幕 間
フェンリルは警戒していた。
自身が誕生した土地に何者かが不穏な空気を纏って侵入してきたからだ。
それは人間ではない。
匂いからして同族である事は分かるが肌に感じる感覚は別の生物だと本能が叫んでいる。
近づくにつれて異臭が漂い、思わず息を止めてしまう。
そうしてソレが視界に入る。
ソレはフェンリルが住まう土地でも存在する同族だった。
しかし違う。
匂いも、見た目も、身に纏う魔力もすべてがフェンリルの知ってるソレと大きくかけ離れている存在だ。
「・・ふん。 お前がこの神域の主だな」
ソレの足元から声が聞こえた。
言葉は分からない。
ただ人間が発する声とよく似た物だと理解する。
だが、フェンリルは人間だと気づくのに少し時間がかかった。
その人間から何も匂いがしないからだ。
「種族が違っても、言葉が理解できなくても、俺の意志は伝わるな。 神域の主よ」
その人間はゆっくりとした足取りでフェンリルに近づく。
フェンリルは人間であろう存在を警戒して唸り声をあげるが、その人間は臆する事もなく歩みを止めない。
「神域の主よ。 俺に協力しろ。 そうすれば俺達は世界を覆す事ができる」
人間の言葉は理解できない。
人間の意志は理解できない。
それでも、フェンリルはこの人間が危険な存在であると認識した。
大地が震える遠吠えを上げる。
油断はない。
最初っから魔力を限界にまで上げて全力で攻撃を仕掛けた。
その姿は正にランクA相当の強力な魔物。
どれほどの冒険者が集まろうと一蹴してしまうほどの魔力量を簡単に押し上げてしまった。
そして、敵視を向けられた人間は愕然と肩を落とした。
「・・・やはり、お前も俺達を侮辱する側なのだな」
それから、ある土地の神域が消滅した事をギルドは冒険者の報告によって知る事になる。
その神域は自然豊かで魔物が住まう土地にしては珍しい清潔な場所だったが、魔物同士が争った痕跡と共に、神域は枯れ果てた土地へ変貌していた。