは卑怯です」

 これでも僕は貴族の息子、頼めば基本手に入らないものはない。

 そして長年の付き合いでアルマは新作のお菓子に目がないこともリサーチ済み。


「どうする、

 やるのか、やらないのか」

「やるに、決まってます」

 勝ったな!


「じゃあ、いきます

 少しでも辛くなったり、違和感を感じた場合はどのような合図でも良いのでお願いします」

「あぁ、頼む」

 アルマが目を閉じ、深呼吸をする。こいつ改めて見ると胸、結構でかいな。


「『(サンダー)』」

「アババババババババ」

 痛い、痛い、痛い!

 胸を見てるのがバレたのか!?

 これは想像以上にハードな内容になりそうだ。




「はぁはぁ

 あと・・・何回・・・やる気ですか・・・ヴィルヘルム・・・さま」

「できるまでに、決まってる!!」

 もう始めて何時間経っただろうか。

 何度もアルマは魔術を使い、僕はそれを受ける。どちらもかなり消耗している。

 アルマもかなり抑えて使っているらしいが流石にばてている。

 これだけ、やってもダメなのか。


「もう、無理ぃ」

 魔力切れのようだ、アルマが地べたに倒れ込んだ。


「終わり、か」

 これだけやっても何も掴めない、わからない。


「これだけ、やっても」

 世界がぐにゃぐにゃと波打つ。

 この感じ、よく知ってる。気絶する前の視界だ。

 随分とまあ、体を張ったものだと自分で自分を褒めてやろう。

 まあ普段サボりにサボってたんだそれを突然やるきをみせてやれるようになるんだったら天才だ。

 天才も努力をするという、それももちろん理解している。だが凡人ほどの努力を要せずに凡人を追い越し、更なる努力で凡人に追いつけない領域まで行ってしまう。

 ましてや凡人以下の僕など到底辿り着くことなど難しい。その上僕は怠惰だ。そりゃあもうどうしようもないだろう。

 まあ、別に追いつこうだとか、追い抜こうだとか、そんな烏滸がましい願望を抱いてなどいない。

 僕は僕が困らない程度に色々とできればいいなと思っている。

 そこそこの幸せ、それが手に入ればそれでいい。それ以上は望まない。

 僕は僕のものを、何一つ失わないで生きていければそれでいい。


「・・・様、ヴィルヘルム様

 起きてください」

「んー

 頭痛い」

 確かアルマに魔術を直接当ててもらって気絶したんだっけか。

 頭は重いのだが体は心なしかかなり軽い。電流マッサージみたいな役割を果たしたのかもな。かなり強めの


「付き合ってくれてありがとう、アルマ

 もういいよ、今日は帰ってゆっくりしよう」

「いえ、その

 ヴィルヘルム様、おめでとうございます」

 おめでとうございます?


「アルマ、冷やかしだったら許さないぞ」

「いえ、冷やかしなどではありません

 私がいつ冗談など口にしましたか?」

 お前結構冗談言うタイプだろ。


「お、本当だ

 なんか光ってる」

 両手両足、その他全ての部位に雷がビリビリしている。雷が薄い膜のようなものを形成している。


「なんでしょう、防御系の魔法でしょうか?」

 そう言ってアルマが雷の膜に触れるとバチっという音がなった。


「・・・。」

「・・・。」

 少しの沈黙の後、アルマが口を開けた。


「少し強めの、静電気ですね」

静電気が光っててとても神秘的ですよ

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