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プロローグ

 今から千年ほど前の話。この村では大変な飢饉がありました。農作物は育たず、山の木々は枯れ、川の水も濁ってしまい、人々は困っていました。特に、畑の荒れっぷりは酷いもので、人ではない何かが踏み荒らしたとしか思えないほど、悲惨な状態でした。人々はこの飢饉を妖のせいにしました。

 このままでは、廃村と化してしまいます。そこで、村民が敬虔している二柱の神に願いました。

 

「神様、どうかこの村をお救いください。」

 

 熱心な願いが届き、妖が封印されると、山は青々とし、川には清流が流れ、豊かな自然が戻ってきました。

 しかし、天候が偏り、農作物だけが一向に育ちませんでした。

 人々は神への供物が足りないのだと思いました。

 しかし、作物が育たなければ、何も供えられません。

 そこで、人々は生贄として、一人の青年を差し出そうとしました。

 青年は口が悪く、目つきも悪かったので、村中から嫌われていました。

 しかし、それだけで生贄には選べません。それに、青年は神など信じておらず、もちろん生贄になるつもりもありませんでした。

 人々は考えました。どうすれば彼を神の供物として捧げられるだろうか。信仰が強くても、死にたくない村民は、騙し討ちをして青年を捕まえると、そのまま木に縛り付けました。

 青年はどうして自分がこんな目に遭わなければならないのかわかりませんでした。口からこぼれたのは、村民への恨み節ばかりでした。

 そんな青年の死に際に、村の村長が言いました。

 

「お前がこうなったのは、人に必要とされないような行いをしていたからだ。人を敬い、思いやり、恩を忘れぬように過ごしていれば、こうはならなかった。」

 

 青年はひどく後悔しました。もっと違う最期を迎えられたかもしれないと。

 青年の死後、しばらくすると村に雨が降り始め、今まで育たなかった作物がすくすく育ち、大きくなり、たちまち村は豊かになりました。

 願いが届いたのだと、村人たちは大喜びでした。

 ふと、村長が青年のことを思い出し、感謝を伝えるべく、青年の死に場所へ向かいました。しかしそこには、青年が着ていた服も、骨すらも残っていなかったのです。

 功績を讃える意味も込め、村長は青年の没地に神社を立てました。その神社は、五穀豊穣を願う稲荷神が祀られているのだそうです。

 この頃から、この村は三柱の神に護られていると考えられ、三柱村(みはしらむら)という名前がついたそうです。


 そして、その妖を閉じ込めた祠は今——


「やっば。」


 頭に包帯を巻き顔の青ざめた少年の足元に扉が落ち、苔むした屋根が歪み、札が剥がれているのでした。

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